第13話 この世界の地雷系は積極的で濃い
デートの手綱は彼女に全て委ねられてしまった。
従って今日に限ってはどの貞操逆転世界よろしく彼女に任せるしかない。
「着いたよ先輩」
「ここが………あの場所か」
「そうだよ? ここがゲームセンターだよっ」
連れてこられたのは前世でたまーにお世話になったお馴染みの場所ゲームセンター、略してゲーセン。
「すご………」
感嘆のあまり声が勝手に漏れてしまう。
「気に入ってくれてよかった、一通り回ってみる? ユウミ先輩」
「うん、お願い」
ユリちゃんにエスコートされてゲームセンターに入る。
前世のゲーセンは規模の差はあれ客層によって分けられてる印象が強かった。
クレインゲームなど万人向けからコアなゲームまで様々。
階層かジャンルで分けられてる印象だったけど、ここはそういうこだわりか客受けによる物がないのが特徴ってところかな。
(まあ、客の九割以上女子だろうしね)
男性向けの銃声バチバチのゲームも音楽ゲームも運転ゲームもカップルでやりそうな卓球みたいなゲームも置かれてない。
内装も可愛い寄りだしクレインゲームかプリクラなど前世で女子受けがいいかザ・リア充しか寄ってそうにないゲームばかり。
「どう? 先輩楽しんでる?」
「めっちゃ楽しいよ」
前世とのギャップやらゲームの種類やら比較しながら回るのは思ったよりめちゃくちゃ楽しい。
『前世にもゲーセンあったけどそれとどこがどう違うか比較して楽しんでる』ってありのまま言えないからちょっと歯がゆい。
「まだゲーム何もやってないじゃん、ウケる」
「ま、またからかって」
地雷系な服装してるのに案外優しいって一瞬思ったボクがバカだった。
すぐからかわれてまたもやっとした気持ちが募る。
「あたしもすごく楽しいよ?」
「そ、それならよかった」
からかってるから反撃しようとするとすぐ素直な気持ちが飛んできた。
小悪魔かと思ったら気配り上手な一面が覗いてきて反応に困る………!
ひっっっじょうに、困る。
「一通り回ったことだしそろそろ堪能しよ? いこっ」
「ちょっ」
恋人繋ぎされたままの右手が強く引っ張られてつまずきそうになりながら、なんとかバランスを保ちそのまま軽く走らされた。
「ここから始めよっか、ユウミ先輩」
「ここは………」
前世でリア充やらギャルの温床って印象があるプリクラに連れてこられた。
「はいろはいろっ♪ はーい、お二人様ご入場でーす」
「ちょっ、押さないで」
背中がグイグイというかぷにぷにって押されて無理矢理入場させられる。
って自分もちゃっかりカウントしてるんだ。
「そこは1名様って言うんじゃないの?」
「一対一でヤる時だって溶け合うって表現しょっちゅうしてるのに二人でってやたら強調するよね」
「言おうとしてることはわかるかも」
紛らわしいからハッキリさせたって言いたいらしい。
「ちなみにここはやらないと出られない部屋になっており………」
「そういう部屋ではないよね?!」
何言っちゃってるのこの子!?
確かに友達と一緒にやって来た時なんか撮らないと出られないからそういう怪しい部屋と似てるとこあるけど。
「お金払って『あたしたちの思い出、撮って』って機械にアピールするんだしなんかエッチじゃない?」
「言われてみればそうかも………」
ユリちゃんの言う「見せつける感」もそうだけど、シャッター押してしばらく時間経って撮られるポイントが妙に………。
ってさっきからナチュラルに下ネタ言ってるし。
妙に納得いくラインばかりついてきてついつい同意しちゃったけどいいかな?
顔見る限り喜んでるっぽいから心配ないかも。
『写真撮る準備ができたっぴー! みんな準備はいいっぴ?』
「稼働させちゃった!?」
「プリクラに入る=絶対写真撮ると同じよ。気になる男子連れ込んだドラマのヒロインの自室と同じだから諦めて」
また頭が真っ白になりそうな例えと一緒にユリちゃんが抱き着いてきてポーズ取りながら全面に視線を向ける。
「わ、わ」
慌ててボクもポーズ取って、前方へ視線を向ける。
陽キャの象徴だって前世では呼ばれてた記憶がある。
内心、憧れを抱いていたプリクラがこんなあっさり済ませるなんて………。
「女の子みたいな可愛い悲鳴いただきました♪」
これこそ憧れが汚されたって感覚じゃないかな。
後の一言は完全に余計だよユリちゃん。
「すっごく映えがいい。見てユウミ先輩」
「もうハチャメチャだ………。どれどれ」
彼女の言う通り映えのいい1枚の写真はすでにユリちゃんの手元あった。
楽しさ全開かつ可愛らしく映ってる茶色地雷系なユリちゃんとどこかぎこちないもののしっかり前面にあるカメラに睨みをきかせてるボク。
地雷系ってこういう可愛いに詳しいイメージは前世と一緒なんだ。
「SNSには上げるにはちょっと微妙いよねこれ、もう1枚撮ってもいいかな?」
「ん、いいかな」
デートに来る前、彼女のアカウントもあらかじめチェックしておいた。
可愛いものや美味しいスイーツなどのRTはいっぱいいるのに呟きやら自撮りやら一つもない。
おまけに名前も読みづらく設定されてる。つまるところユリちゃんがSNSにこの写真をあげることはない。
おそらくSNSにあげるボクに気を遣ってくれたユリちゃんなりの好意かな。
もう1枚撮ったところで減るもんでもないし、何よりさっきから下ネタとからかいのダブルパンチでさすがに反撃したくなっちゃった。
『写真撮る準備はできたっぴー! みんな準備はいいっぴー?』
写真撮るよーって相変わらず慣れないアナウンスが流れてきた。
またむぎゅっとした柔らかく温かい感触に包まれる。
このままじゃさっきの二番煎じだよね。
「にひひっ」
ユリちゃんのよゆそーな笑み。
「むっ」
さすがに反撃の時だね。
むかむかしてきた。
なんかないかな………貞操逆転ならではの返し方。
ってそうだ。
「ちょ、ちょっ………ユウミ、先輩?」
ユリちゃんのぷにぷにな両頬にボクの両手を宛がい、がしっとホールドする。
「そっちが始めたことだから、観念してね」
「謝るから、もうしないから」
こういうのはフリに決まってるんだ。
「いいから黙って。うるさい」
「っ………」
多少荒っぽく言い放ち、彼女の顔めがけでボクの顔面を近づかせる。
迫りくるボクの顔に思うところがあるのか両目をきつく閉じるユリちゃん。
『はいっ、撮れたよ』
ちょうどいいタイミングにアナウンスのきもかわ声がプリクラの室内に響く。
たちまちボクとユリちゃんのツーショットが印刷された。
「ユウミ先輩、これ………」
ユリちゃんが潤んだ瞳でこちらを見上げながらひらひらと写真を見せつけてくれる。
瞳を閉ざしこちらに抱きつくユリちゃんと————————————そんな彼女に思いっきり抱きついたボクという構図。
キスされるかと思ったかな?
残念、ただのハグでした~。
今まで散々からかってきた意趣返しだね。ざまあみろってやつかな。
さっきも反応だってうぶで可愛かったし………すかし食らった今、どんなリアクションするんだろう。
「————————————ヘタレ」
「かはっ!?」
ど、して………?
ここは照れながら『だ、大胆すぎるよ』とか『ユウミ先輩のエッチ』なんていうところじゃ………。
「キスするかせめてこうして頬っぺたにチューするところでしょ」
「へ?」
ーチュッ。
「大胆になり切れない先輩かわいい、マジタイプすぎ」
頬っぺたの方から馴染みない音と柔らかい感覚がする。
「………!!」
後から気づいた時には既にユリちゃんが何やら呟いているけど上手く聞き取れてない。
このみずみずしい感覚に馴染みない音。
心なしかさっきより上気してるように見えるユリちゃんの可愛い顔。
————————頬っぺたとはいえキスされた?
マジ?
「次は奪って欲しいなあ。あたしのファーストキ・ス♪」
「………っ」
「次行こうね? ユウミ先輩♪」
再びユリちゃんに連れられる形でプリクラから出る。
頭が真っ白で何故か唇がカサカサだけど言えることはひとつだけ。
貞操逆転世界の女子、マジ大胆過ぎ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます