■23  雷撃のドラゴン視点 / 妖刀の鍛冶職人

雷撃のドラゴンは、天空を駆ける風そのもの、雷の鼓動そのものだった。

妖魔王から命を受け、千年にわたりこの地を支配し、その眼下に広がるすべての生き物は彼の前にただひれ伏すしかなかった。

嵐が巻き起こるたびに、彼の心臓が雷鳴と共に脈打ち、その巨体を覆う青白い稲妻が、空を裂いて地を焦がした。

雷撃のドラゴンは、自然の力を掌握している存在、雷そのものであり、妖魔王以外のどんな力も彼に抗うことなど不可能だった。


そんな彼が、初めて感じた――目の前に立ちはだかる者たちの脅威を。


下界に広がる砂漠の中、三人の小さき存在が雷鳴の下で立ち尽くしていた。



「この小さき者どもが…我が前に立ち向かうつもりか…?」

高らかに吠え、空気が震えた。

青白い稲妻が全身を駆け巡り、その瞬間、空を裂くような閃光が彼の巨体から放たれた。

雲の頂から吸い上げた雷の力が、その体に集まり、一瞬にして周囲を覆った。大地が震え、空気が歪むほどの力が、彼の周囲に脈動していた。


その時、零が前に出て、彼の体を赤い炎が覆い尽くした。

「俺たちは、魔石の力でお前を倒す!」彼は強く叫び、ブレスレットに宿る炎の力が彼の体中に広がっていく。


次の瞬間、燃え盛る火柱がドラゴンに向けて放たれた。


「小癪な…」

雷撃のドラゴンは、その攻撃を一瞬で見抜いた。稲妻の力を纏った彼の巨体は、炎の衝撃に一瞬だけ揺れたが、次の瞬間には雷の力でそれを押し返した。零の炎は強力だったが、雷撃のドラゴンにとってはまだ及ばない。しかし、その瞬間の背後から、麻美が風の刃を放ち、守田が強化した力で一撃を加えた。三人の攻撃が一体となり、嵐の中に風と火が交錯しながら襲い掛かった。


「人間ごときが…!その力、見せてもらおう!」


雷撃のドラゴンはその巨体を空中で大きく広げ、雷を引き寄せた。空から青白い稲妻が彼の体に吸い込まれ、巨大な翼が雷の光で輝き、次の瞬間、その翼から雷の奔流が放たれた。雷が地面を焼き尽くし、三人に迫る。麻美の風は一瞬その雷を押し戻そうとしたが、自然の力を前に、その刃は瞬く間に消え去った。


「避けろ!」零の叫びが響き渡り、彼らは間一髪で雷の激流をかわした。


雷撃のドラゴンはその様子を見て、稲妻のごとき速さで彼らに迫る。大きな翼で一撃を与えるため、全力で空を駆けた。しかし、彼の目に捉えたのは――零たちの魔石のブレスレットが再び光を放ち、次の魔法を放つ準備をしていることだった。


「炎よ、再び燃え上がれ!」零は力強く詠唱し、再び巨大な火柱を放った。守田がその火に呼応するかのように拳を打ち下ろし、麻美の風がそれを加速させた。炎と風が一体となり、雷撃のドラゴンに突き刺さった。


「この程度では、我を倒すことなど不可能だ!」


雷撃のドラゴンは全力でその攻撃を跳ね返すため、雷のエネルギーを一気に吸い上げ、雷のバリアを体に纏った。巨大な雷鳴が響き渡り、辺りは雷光に包まれた。しかし、零たちの攻撃は止まらなかった。彼らのブレスレットが再び強い輝きを放ち、その力が彼らを支えている。


「何度攻撃しようと、無駄だ…!」


ドラゴンは巨体を翻し、彼らに向かって再び雷の猛攻を仕掛けた。大地が裂け、空気が引き裂かれる音が響き渡る中、零たちはその攻撃を耐え続けた。だが、雷撃のドラゴンはついに気づき始めた。彼らの攻撃には、単なる力のぶつかり合いではなく、魔石との共鳴があることを。


「こやつら…魔石の力を引き出しているのか?人間ごときが…!」


その瞬間、零たちの攻撃が一斉にドラゴンの翼に直撃し、その巨体がわずかに揺れた。麻美の風、守田の強化、そして零の炎――その力が次々にぶつかり合い、雷撃のドラゴンの動きを鈍らせた。


「この人間どもが…!」

雷撃のドラゴンは決して諦めることはなかった。稲妻の力を体中に集中させ、再び雷を放とうとしたその瞬間、零が叫んだ。


「今だ!全力で攻撃を!」

麻美の風が刃となり、守田の拳がドラゴンに叩きつけられ、最後に零の炎がドラゴンの体を焼き尽くした。その衝撃により、空間が揺れ動き、雷撃のドラゴンはついにその動きを止めた。


「ありえない…!この我が、倒されるだと…!」


雷撃のドラゴンは、無限の雷の力をもってしても、零たちの前に屈することを悟った。彼らの魔石の力、その共鳴が、自分を凌駕するものとなった瞬間だった。彼は、かつて自分が支配していた空間に、静かに崩れ落ちていく。


「人間ごときが…ここまでの力を…魔石を使いこなしているというのか…」


雷撃のドラゴンは、最後にその言葉を残し、大地へと崩れ落ちた。

その巨体が沈黙する中、三人はその輝く魔石を手に入れ、次なる試練に備える決意を固めた。


こうして、雷撃のドラゴンは、自らの力を超えた魔石の共鳴により討たれたのであった。


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「妖刀の鍛冶職人」


異世界ルナリアの山奥にある小さな村。

その一角には、クレンという名の鍛冶職人が静かに暮らしていた。

彼は、ただの鍛冶職人ではない。

魔石を用いて妖刀を作り出すことで知られており、彼が鍛える刀には、魔石をはめ込むか、魔石のブレスレットを装備している者が使うと、特別な力を発揮するという評判があった。


クレンの工房は、村の外れにひっそりと佇み、冒険者や魔導士たちが訪れるとき以外はほとんど人が来ることはない。だが、彼が作る刀を求める者たちは後を絶たなかった。それは、彼の作る刀が他にない力を秘めていたからだ。


朝早くから、クレンは炉に火を入れ、鉄を叩く音が工房に響いていた。彼の動きは無駄がなく、一つ一つの工程を丁寧にこなしていく。妖刀を作るためには、まず刀の形を整えるところから始める。そして、それに適合する魔石を選び、はめ込むか、ブレスレットを使うことで、その刀は初めて真の力を発揮するのだ。


「今日の依頼は、雷の力を持つ刀か…」クレンは依頼書を見ながら、手元に置かれた魔石を見つめた。淡い青い光を放つその石は、雷の力を秘めた魔石だ。これを刀に組み込めば、使い手は雷の魔法を使えるようになる。


クレンは、慎重にその石を選び、刀の柄に埋め込む準備を進めた。彼はいつも、この瞬間が最も緊張する。どの魔石が刀に適合するかは、経験と感覚によるものだ。間違えば、刀はただの剣としてしか機能しない。だが、正しい魔石をはめ込むか、ブレスレットを使うことで、その刀は魔法剣として生まれ変わるのだ。


クレンは静かに息を整え、刀の刃に光を反射させながら作業を進めた。時間が経つにつれ、刀身は美しい輝きを放ち始めた。そして、ついに刀が完成した。


「また一振り、妖刀ができた」

彼は刀を見つめた。雷の力を宿したこの刀は、装備者が魔石のブレスレットを使えば、雷の魔法を自由に操ることができる。剣を握る者の力を引き出し、その力を増幅する。


仕事が終わったクレンは、工房の外に出て、冷たい風を浴びながら深呼吸をした。

妖刀を鍛えるという仕事は、彼にとってただの生業ではなく、長年の経験と鍛錬の結晶だった。

日常の一つ一つの仕事が、彼にとっては特別な意味を持っていた。


「さて、次はどんな依頼が来るかな…」


彼は微笑みながら、再び工房の中へと戻っていった。次の妖刀を作るために、炉に火を入れ、次なる挑戦を待ちながら――彼の日々は、変わらず続いていく。






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