第12話 爆発しない地雷系って実在してたんだ

「ユウミ先輩………?」

「そういう呼ばれ方したら嬉しいかなって思って♪ それにあたしにタメ口で接したじゃん、そのお返し」


レンタル彼氏って実感がより相手に伝わるようにやったことだけど、タメ口で接し始めたのはボクの方からだった。

向こうの言う通り。

それに先輩って響き、なんかいいよね。


「それに敬語のままじゃ距離感じちゃって中々踏み出せないじゃん」

「確かに」


そのつもりでボクの方から敬語ではなくタメ口でフレンドリーに接しようと打って出たのだった。

盲点だったというかなんというか。

この世界でまともに会話した相手がイレナしかなかったから彼女基準でつい判断してしまったっぽい。


「ってなわけで早速、ズボン下ろしてアソコ触っていいかな?」

「もう男って知ってるじゃん!!」


股間辺りに両手をかざして一歩後ろに下がってしまう。

出合い頭にそんな大胆なことさらっと要求するかな普通。

って今の態度はさすがにマズい。


ラブコメ物で勝手に誤解して恥じる女の子のそれじゃない。

このまま女の子だって逆に誤解されてデートはパーになり、さらにSNSでは欺瞞だのなんだの炎上するんじゃ………。


「本当に男の子だ。へぇ………」

「………え?」


ボクの妄想と反対にむしろしっかり認識されて戸惑いの声がまろび出る。


「ごめんごめん。あたし下ネタとかセクハラとか大好きだけどまずかったのかな」

「ううん、どちらかというとボクもそういうのウェルカムな方だしいいけど………」

どうして男だって確認したのって視線を合わせ、問いかける。

「DMでも言ってたしなんなら引用で呟いてた子もいたと思うよ?」

「どういうこと?」

「手のひら。ほら、今の先輩のとあたしのとじゃ全然違うでしょ?」


そう言ってユリと名乗った子がごつごつと分厚い靴を鳴らしてこちらへ近づきボクの手が掴まれて見比べるように並べられる。


「………!!」

「ほーら先輩よく見て、今先輩の手は力込められてるから血管が浮き彫りになってるでしょ」

「う、うん。そうだね」

「それに基本的な骨格? 構造? よくわかんないけどそういうのも若干違うよ」

「わっ、本当だ」


ユリちゃんって呼んだらいいのかな。

その子の言う通り、よく見るとディティールがちょっとだけ違う。

女の子っぽい手だって散々バカにされてたけどこうして間近で見比べたらほんのちょっとだけど違いはあった。

おかげで前にDMでそこ指摘してきたのがようやく思い出せた。


「セクハラに反応したおかげで確信できたってわけだ」

「そうだよ。察してくれて嬉し♪」


小悪魔のみたいな魅惑的な声がさっきより一層弾んだような嬉しさが宿る。

それならボクの中の女の子っぽい行動した甲斐もあった………のかな。


「っていつまでニギニギするの」


疑問も解けたことだしお互い顔合わせも済ませた。

だがどっかに繰り出す兆しなんかまったく見えてこない。

さっきから手ばかりニギニギしているユリちゃん。


ニギニギっていうのもマイルドな表現で、くすぐるように指で指を突いては握って離したりさすさすしたり。

妙なゾクゾク感がする触り方しかしてこない。


「男の手は生まれて初めてだから観察してるー」

「その触り方で観察は無理あるんじゃないかな」

「やっぱりそうかな」


自覚アリだったんだ。

なのにそんなもどかしいようなじれったいような触り方ばっかなのも貞操逆転世界の影響ってところかな。


男の子って認識されててめっちゃ嬉しいしなんならこのままずっとニギニギしてたいけどせっかくのデートなんだ。

レンタル彼氏として彼女とどっかで思い出を作ってあげたい。

意を決し彼女に声をかける。


「ユリちゃん」

「何、ユウミ先輩~?」

「デート中、ずっとニギニギしてていいからどっか行こうよ。ボクがリードするから」

「う~ん………それなんだけどさ」

「あたしがリードしていい?」

「へっ?」


予想外すぎる返答に頭が真っ白になってゆく。

それに気づいたのかニギニギサスサスされていた手が動きを止めて、手のひらから温もりが広がっていく。

気がついたらユリちゃんにギュッと両手ごと包まれていた。


「貴重な時間割いてあたしに付き合ってくれるんだし、少なくともあたしは先輩のこと楽しませてあげたいの」

「それにどういう経緯で女の子と仲良くなろってしたのかわからないけど………まだこの街に馴染んでないよね」

「うぐっ」

「ならいいじゃん、あたしに任せて。今日はめいっぱい楽しませるから」


ユリちゃんの言い分に一ミリも言い返せない。

というか、本音のところ言い返したくない。

ちょっといたずらっ子っぽいところはあるけどデート初っ端から男の子だってちゃっかり認知してくれた上で仲良くなろうと積極的に近づいてきてくれてる。

ならボクはそれに寄り添うだけでいいのかもしれない。

美味しい思いができるそうだからって思考放棄して全力で甘えようなんて決してオモッテナイカラネ。


「………よろしく、お願いします」

「よろしくお願いされましたー。行こう、先輩♪」


温かく包まれていた両手が急に酷寒の地に放り出されたような寂しさも一瞬、片手に再び温もりが広がる。

こ、これが恋人繋ぎってやつ………!


「むっ」


でも心のどこかに釈然としない何かが残っている気がする。

ボクは年上で男なのに………。

見た目は地雷でも弾けないどころか庇護の障壁が展開される地雷。

そんな彼女に連れられるがままデートへ向かうことになった。

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