転生の灯火と精霊の軌跡

第10話：回想

　朧月：「第10話：回想」を4000字以内で執筆してください。

　この話はセリア視点になります。

　アルトとの出会いからジークとの遭遇までを回想し、改めて決意を固める。

　最後にアルトに対し、今後のことについて静かに口を開く。

　☆－－－－☆

　セリアは、空に漂う雲を眺めながら静かに思索にふけっていた。

　目の前で何もせず歩いているアルトの姿が、彼女の視界に入る。

　彼の表情はいつもどおり暗く、どこか自信を失っているように見える。

『アルト……』

　彼との出会いを思い返すたび、セリアは心の奥で何かがざわつくのを感じていた。

　彼は、これまで出会ったどの人間とも異なる存在だった。

　知識の精霊である自分にとって、人間たちの知識や経験をサポートすることは慣れていたが、アルトの内面には一種の深い闇があった。

　それは彼の過去に根差したものであり、容易には癒えない傷のように思えた。

　アルトとの出会いは、偶然の産物だった。

　彼があの古びた魔法の書物を手にしたことで、自分が彼のもとに呼び出された。

　アルトの瞳に映る、自信を失った姿を目にした時、自分が彼をどう助けられるのか、正直なところセリアは戸惑いを感じた。

『彼は、自分を信じていない……』

　初めて会った瞬間から、アルトの心には深い傷があることを感じ取っていた。

　彼の内面は、暗い孤独と自己否定に包まれていた。

　それでも、彼の中に眠る潜在能力と、知識への渇望は確かに感じ取れた。

　それが、彼がこの世界で魔法に触れ、力を得ようとしている理由なのだろうとセリアは理解していた。

　それ以来、彼のそばに寄り添い、少しずつ彼の力を引き出してきた。

　アルト自身が努力し、魔法の小さな一歩を踏み出した時、彼の目に少しだけ光が宿った。

　それは小さな変化でありながらも、セリアにとっては確かな進歩の証だった。

『彼は成長している。　だが、それを自分で感じ取るには、まだ時間がかかるだろう……』

　セリアは、アルトがいかに自分を信じていないかをよく知っていた。

　彼が魔法を発現した時も、彼はそれを「小さすぎる」と言い、自分には価値がないと思い込んでいた。

　セリアはその度に彼を支え、少しずつ自分の力を信じるように導いてきた。

　しかし、アルトの心にはまだ大きな壁が残っている。

　そして今日、彼がジークに遭遇した時のことを、セリアは改めて思い返していた。

　ジークという男は、アルトにとって昔からの厄介な存在だ。

　彼の口の悪さは、アルトの心を鋭く傷つける。

　ジークがアルトに向けた冷たい言葉が、まるで毒のように彼の心に染み込んでいくのを、セリアは傍で感じ取っていた。

（アルト、どうして何も言い返さない……）

　セリアは、心の中でそう呟いた。

　彼が言い返すことを恐れていることも、自分がジークに対して無力だと思っていることも、すべてわかっていた。

　それでも、セリアは彼のそばで見守り、彼が立ち直るのを待つしかなかった。

　その時、ふと感じた妹ミアの存在。

　彼女の無言の視線がアルトに向けられた瞬間、セリアはミアの心の中で何かが決定的に固まったのを感じた。

　ミアは、アルトが何も変わっていないと思い、見限るような態度をとって去っていった。

『……やはり、家族ですら彼の変化に気づいていないのか』

　セリアは、家族との関係がアルトにとってどれほど重荷になっているかを理解していた。

　彼の過去の経験が、家族の中で孤立させられた結果として、今の彼の自己評価に大きな影響を与えているのだろう。

　妹が何も変わらないと思い込むのも無理はない。

　それでも、セリアにはアルトの変化を見守り続けるしかできなかった。

『アルト、今こそ、自分の力を信じるべきだ……』

　セリアはそう決意を新たにした。

　彼の中に潜む力は、まだ完全に開花していない。

　けれども、確実に彼は変わりつつある。

　それを引き出すのが、セリアの役目だと再確認したのだった。

　－－－－

　その日の夜、アルトはベッドに横たわり、天井を見つめていた。

　ジークとのやり取りが頭をぐるぐると巡っている。

　彼の口から投げかけられた言葉、そしてそれに対して何も言い返せなかった自分。それが、どれだけ悔しく、虚しく感じたことか。

「やっぱり、僕は何も変わってない……」

　彼はそう呟くと、胸の中に広がる無力感に押しつぶされそうになっていた。

　だが、ふと耳元でセリアの静かな声が聞こえた。

『アルト……』

　彼は少し驚き、横を向くと、セリアがいつものように静かに浮かんでいた。

　彼女の表情は穏やかでありながらも、どこか真剣なものが感じられた。

『今日、ジークとの遭遇があなたにどれほどの痛みを与えたか、私はよく分かっています。　でも、アルト、あなたは変わり始めているんです。　まだそれに気づいていないかもしれませんが、確実に一歩ずつ前に進んでいます』

　セリアの言葉に、アルトは少しだけ顔をしかめた。

　彼自身には、そんな実感はなかった。

　ジークの言葉に何も言い返せず、ただ立ち尽くすことしかできなかった自分が、どうして成長しているのか理解できなかった。

「でも……何もできなかった。　何も言い返せなかったんだ。結局、僕は……」

　アルトが言いかけたところで、セリアが静かに首を振った。

『それは、今のあなたがまだ自分の力を信じ切れていないからです。　魔法を使えるようになったことは、確かに小さな一歩です。　でも、それだけではありません。　あなたの心の中にも、少しずつ変化が訪れている。それを見失わないでください』

　アルトは、セリアの言葉に耳を傾けながらも、どこか疑念が残っていた。

　しかし、セリアの言葉には不思議と力があり、その冷静で優しい声が、彼の心に静かに染み込んでいった。

「……僕は、変われるのかな？」

　アルトは弱々しく問いかけた。

　自分自身に対する自信はまだ芽生えていない。

　けれども、セリアが彼を信じていることだけは感じ取れた。

『あなたなら、きっと変われます。　私はそれを信じています。　これからもあなたのそばで、力を引き出す手助けをします。　だから、恐れずに一歩ずつ進んでいきましょう』

　セリアの言葉に、アルトは少しだけ安心感を覚えた。

　自分がどれほど弱くても、彼女がそばにいてくれる限り、少しずつでも前に進むことができるのかもしれない。

「……ありがとう、セリア」

　アルトは、そう小さく呟くと、深く息を吐いて目を閉じた。

　彼の胸の中には、まだ大きな不安が残っていたが、それでも少しだけ前を向ける気がしていた。

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　お読みいただきありがとうございます！

　全ての文章生成が終わってから第1話を投稿してるんですが、個人的にセリアが一番好きなんですよね。

　メインヒロインは特に設定していませんが、セリアは私の心のメインヒロインだと思ってます。