第7話 貞操逆転の女子は意外と鋭いかも

思わぬ形で幕を閉じたデートだけど終わりは終わり。


「はぁ~」


思わずため息が漏れちゃった。

あれから特段変わったことは何も起こったりはしてなかった。

強いて上げるなら普通に立ち上がって家まで徒歩で帰りシャワー浴びたくらいかな。

今はベットに寝っ転がってスマホばっかいじっている。


「もうちょっと堪能したかったんだけどなあ」


なんて独り言が自然に出てきちゃうくらいには引きずっている。


「男バレはどちらかというと嬉しいけどね」


もう少しデート堪能したかった。

欲を言えば男らしい締め方したかったところかな。

なんて思考が頭の中でグルグルループして抜け出せないでいた。

あれからこればっか考えちゃってる。


「このまま死んじゃったりしたら“見境な死”なんて死に方にカウントされて幽霊になっちゃったりして」


やることがない時たま~にやっちゃうダジャレも今じゃ役に立たないかも。

ツボって呼吸困難になるまで腹抱えて笑うのが通例だけどそういうメンタルになれてない。

むしろセルフツッコミの魂が燃え盛ろうとしていた。


「っとそういえばSNSにあげなきゃ」


男として見られてるが見られてまいがレンタル彼氏としてこれから活動していくためには報告する必要がある。


『レンタル彼氏としてデートしてきました。申請くれた娘もすっごい可愛くてレンタル彼氏なんて忘れてデート楽しんじゃった』

『追記:相手の肖像権もあるので顔写真はNGかな。これ見て興味が湧いた人はぜひDMお願いします!!』


「これでよしっと」


イレナと一緒に撮ったクレープのツーショットや服屋でボクの服選んでもらってるところを顔が映らない位置に上手くセルフィで撮ったやつなど。

数枚の写真と一緒にレンタル彼氏の報告を済ませる。


「もう会えないだろうなぁ」


本来はデートした相手にタグ付けするのがセオリーだとわかっているけど………やめた。

あんな締め方だったから気まずいというのもあるけど————————————エロ漫画のヒロインみたいな誘い方して恥ずかしいのと何より最後まで楽しませてあげられなかった申し訳なさがわだかまりみたいに燻っている。


「初めてだったからかな………」


一番デカいのはやっぱ最後まで楽しませてあげられてないとこかな。

あのまま家の近くまで送ってあげてその際、たわいない会話で盛り上がったりして。

欲を言えばそんな理想でありふれたデートの締め方がしたかったなあ。


「って次申請してくれなきゃ意味ないけどね」


想定外にすぎたデートの締め方で引きずってるけど、ボクはあくまでレンタル彼氏。

相手の要望により甘いひと時を体験させる存在。

つまりどんな締め方にしろこればかりは相手側の手に委ねられる。


「少し楽になってきた」


完全に振り切るには多少時間がかかると思うけどそう考えるとさっきよりほんの少しマシになってきたかも。

いつまでもくよくよしてられないよね。

今日の失敗は明日の成功って言うし、次デートで活かさないと!


「あれ、通知きてる」


前に進もうと自分に言い聞かせてたらピコンと馴染みのない音がスマホから鳴り出す。

拡散や好きの通知は付けといたらヤバいって投稿した初日にわからされていた。

よってどっちも通知が来ないよう切っている。

残る選択肢なんかDMしかないわけだ。


「どれどれ………あっ、本当にDMであってる」


DMの右の上に未読を知らせる数字が浮かんでた。

さっそくタップして確認っと。


『本当に男の子だったんですね。申請したらあたしともデートしてくれるんですか?』


「………うぇ?」


え?

男の子ってさっそく認知されてる?

どうして?

デートで手を繋いでハグまでしても認知されなかったのに?

ボクのあれが触られたりする前までまるで信じてもらえなかったのに………。


アカウント名を改めて見直す。

今日デートしてきたイレナじゃない。

見ず知らずの全くの他人のアカウントだ。


『えっと、こういうこと自分で言うのもおかしいけどどうしてボクが男の子だってわかったのかな』


気がついたら疑問そのままDMに乗せていた。

さっそく既読がつく。


「やべ、マズったかな」


既読がついて二~三分以上経ってるのに返事が返ってこない。

レンタル彼氏の申請してきたんだし、ボクの疑問をぶつけるよりその対応に当たるのが順番としてあってるはず。

送り主もまさか疑問が飛んでくるなんて思わなかっただろう。

いまのミスで“やっぱナシ”なんてかえってきたらどうしよう………。


『手です手、今日の投稿に貼り付けてた画像の一枚目の手のひらから察しました』

『男と女の仕組み上、意外なところから差が出てくるって本当ですねっ』

『あっ、返事遅れてすみません! SNSは自分の呟き以外勝手がわかんなくて引用に手間取っちゃいました』


ボクの投稿したやつをわざわざ貼り付けてご丁寧に説明してくれた。


「手………?」


空いていた己の手のひらをガン見する。

そういえば男と女の手は骨格の構造上、どうしても差が出るってどこかで聞いたことがあるようなないような………。


「本当だ。ちょっと違う」


この世界は女性の数が圧倒的すぎるので適当に手って検索かけても女の人の手しか出てこないのが便利だよね。

貞操逆転様様だ。

さっそくその画像の中の手と自分の手を比べてみたらレンタル彼氏志願者さんの言う通り、多少なりとも差がある。

骨格がどうとかうまく言えないけど………確かに。


『確かにちょっと違う………かも? よく気がついたね』

『相手の方と比較するみたいに並べて撮られてましたので!』


「一枚目の画像言ってるよねこれ」


違う種類頼んで食べ比べした感アピールのため撮ったものだけどそこでキャッチ出来るんだ。

貞操逆転しても女子は女子ってところかな?

かなり鋭い。


「じゃあボクが辱められた意味は何!?」


もっといえばエロ漫画みたいなあんな………あんな大胆な………っ。


「うぅぅっ………マジでなにしちゃってんだろ」


恥ずかしくて死にそう。

何が「試してみる?」だよ。

穴があったら入りたいってこういう気持ちなんだ。


「ってなんでボクがヒロインみたいに悶々としなきゃいけないのかなっ」


なんて誰もいないピンクすぎる部屋に愚痴ってると『これでわかる人はわかると思いますけどほとんど気づけないと思いますよ』って補足が飛んできた。


『普通は相手の容姿から入りますので気づいてる人はかなり少数かと』

『そうかな………?』


的を射てる彼女の補足にハッと正気に戻る。

こういう投稿で手なんかガン見する人が少数派なのは確かだよね。

それにデートなんて相手の顔見るだけで精いっぱいだし、彼女の言う通りかもしれない。


羞恥心が徐々に薄れて代わりに嬉しさ胸の奥から込み上がってきた。

少数なんて言ったけどボクが男だって認知してくれた人が少しは増えたってことだからね。

よしっ。


『ありがとう! もちろんウェルカムだよ。いつ頃がいいか教えてくれたら都合合わせるね』

『今週の週末でいいですか? 平日はその………学園で中々時間が取れなくて』

『いいよ。じゃあ土曜の午後二時とかどうかな』

『りょっ! よろしくお願いします!』


「同じ学生さんかぁ」


どこの学園通ってるんだろう?

文面見た感じ同い年の子かな。

かなりフレンドリーに見えるし、多少の失敗は許してくれるかも?


「いやいや、失敗から考えたらダメでしょ」


人間、後ろ向きな考えのままじゃ足が竦んでしまって動けなくなるもの。

それをこの世界にやって来て散々学んだからレンタル彼氏なんて始めたじゃないか。


「男って認知された上でのデート、だよね」


液晶には『よろしくお願いしますダーリン♡』と新規の志願者からのメッセージが浮かんでいる。

今日行ったデートとは色々勝手が違うはず。


「今度こそおいしい思いしたりするのかな」


デート終わり際に離れたくないって抱きつかれちゃうかな?

ふとした拍子にファーストキス奪われちゃったりして。

はたまたこういう世界恒例の実は嫉妬深く独占欲が強い性格で持ち帰りされたりしてっ。


「うへ、うへへっ………」


妄想が膨らんでく中、頭の片隅に残る理性的なボクの「キモッ」なんてツッコミを華麗にスルーしながら夕飯の支度を始めた。

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