第3話:魔法
朧月:「第3話:魔法」を4000字以内で執筆してください。
終盤に妹を登場させてください。
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アルトは、自分の手のひらに置かれた魔導具をじっと見つめていた。
市場で見つけたこの古びた道具が、まさか本当に「魔法」に関係しているとは、未だに信じられなかった。
魔導具は手のひらに収まる程度の大きさで、表面には複雑な模様が彫り込まれており、ところどころに光る石が埋め込まれている。
まるで、物語やゲームの中でしか見たことのないようなものだ。
「セリア、これ……本当に使えるのかな?」
アルトは不安げに尋ねた。
彼はまだ、自分に魔法を使う力があるとは信じられなかった。
地球での生活では何もできなかった自分が、異世界に来たからといって突然特別な能力を持つなど、夢のような話だ。
セリアはふわりと浮遊しながら、彼の問いに静かに答えた。
『はい、魔導具は使用者の魔力を増幅し、特定の効果を発揮します。 ただし、あなたの魔力がどれほどのものかは、これから試してみる必要があります』
「魔力か……僕にそんなものがあるなんて、正直信じられないよ」
アルトは自嘲気味に笑った。
彼には何も取り柄がないという思い込みが染みついていた。
しかし、セリアはそれに動じず、冷静に続けた。
『誰しも最初はそう思うものです。 しかし、魔法の力は自覚の有無に関係なく、眠っていることがあります。 私があなたを導きますから、一歩ずつ進めばいいのです』
その言葉に、アルトは少しだけ勇気を得た。
セリアの知識と理論に裏打ちされた言葉は、何もできない自分でも少しは可能性があるのではないかと思わせてくれる。
それでも、何かを始めるのには大きな不安が伴う。
「でも、もし失敗したら……」
『失敗を恐れる必要はありません。 失敗は知識を得るための過程でしかありません。 さあ、やってみましょう』
セリアの声は落ち着いていたが、その中には確固たる自信が感じられた。
アルトは深呼吸をして、魔導具を握りしめた。
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家の裏庭に出ると、夕暮れの柔らかな光が周囲を照らしていた。
アルトは静かに立ち、魔導具を見つめていた。
その重さはさほど感じないが、それが持つ力に対する不安が、彼の胸を重くしていた。
『まずは、集中してください。 魔導具はあなたの魔力を引き出しますが、そのためにはあなたが自身の力を意識する必要があります』
セリアはアルトに、魔導具の使い方を丁寧に教えた。
「魔力なんてどうやって……」
『心を静め、内側にあるエネルギーに意識を集中させるのです。 すべての生命体には魔力がありますが、それに気づくことが重要です。 目を閉じて、感じてください』
アルトは、セリアの指示に従って目を閉じた。
心を落ち着けるように深呼吸をし、意識を内側に向ける。
自分の中に何かがあるのか……疑問が尽きないまま、彼はただセリアの声に導かれるように、呼吸を整えた。
しばらくすると、何か小さな感覚が広がっていくのを感じた。
まるで胸の奥からわずかな温もりが広がるような……それは、今まで感じたことのない微細な力だった。
『それが、あなたの魔力です。 今、それを魔導具に流し込みましょう』
アルトは目を開けた。
手の中の魔導具がかすかに光り始めているのに気づいた。
驚きと興奮が胸に押し寄せたが、セリアの言葉に従い、焦らず魔導具に意識を集中させた。
『次は、その魔力をコントロールして具現化させる。 魔法というのは、魔力を物理世界に影響を与える形で操作する技術です。 まずは小さな光を出すことを目標にしましょう』
アルトは息を整え、心の中で強く念じた。
(光を出すんだ……光を……)
その瞬間、魔導具が一層強く輝き、彼の手の中から小さな光の球がふわりと浮かび上がった。驚きのあまり、アルトは一瞬言葉を失った。
「できた……!?」
セリアが静かに微笑んだ。
『ええ、あなたの魔力を使って、光の魔法を発動しました。 これは基本的な魔法ですが、これがあなたの力の第一歩です』
アルトは、光る球体を見つめながら、信じられない気持ちでいっぱいだった。
地球では何一つ成し遂げられなかった自分が、ここで何かを生み出した。
自分が魔法を使えるなんて……今までの人生からは考えられないことだった。
だが、すぐにその光はゆっくりと消えていき、アルトは肩を落とした。
「でも、これが限界か……」
『いいえ、これは始まりに過ぎません』
セリアは冷静に言った。
『あなたの魔力はまだ目覚めたばかりです。 これから少しずつ鍛え、制御できるようになれば、もっと大きな力を発揮できるでしょう』
アルトはそれでもまだ半信半疑だったが、セリアの言葉に少しずつ勇気が湧いてきた。
彼女が信じてくれている以上、自分ももう少し頑張ってみようという気持ちが芽生えていた。
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その日の夜、アルトは家に戻ると、居間で妹と出くわした。
妹は、いつものように無表情で彼を見ていた。
「お兄ちゃん、今日どこに行ってたの?」
アルトは少しだけ戸惑いながら答えた。
「市場に行って、その後は……ちょっと裏庭で時間を過ごしてた」
妹は彼をじっと見つめ、ふっとため息をついた。
「またぼーっとしてたんでしょ。 何かしようとしてるの?」
その言葉には冷たさが混じっていた。
アルトが普段から何もしないことを、彼女は良く思っていないようだった。
「いや、別に……」
アルトは言葉に詰まり、視線をそらした。
彼女に魔法のことを言おうか迷ったが、話したところで信じてもらえないだろうという思いが先に立った。
「どうせ何も変わらないでしょ、お兄ちゃんは」
妹はそう言い捨て、立ち去ろうとした。
その言葉は、アルトの胸に深く突き刺さった。
彼女の言う通りだ。
自分はこれまで何もできず、何も変わらなかった。
今も、少し魔法が使えたからといって、自分が変わるわけではないという現実が重くのしかかっていた。
しかし、セリアの声がアルトの耳に届いた。
『彼女はまだ、あなたの本当の力を知らないだけです。 あなたがこれから成し遂げることを見れば、彼女もきっと考えを改めるでしょう』
アルトはセリアの言葉に少しだけ救われた。
確かに、今はまだ何も成し遂げていないが、それでも自分に少しずつ変化が訪れていることは感じていた。
妹の冷たい言葉に押しつぶされそうな自分を、セリアが支えてくれている。
そのことが、彼にとっての唯一の希望だった。
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部屋に戻り、アルトはベッドに横たわりながら、今日の出来事を振り返っていた。
魔法を使えるという事実がまだ信じられないが、少なくとも自分の中で何かが変わり始めているのは確かだ。
「セリア……これからどうすればいいんだろう?」
『ゆっくりとで構いません。 あなたのペースで、知識を深め、力を鍛えていきましょう。 私はあなたのそばにいます。 そして、必要な時に適切な知識を提供します』
その言葉を聞き、アルトは静かに目を閉じた。
少しずつではあるが、自分が変わり始めていることに気づき始めていた。
「僕でも……変われるんだろうか……」
心の中でそうつぶやきながら、彼は新たな自分を探す旅路へと、一歩踏み出し始めていた。
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お読みいただきありがとうございます!
あれ? 妹ちゃんやっぱりお兄ちゃんのこと置いて行ってたってこと?
しかもちゃんと市場に来てたか見てないってことだよね?w
思うところがあるのかもしれないけど、市場くらい一緒に行ったげてよ……。
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