第4話:目標
朧月:「第4話:目標」を4000字以内で執筆してください。
終盤に父親と一対一で将来について会話するシーンを入れてください。
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アルトはその日も魔導具を手に、裏庭で魔法の練習をしていた。
セリアの助言に従い、少しずつだが魔力を感じ取り、それを操作する感覚に慣れてきていた。
しかし、依然として自信が持てない。
光の魔法は出せるようになったものの、魔導具がなければ何もできないのではないかという不安が胸に巣食っていた。
「まだこんなもんか……」
彼は溜息をついて手のひらを見つめる。
魔導具を使わなければ魔力を具現化できない自分に、どこか限界を感じていた。
『焦る必要はありません、アルト』
セリアの優しくも冷静な声が彼を包む。
『魔法の修得には時間がかかります。 特に、今まで魔力を意識していなかったあなたにとっては、自然に力を引き出すのに慣れるまで時間がかかるのは当然のことです』
アルトは頷いたが、それでももどかしさが消えなかった。
自分が異世界に転生した理由や、ここで何を成し遂げたいのか、まだはっきりとした目標が見つからないままだった。
セリアがいなければ、自分はただ無目的に日々を過ごすだけかもしれない。
それが、彼を内心で悩ませていた。
「セリア、僕はこの世界でどうすればいいんだろう?」
アルトは半ば独り言のように尋ねた。
彼はまだ、この世界で何を目指すべきかが見えていなかった。
自分が魔法を使えるようになっても、それが一体何の役に立つのかも分からない。
『まずは、自分自身の力を見つけることが重要です』
セリアは静かに言葉を紡いだ。
『力を持っていることに気づいた今、その力をどう使うかを探ることが次のステップです。 目標が定まらないのは、自然なことです。 少しずつ、知識と経験を積んでいく中で、あなたが何を成し遂げたいかが見えてくるはずです』
セリアの言葉には、論理的な説得力があった。
それでも、アルトは自分が今すぐに変われるわけではないことを理解していた。
転生したからといって、劇的に自分が何かを成し遂げられるわけではない。
それでも、彼は一歩ずつ前に進もうと決めていた。
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その夜、アルトは夕食を終えた後、家の居間に一人残った。
妹は早々に自分の部屋に引き上げていたが、彼は考え事をしていた。
自分がこの先どうするべきか、これまで何も決めずにただ流されるように生きてきたが、何かしなければならないという焦りが、今は心の中で膨らんでいた。
そんな時、父親が静かに部屋に入ってきた。
アルトは思わず顔を上げたが、父親はいつものように無表情で、どこか疲れた雰囲気を纏っていた。
「アルト、ちょっと話がある」
父親は簡潔にそう言い、テーブルの前に座った。
アルトは驚きながらも、無言でうなずき、父親の言葉を待った。
「最近、お前は何か考えているのか?」
父親は問いかけるように言ったが、その声には厳しさが感じられた。
アルトは一瞬、答えに詰まった。
自分が何をしているのか、何を目指しているのかを言葉にするのが難しかったからだ。
「……少し、考えてるよ」
アルトはそう言いながら、視線を逸らした。
魔法のことを話すべきか迷ったが、まだ自分でも確信が持てない以上、父親に話すのはためらわれた。
父親はしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。
「お前が何を考えているのかは知らないが、そろそろ自分の将来について真剣に考える時期だ。 いつまでもぼんやりと過ごしているわけにはいかない」
その言葉に、アルトの心に重いものがのしかかった。
地球でも、父親とはこのような話を何度もしていた。
何もできない自分に対して、父親が失望し、叱責することは日常茶飯事だった。
それが、ここでも同じように繰り返されるのかという思いが、アルトの胸を苦しめた。
「……分かってるよ。でも、どうしたらいいか、まだ……」
アルトは力なく答えた。
自分が何をするべきかが分からない。
地球でも同じように迷い、何も成し遂げられなかった。
それが、この異世界でも繰り返されている。
父親はアルトをじっと見つめ、そしてため息をついた。
「アルト、俺はお前に大きなことを期待しているわけじゃない。 ただ、お前がちゃんと自分の足で立って生きていけるようになってほしいんだ」
その言葉は意外だった。
アルトは父親が自分に何か特別な期待をしているのかと思っていたが、どうやらそうではなかった。
ただ普通に、自分で自分を養い、生きていける力を身につけること。
それが、父親の願いだったのだ。
「お前が異世界でどんな力を手に入れたかは知らないが、それをどう生かすかはお前次第だ。 俺はもう、お前に道を示すことはできない。 ただ、お前自身で考え、行動するしかないんだ」
アルトはその言葉に、思わず父親を見つめた。
父親はいつも厳しい言葉でアルトを追い詰めていたが、今の言葉にはどこか寂しさが感じられた。
まるで、自分が息子に何もしてやれないことを嘆いているかのようだった。
「お前が自分で決めた道を進むのなら、それを尊重する。 ただ、しっかりと責任を持って生きろ。 それだけだ」
父親はそれだけを言い残し、静かに部屋を出て行った。
アルトは残された居間で、一人静かに考え込んだ。
父親の言葉は、彼にとって重く響いていた。
これまで何もできなかった自分が、何をすればいいのか。
自分で考え、自分で決めるということが、今の彼にはまだ大きな壁だった。
「セリア、僕は……どうすればいいんだろう?」
アルトは再びセリアに問いかけた。
彼はまだ、答えを見つけられずにいた。
セリアは穏やかな声で答えた。
『まずは、あなた自身の力を信じることです。 目標は一足飛びに見つかるものではありませんが、あなたが成長し、知識を蓄えることで、その答えが見えてくるはずです』
その言葉に、アルトは少しだけ落ち着きを取り戻した。
まだ何もはっきりとは見えないが、それでも一歩一歩進んでいくしかないということは理解していた。
父親との会話を思い返しながら、アルトは心の中で固く決意した。
自分の足で立つこと。
それはこの異世界での新たな目標となるだろう。
そして、そのためにはまず、自分の力を見極め、成長していく必要がある。
「分かったよ、セリア。 少しずつ、やってみるよ」
アルトは静かにそう言いながら、夜空を見上げた。
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お読みいただきありがとうございます!
「お前が異世界でどんな力を手に入れたかは知らないが」って、お父さんはアルトが転生者だって知ってるの?!
そんな描写一切無かったんだけど……(汗)
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