■28 嵐の王との決戦

町を後にした零たちは、広がる草原を越え、嵐の聖域へと続く険しい山岳地帯に足を踏み入れていた。彼らの歩みはゆるやかに、しかし確実に前へと進む。背後に広がる草原の穏やかさが、次第に消え去るかのように、空は灰色に染まり、低く轟く雷鳴が近づく嵐の王の存在を告げている。


「ここから先は、もう嵐の領域だな」零は風に長い黒髪を揺らしながら前方を睨みつけた。手首に巻かれたブレスレットが、雷の気配に反応するかのように微かに震え、心臓が一瞬だけ速く打つ。まるで、すでに嵐の王が彼らを監視しているかのような緊張感が彼の中に広がる。


麻美は不安げに空を見上げた。「この圧迫感…嵐の王がただのモンスターじゃないことが伝わってくるわ。でも、私たちはここまで来たの。引き返すわけにはいかない」彼女の黒い瞳には、決意と不安が入り混じっていたが、そのまなざしは強かった。


守田は岩場の険しさを見つめながら、拳を固く握りしめた。「全て揃えたんだ。装備も、ポーションも、俺たちに勝てない理由はないさ。あとは自分を信じるだけだ」その言葉には自信があふれていたが、心の奥底では嵐の王という名に潜む恐怖を隠そうとしているようだった。


道は険しさを増し、山の空気は一層冷たくなり、風が彼らを押し戻すかのように吹き荒れる。雷鳴が遠くで響き渡り、その度に地面が微かに震える。彼らは、次第に厳しさを増す自然の力を感じながら、一歩一歩を踏みしめて進んでいった。


「風が強い…これは嵐の王の影響だろうか?」零は不安げに眉をひそめ、剣の柄を握り直す。だが、彼の目には揺るぎない決意が宿っていた。


ついに、彼らは嵐の聖域の入り口にたどり着いた。目の前に立ちはだかる巨大な岩の門が、雷に照らされて青白く輝いている。門を越えた先には、何か巨大な存在が彼らを待ち受けていることを感じずにはいられなかった。


「ここが…嵐の聖域か」麻美はその壮絶な景色に一瞬息を呑む。「あの中に入ったら、もう戻ることはできないわね」


零はブレスレットを握りしめ、再び前方を見据えた。「俺たちは戻らない。嵐の王を倒して、この世界を守るんだ。それが俺たちの使命だ」


守田も零の言葉に力強く頷いた。「どんな嵐でも、俺たちなら乗り越えられるさ」


彼らはついに嵐の聖域へと足を踏み入れた。その瞬間、周囲の空気が一変した。強烈な風が彼らの体に吹きつけ、霧が立ち込める。視界がぼやけ、彼らの緊張感は頂点に達した。


門を越えた先には、古代の遺跡が広がっていた。荒れ果てた大地には草が生い茂り、石碑や壊れた建造物が散らばっている。薄暗い空には、常に雷が走り、嵐の王の存在がこの場所を支配しているかのようだった。


「ここに本当に嵐の王がいるのか…」麻美は周囲を見渡し、恐怖と興奮が交錯する表情を浮かべた。


「感じ取れ…嵐の王の存在を」守田は落ち着いた声で言い、目を閉じた。


その時、雷鳴が轟き渡り、空が割れるような光が彼らの前方に走った。彼らは一斉に顔を上げ、その瞬間、空気が変わった。まるで嵐そのものが命を持ち、彼らに迫ってくるかのようだった。


「来たか…嵐の王が、俺たちを迎えに来た」零は剣を構え、雷のエネルギーを呼び覚ます。ブレスレットが光を放ち、彼の体には電気が走り始めた。まるで嵐が彼の中に宿るかのように。


青白い光が空を引き裂き、嵐の王の姿が徐々に現れ始めた。その巨大な体は、まるで空気と風そのものから生まれたかのようで、彼の周囲を雷が踊っている。風が唸り、彼の存在が大地を震わせた。


「貴様らが、私を倒しに来たのか」嵐の王の声は低く、地響きのように重く響き渡った。その瞳には、無限の力と冷徹な意志が宿っていた。


「俺たちは、貴様を封じ込めるために来た!」零は剣を握りしめ、一歩前へと踏み出した。だが、その瞳には微かな緊張が隠されていた。


嵐の王は冷笑を浮かべ、「この嵐を制御できるとでも思っているのか」と言い、雷を呼び寄せた。その瞬間、嵐が彼の体を包み込み、周囲に雷が走り出す。


「来い…俺たちの力を試してやる!」零は自らの雷の力を解き放ち、嵐の王に立ち向かう決意を固めた。


嵐の王との壮絶な戦いが、今まさに始まろうとしていた。大地が揺れ、空が裂け、力強い雷と風がぶつかり合う中、三人の冒険者は彼らの命をかけて、嵐の王に挑んでいく。




読者への暗号→【る】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る