パワーストーンで魔法を放て！異世界魔法狂想曲

■27 嵐の聖域が彼らを待っている。／ 妖魔王、スライムを進化させる

女神アリスからの指令を受けた零たちは、次なる試練――嵐の王との対決に向け、町に戻り、準備を整えることにした。

嵐の聖域へ向かうには、険しい山岳地帯を越え、その先に待ち受ける敵は、これまでとは比べ物にならないほどの強大さだ。

息を呑むような圧力が彼らを覆い、町での準備がまるで嵐の前の静けさのように感じられた。

町に足を踏み入れると、活気に満ちた市場の喧騒が彼らを包み込んだ。市場は日常の音と色彩で溢れ、賑やかな声と笑いが耳に響く。しかし、零たちの心は重い。まるで周囲の賑わいがどこか遠く感じられるかのように、彼らは目的のために無言で市場を進んだ。

「まずは装備だな。山岳地帯を越えるには、丈夫な防寒具が必要だし、武器も整えておかないと」零は低い声で言ったが、その言葉の奥に潜む焦燥が、ほんのわずかに表れていた。

麻美は少し戸惑いを見せながらも頷いた。「ええ、でも雷や風…それに嵐自体にどう対抗すればいいのか、想像もつかないわ。普通の防具じゃきっと無理よね」

守田はいつもの自信を取り戻し、明るく応じた。「まあ、ここまで来た俺たちなら大丈夫さ。嵐も山も乗り越えてやろう。ただ、油断は禁物だな」その言葉には、彼が抱く不安をかき消すような強がりが滲んでいた。

装備店に入ると、店内にはぎっしりと並んだ鎧や武器が冒険者たちを迎えた。だが、零たちの視線はすぐに特定の一つに釘付けになった。雷を受け流すと言われる特別な素材で作られた防具。金属と革が奇妙な調和を保ち、光を反射するその表面は、まるで雷そのものを映し込むかのようだ。

「これが…」零は手に取ると、驚くほど軽いにもかかわらず、強固な手触りに満足げに頷いた。「この防具なら、嵐の中でも何とかなるかもしれない。だが、肝心なのは心だ。装備がどれだけ強力でも、俺たちが揺らいじゃ意味がない」

麻美も自身に合った装備を見つけた。動きやすさと防御力を兼ね備えた軽装。彼女は笑顔で零を見上げた。「これなら、回復魔法を使うときも動きやすいわ」

守田は重厚な鎧を試着し、肩を回しながら言った。「俺はこれでいい。嵐の王とも正面から戦ってやる」

彼らはポーションや食料などの物資も着実に補充し、市場での最後の準備を終えた。そして、町を出る前、零はふと足を止め、青空を見上げた。だが、その青はすでに遠く、嵐の気配が空の一部を覆っていた。彼は無意識に数珠を握りしめ、深呼吸をする。

「次は、嵐の聖域だ」彼は静かに呟いた。「嵐の王を倒して…俺たちの新たな力を手に入れる」

三人は互いに目を合わせ、言葉は必要なかった。彼らの心には、共通の決意が燃え上がっていた。全ての準備は整い、嵐の王との戦いに向け、彼らは一歩を踏み出した。

広がる草原の先には、荒れ狂う嵐がその姿を現しつつあった。だが、彼らの心に渦巻く嵐こそが、真の試練であることを、彼らはまだ知らなかった。

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妖魔王は、再び手元の水晶をじっと見つめながら、何百回目かのため息をついた。

その目の前では、スライムがぐにゃぐにゃと震え、まるで何が起こるのかを察しているかのように縮こまっていた。スライムたちは、ただの無邪気な魔物かと思いきや、この場面に限っては、あからさまに嫌そうな雰囲気を漂わせている。妖魔王は面倒くさそうに眉をしかめ、水晶をスライムの前に突き出した。

「はい、飲め。進化するかもな。」

スライムはぷるぷると躊躇しながらも、命令には逆らえない。嫌々ながら水晶を吸い込むと、その瞬間、スライムの体がぐっと膨れ上がり、妖魔王が見守る中で変化が始まる。

しかし――

「ぷちっ」

妖魔王の目の前で、スライムは一瞬で破裂した。無残にもその体は飛び散り、妖魔王の顔に少しばかりの粘液がかかった。

「くそ…」

妖魔王はイライラしながら、粘液を拭い、次のスライムを見やった。スライムたちは一斉に身を震わせ、まるで「次は自分じゃないだろうな」とでも言いたげに、小さく縮こまっていた。

「次、お前だ。」

妖魔王は疲れた声で、別のスライムに水晶を差し出した。スライムは明らかに嫌がっている。体を揺らし、なんとか逃げ出そうとしているが、逃げ場はない。観念したように水晶を飲み込むと、再び体が膨張し始める。

「頼むから、適合してくれ…1体だけでも成功すれば、あとは魔石所持が遺伝するからな…」

妖魔王は疲れた顔でスライムを見つめるが、次の瞬間、またもや「ぷちっ」という音が響き渡った。スライムは、無情にも破裂し、その残骸は再び周囲に飛び散る。

妖魔王は深いため息をつき、次々と破裂するスライムたちを無表情で見つめた。嫌々ながらも水晶を飲み込み、破裂するスライムたちは、どこか哀れにも見える。だが、妖魔王には情けをかける気など微塵もない。

ついに3日目、妖魔王の顔には疲労と苛立ちが混じっていた。スライムたちも、その疲れを感じ取っているのか、次々と水晶を飲むのを躊躇していた。

そして、ようやく――

1匹のスライムが水晶を飲み込み、その体がぐっと膨張し始めた。しかし、今までとは違う。体が輝き始め、形が徐々に変化していく。妖魔王は目を見開き、その瞬間を逃すまいと見つめた。

「おお…やっと…」

スライムは膨らみ続け、ついにボススライムへと進化を遂げた。その姿は堂々としており、今までのスライムたちとは全く違う力を感じさせる。

「ふん…これで少しはまともな仕事ができるな。」

妖魔王は、ついに適合したスライムを前に、疲れた顔で微笑んだ。

「こんなもんか。」

妖魔王は肩をすくめ、ようやく成功したボススライムを見上げた。

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