第7話:二人

 朧月:「第7話:二人」を4000字以内で執筆してください。

 この話は父親視点になります。

 妻と二人、娘と息子が寝静まった頃に息子の未来について希望に満ちた話をします。



 ☆----☆


 夜が静けさを増し、家族全員がそれぞれの部屋で眠りに就いている頃、アルトの父、ガレルは居間の椅子に腰を下ろし、深い溜息をついた。

 妻のリナが台所で片付けを終え、静かに彼の隣に座った。

 いつものように、一日の終わりに二人で少し話をする時間だ。

 娘も息子も寝静まったこの時間が、ガレルにとっては家の中で一番落ち着く瞬間だった。


 しかし、今夜はいつもと少し違うものがあった。

 息子、アルトのことがガレルの頭から離れない。


「今日も、アルトは裏庭で何かしていたようだな」


 ガレルがぽつりと呟くと、リナが静かに微笑んだ。


「ええ、そうね。 最近よく外に出てるわ。 何かに夢中になってるみたい」


「何か、か……」


 ガレルはそう言ってから、しばらく沈黙した。

 アルトが何をしているのか、彼はおおよそ把握していた。

 最近、アルトが少しだけ魔法を使えるようになったことを、息子自身から聞いていたのだ。

 それに対して、どう反応すべきかをずっと考えていた。


「リナ、お前はアルトが魔法を使っていること、どう思う?」


 ガレルは静かに尋ねた。

 彼自身も魔法が使えない平凡な人間であり、魔法の力がどれほど貴重で、そして危険を伴うものかは理解している。

 息子が魔法を扱うことに対して、少なからず不安を抱いていることは否定できなかった。


「最初は驚いたけれど……」


 リナは、少し迷ったような表情を浮かべた。


「でも、アルトは自分でその力を手に入れたのよね。 誰かに強制されたわけじゃなく、彼自身が成長しているのだと思うの」


 その言葉に、ガレルはゆっくりと頷いた。

 確かにアルトは以前とは違う。

 父親として、息子がこれまで内向的で何事にも積極的になれない性格を見てきた。

 地球での生活が彼に何をもたらしたのか、ガレルには知る由もないが、少なくともこの異世界での生活は、アルトを少しずつ変えているのだ。


「そうだな。 アルトは確かに変わりつつある。 けれど、魔法は……魔法は並大抵の力じゃない。 彼がそれを扱うには、もっと強くなる必要がある。 それを教えてやるのが俺の役目だろうか……」


 ガレルはそう呟きながら、自分の中に抱える父親としての責任を感じていた。

 彼は魔法使いではない。

 だから、魔法に関してアルトをどう導けばいいのか、迷っているのだ。

 自分にはその手本を示すことができないという無力感が、ガレルを悩ませていた。


「でも、ガレル。 アルトは自分の力で少しずつ前に進んでいるわ。 私たちが何を教えられるかは分からないけれど、彼が自分で道を見つけようとしているのは確かよ。 あなたがこれまで教えてきたこと、ちゃんと伝わってるわ」


 リナの言葉に、ガレルは再び考え込んだ。

 確かに、アルトが何かを始めたこと、それだけでも大きな進歩だ。

 長い間、何もせずただぼんやりと日々を過ごしていた息子が、今では自分から何かをしようと動いている。

 それだけでも、彼が成長している証だ。


「お前の言う通りだな」


 ガレルは少し微笑んで、リナに目を向けた。


「アルトが自分で動き出した。 それを見守るのが俺たちの役目かもしれない。 あいつが失敗することもあるだろうが、その時は支えてやればいい。 そうだろう?」


 リナも微笑んで頷いた。


「そうよ。 私たちが彼のすべてを導くわけじゃないけど、彼が迷った時、立ち止まった時にはそばにいてあげればいいの」


 二人の会話は、これまでのアルトの成長を振り返るものになっていた。

 ガレルはかつて、自分がアルトにもっと多くのことを教えてやるべきだと考えていたが、今では少し違う考え方を持つようになっていた。

 息子が自分で成長する力を持っているのなら、それを信じて見守るのが、親としての役割なのかもしれないと感じ始めていた。


「そういえば……アルト、少し表情が明るくなった気がするわね」


リナがぽつりと呟いた。


「確かにそうだな」


 ガレルは思わず頷いた。


「あいつが何かを成し遂げたという自信を持つようになったのかもしれん。 魔法のことだって、前に俺に話してきた時、あんなに真剣な顔をしていたのは初めてだった」


 その時のアルトの表情を、ガレルは鮮明に思い出していた。

 小さな光を発現させることができたという話をした時の彼の顔には、明らかに何かが変わり始めていた。

 それは、今まで何かを成し遂げる自信を持てなかった息子が、少しずつ自分の可能性に気付き始めている証拠だった。


「アルトは、これからどうなるんだろうね」


 リナが遠くを見るようにして呟いた。


「分からないな……でも、俺は希望を持っている」


 ガレルはゆっくりと答えた。


「あいつは今、自分で動き出している。 その道がどうなるかは分からないが、自分で進むことができるなら、あいつにはまだ未来がある。 それを信じてやるしかないだろう」


 ガレルの声には、父親としての確信が込められていた。

 自分の息子が変わり始めたこと、それが何よりも嬉しく、誇らしい。

 だが同時に、親として何ができるのかを考え続けている。

 息子が自分の力で成長していくことを願いながらも、その過程で手を差し伸べるべき時を見極めなければならない。


「ガレル、あの子は強いわよ。 きっと乗り越えていけるわ」


 リナの言葉は、優しくも力強いものだった。

 ガレルはその言葉に救われた気がした。

 妻の支えがあってこそ、自分もまた息子を見守ることができるのだ。


「そうだな。 リナ、お前がいてくれてよかった。 俺一人では、とてもこう冷静には考えられなかっただろう」


 リナは小さく笑い、肩をすくめた。


「夫婦ってそういうものよ。 お互いを支え合って、子供たちを見守るの」


「その通りだな」


 ガレルはそう言いながら、リナの手を取った。

 二人で息子の未来を思い描くこの時間は、何よりも大切だった。

 アルトがこれからどう成長していくのか、その道筋はまだ見えていないが、少なくとも彼が前に進み始めたことは確かな一歩だった。


「俺たちは、これからもあいつを見守っていく。 そして、必要な時に手を貸してやればいい。 それが俺たちの役目だ」


 リナも頷き、二人の間に静かな希望が広がった。

 息子の未来はまだ不確かだが、彼が自分で歩んでいける力を持っていることを信じ、二人はその成長を見守る覚悟を新たにした。


「アルトはきっと、大丈夫だわ」


 リナの言葉が、家の中に静かに響いた。


 ガレルもまた、その言葉を心の中で噛みしめながら、息子の未来に向けて静かに希望を抱き続けた。



 ☆----☆


 お読みいただきありがとうございます!


 やっぱり父親はアルトが転生者だって知ってるんですね、描写が無かっただけで。

 そしてそれは心に秘めていて、妻にも話していないってことか……。

 何がきっかけで父親に話すことになったんだろう?

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