第11話:出会2

 朧月:「第11話:出会2」を4000字以内で執筆してください。

 アルト視点に戻ります。

 翌日、魔法の特訓を終えて一息ついていた時、裏庭に面した道から覗いている男が居た。

 彼は魔法使いとして冒険者をしているらしく、話を聞くことができた。

 魔法使いの言葉、セリアの言葉、どちらも大切に噛み締めて前を向く。

 心の中でなにかがカチリと噛み合う音がした。



 ☆----☆


 朝から魔法の訓練に励んでいたアルトは、裏庭の一角で少し休憩を取っていた。

 自分の手のひらに魔力を集中させ、小さな光の球を浮かばせることには成功したものの、まだその大きさや明るさは満足のいくものではなかった。

 セリアの助言に従い、少しずつ進歩していることは感じていたが、それでも自身の限界が見える度に、心が折れそうになることもあった。


「やっぱり、まだまだか……」


 そう呟きながら、彼は深く息を吐き出した。

 魔法の発現に集中することは、単に力を出すだけではなく、自分の内面と向き合う作業でもあった。

 少しずつ成長しているのは確かだが、その過程で自分の弱さや不安も一緒に浮き彫りになってくる。


「でも、焦る必要はない。 今は自分のペースでいいんだ」


 セリアの言葉を思い出しながら、アルトは自分に言い聞かせた。

 彼女はいつも冷静で的確な助言をくれる存在であり、その言葉に救われてきたのも事実だ。

 まだ足りない力に対して焦りを感じてしまう自分にとって、セリアの冷静な声はいつも自分を落ち着かせてくれる。


 ふと、何か視線を感じた。

 アルトは顔を上げて、裏庭に面した道の方を見た。

 そこには一人の男が立って、こちらをじっと見ていた。

 男は長いローブをまとい、杖を手にしている。

 その風貌は、一般的な農民や町人とは異なり、まるで冒険者のような雰囲気を漂わせていた。


「誰だ……?」


 アルトは少し身を引きながら、警戒するようにその男を見つめた。

 男は、アルトの視線に気づくと、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

 彼の顔には微笑が浮かんでおり、敵意は感じられなかったが、その存在感は異質だった。


「おい、君。 今、魔法を使ってたのか?」


 男の声は低く穏やかだったが、その中には確かな力が感じられた。

 アルトは戸惑いながらも、素直に頷いた。

 見知らぬ相手ではあったが、嘘をつく必要もないと感じたからだ。


「はい、少し練習していました。 でも、まだうまくいかなくて……」


 男はアルトの答えを聞くと、満足そうに笑い、彼の前にしゃがみ込んで目を合わせた。


「そうか、なるほど。 君、なかなか面白いことをしてるじゃないか。 私の名前はガレン。 魔法使いとして冒険者をやってるんだ。 君は魔法使いを目指してるのか?」


 ガレンと名乗る男は、まるで興味深いものを見つけたかのようにアルトを見つめていた。

 アルトは少し緊張しながら、目の前の男がただ者ではないことを感じ取っていた。

 彼の纏う雰囲気からして、ただの通りすがりではない。

 何かを持っている男だ。


「僕は……まだ、魔法をうまく扱えないんです。 でも、少しずつ練習してて……」


 アルトは正直に答えた。

 自分がまだ半人前であることはわかっていたし、彼の前で背伸びをするつもりはなかった。


「そうか。 君みたいな若者が自分で魔法を習得しようと頑張っているのを見ると、昔の自分を思い出すよ」


 ガレンは懐かしそうに語りながら、アルトに目を向けた。

 その視線には優しさと鋭さが同居しているようで、アルトは自然と引き込まれるように話を聞いていた。


「魔法はね、力をただ引き出すだけではないんだ。 もっと奥深いものがある。 自分の心と向き合い、それを形にすることができなければ、本当の意味での魔法使いにはなれない。 君は今、その一歩を踏み出したばかりだろう?」


 その言葉に、アルトはハッとした。

 確かに、自分が魔法を使うことを通して感じていた不安や葛藤は、まさに「自分との対話」そのものだった。

 魔法の力を引き出すためには、まず自分自身を理解し、制御する必要がある。

 セリアがいつも言っていた「自分を信じる」という言葉の意味が、少しだけわかった気がした。


「……そうかもしれません。 僕は、まだ自分を信じることができていないんだと思います」


 アルトは正直な気持ちを口にした。

 自分の中に眠る魔力は感じ取れるものの、それを完全に引き出し、制御するには、まだ自分の心がついていっていないのだと痛感していた。


「それでいいんだよ。 焦る必要はない。 魔法は生涯をかけて追求するものだ。 君が今抱えている不安も、成長するための大事な過程だと思えばいい。 だから、自分を信じて、少しずつ進んでいくことが大切だ」


 ガレンの言葉は、アルトの心に染み込むようだった。

 彼が言っていることは、これまでセリアが語ってくれていた言葉と同じだったが、実際にこうして生きた冒険者から聞かされると、より実感が湧いてきた。


「魔法使いとして生きる道は、決して楽ではない。 だけど、自分の力を信じて前に進んでいけば、必ず結果がついてくる。 君はその最初の一歩を踏み出したばかりだ。 あとは歩み続けることが大事なんだ」


 ガレンはそう言って、立ち上がった。

 彼はもう一度、優しく微笑み、アルトの肩に手を置いた。


「君は、きっと強くなれる。 焦らずに、自分のペースでな」


 その言葉に、アルトは自然と頷いた。

 これまでの自分にはなかった感覚が胸に広がっていく。

 自分はまだまだ未熟だが、それでも確実に前に進んでいるという実感が、少しずつ芽生えていた。


「ありがとうございます、ガレンさん……僕、もう少し頑張ってみます」


 アルトの言葉に、ガレンは満足そうに頷き、そして杖を肩に担いで軽やかにその場を去っていった。

 彼の姿が遠ざかっていくのを見送りながら、アルトは深く息を吸い込んだ。


「……僕は、前に進める」


 セリアの声も、ガレンの言葉も、どちらも心の中に深く響いていた。

 自分が今どれだけの力を持っているかは関係ない。

 大事なのは、自分を信じて進むことだ。

 そのことを、今は確かに理解できた。


 心の中で、何かがカチリと音を立てて噛み合うような感覚があった。

 迷いが晴れ、少しずつだが、自分の進むべき道が見え始めている。

 まだ目に見える結果は小さくても、その積み重ねが大きなものへと繋がるのだろう。


「セリア……僕、前に進んでみるよ」


 アルトは小さく呟きながら、再び自分の手のひらに魔力を集中させた。

 セリアの姿は見えなかったが、彼女がそばで見守っていることを感じながら、もう一度魔法の訓練に向き合う準備を始めた。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 ガレンさん勝手に敷地に入ってきてるじゃないですかやだー(棒)

 実際同じ言葉でも、それで何かを成していたり実践している人の言葉の方がスッと心に入ってくることってありますよね。

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