第12話:前進
朧月:「第12話:前進」を4000字以内で執筆してください。
ゆっくりとだが確かに成長していた。
それは煌々と輝く力強い光の魔法として眼の前に現れた。
裏庭で洗濯物を干していた母親も目撃し、アルトは思わず母親の胸の中で声を出して泣いた。
泣いているところに帰ってきた何も知らない妹は、アルトの評価を下げた。
☆----☆
アルトは裏庭に立ち、両手のひらを前に突き出して、静かに目を閉じていた。
魔力の流れを感じ取ろうと、深く呼吸を整える。
心を落ち着け、内側から力を引き出す感覚に集中する。
「焦らずに、少しずつ……自分を信じるんだ……」
セリアの言葉と、昨日のガレンとの出会いが頭の中で重なる。
自分には力がある、それを信じることが大切だ。
焦る必要はない、今はただ少しずつ進めばいい。
アルトはゆっくりと魔力を集め、両手に流し込んでいく。
今までは、魔導具に頼らなければ安定しなかった力が、今では自分の内側から自然に湧き上がるように感じられる。
それはまだ不安定だが、確かに自分のものだと感じられた。
「今度こそ……」
目を開けた瞬間、両手の間に小さな光が現れた。
それは以前のようにか弱い光ではなく、煌々と輝く、力強い光の球だった。
光はふわりと浮かび上がり、周囲を淡い輝きで包んでいる。
その美しさと力強さに、アルトは息を飲んだ。
「……やった……!」
アルトは思わず笑みを浮かべた。
これまで何度も失敗し、無力さを感じていたが、ようやくその壁を越えることができた。
この光は、自分の力の証だ。
自分が成長していることの証明だ。
セリアがそばで見守っているのを感じながら、彼はしばらくその光を見つめ続けた。
だが、ふとした瞬間、遠くから物音が聞こえた。
アルトが驚いて振り向くと、裏庭で洗濯物を干していた母親のリナが立ち尽くしていた。
彼女は目を見開き、驚きと感動の表情で息子を見つめていた。
「アルト……これ、本当にあなたが?」
アルトは何も言えなかった。
母親が驚くのも無理はない。
今まで何も成し遂げてこなかった自分が、今この瞬間にこんな光景を生み出していることに、自分自身でも驚きを隠せない。
「……うん、僕がやったんだ……」
アルトは震える声で答えた。
自分の力で魔法を発現させた。
それが母親の目の前で証明されたことに、胸がいっぱいになり、言葉が出てこなかった。
その時、突然胸の奥から込み上げてくる感情が抑えられなくなった。
ずっと押し込めていた孤独、無力感、そして自分が何もできないと感じ続けていた長い年月の重圧が、全て解き放たれるように溢れ出した。
「……僕……できたんだ……」
アルトは泣き崩れた。
涙が頬を伝い、止めどなく流れ落ちる。
これまでの自分のすべてが崩れ去り、ようやく初めて自分を信じることができた瞬間に、心の奥底で眠っていた感情が一気に噴き出してきた。
「アルト……」
リナはすぐに駆け寄り、アルトを抱きしめた。
彼女の腕は温かく、ずっと感じられなかった母の愛が、その瞬間に息子を包み込んだ。
アルトは、その胸の中で声をあげて泣いた。
まるで幼い子供のように、母親のぬくもりを感じながら泣き続けた。
「よく頑張ったのね、アルト……大丈夫よ、もう無理しなくていいのよ……」
リナは優しく息子の背中をさすりながら、穏やかに語りかけた。
アルトがここまでたどり着くまでにどれほどの苦労をしてきたのか、母としてすべてを理解していたわけではないが、今はただ息子の努力を労い、彼の涙を受け止めることしかできなかった。
アルトは母の胸に顔を埋め、しばらく泣き続けた。
これまで抑えていた感情が、すべて解放されるように。
母のぬくもりの中で、自分がようやく一歩を踏み出せたことを実感し、涙が止まらなかった。
----
その時だった。
家の扉が開く音が聞こえ、ミアが帰宅した。
「ただいまー……って、え? 何してるの?」
ミアは裏庭に出ると、母親に抱きしめられて泣いているアルトの姿を見て、眉をひそめた。
いつもとはまったく違う光景に、彼女は困惑したような表情を浮かべ、しばらく立ち止まっていた。
「お兄ちゃん……また何かやらかしたの?」
その冷たい言葉が、アルトの心に冷水を浴びせかけたように感じられた。
彼は母親の胸の中で泣き続けていたが、妹の声に反応して少しだけ顔を上げた。
「ミア……」
ミアはため息をつき、腕を組んでこちらをじっと見つめていた。
その目には同情の色はなく、ただ冷静に、どこか呆れたような視線がアルトに向けられていた。
「ほんと、何やってんの……お兄ちゃん、何も変わってないじゃない」
彼女はそう言い捨てると、足早に家の中へと戻っていった。
彼女にとっては、アルトが泣いているというだけで、何も変わっていない証拠だと思えたのだ。
たとえ兄が魔法を成功させていたとしても、その感情的な姿を見れば、彼女の目には成長が見えなかった。
「ミア……」
アルトは再び俯き、母親の胸の中に顔を埋めた。
妹の冷たい言葉が、今はひどく胸に突き刺さる。
それでも、彼は母のぬくもりの中で、もう一度涙を流すことしかできなかった。
「大丈夫よ、アルト。 あなたはちゃんと成長してる。 お母さんはちゃんと見てるから……」
リナは優しく語りかけながら、アルトをしっかりと抱きしめ続けた。
彼女には、アルトがどれだけ成長しているかがよく分かっていた。
息子がどれだけの努力をして、今この瞬間にたどり着いたのか、母親としてその一部始終を感じ取っていたのだ。
アルトは母の言葉に少しだけ安心し、涙が止まらないまま静かに深呼吸をした。
妹の冷たい言葉にもかかわらず、母親の優しさに包まれることで、ようやく自分の心が落ち着きを取り戻していくのを感じた。
「僕、少しずつ……少しずつ前に進んでるんだよね……」
アルトはそう自分に言い聞かせ、ようやく泣き止むことができた。
涙を拭いながら、彼は静かに母親から離れ、もう一度自分の手のひらに光を灯す準備をし始めた。
「そうよ、アルト。 あなたはちゃんと前に進んでいるわ。 これからも、自分を信じて進んでいけばいいの」
母親の言葉が、アルトの心に力強く響いた。
☆----☆
お読みいただきありがとうございます!
単に18歳の男が母親に泣きついてる場面だけ見たら、まぁミアの気持ちも分からなくもないかなぁ……とは思う。
ただ、ミアの言動や態度を放置し続ける親も親なんだろうね、うーむ。
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