第6話 ラッキースケベで男子って認知されたくなかった

「ではデート再開しようね」

「はいっ!!」


それから色んな場所に巡ってお互い意識するように………なんて甘い展開はもちろんない。

さっき気になるって言っていたクレープ屋に訪ねて今度はボクが奢られることに。


「男の子と食べ合いっこするのが夢だったんです。わたし」


なんて意地悪めいたことがほんわかした雰囲気でお茶目なことが言えるくらい回復している。

それに男のプライドなんてくだらないやつが発動して本当に食べ合いっこしたり、食事中イレナが聞かせてくれたマンガの続きをベンチで聞いたりなどした。


「もう五時半か」

「楽しい時間はあっという間って本当ですね」

「楽しい時間はあっという間、か」


本当にその通りだと思う。

生まれて、いや二回目の人生ひっくるめて初めてのデート。

好きなゲームやってる時も楽しみにしていたアニメ見てる時よりも断然時間が早く感じる。


「レンタル彼氏はこれで終わり、ですよね?」

「そう………なるね」


彼女の言う通りデートが終われば彼氏彼女という関係は泡沫のように自然消滅される。

SNSに挙げていた彼氏レンタルの暗黙の了承だ。

しかも書いたのは他の誰でもないボク自身。


「イレナとのデートすっごく楽しかったよ。どうかな、楽しめてくれてたらいいけど」


途中からレンタル彼氏なんてド忘れして楽しんじゃうくらい、なんて言葉はグッと飲み込み、リードする体のまま話しかける。


「さっき楽しいって言ってましたよ。素敵な思い出がひとつ増えました♪」

「楽しんでくれたならよかった」


何か言い表せない熱い何かに茹でられてたような頭が彼女のその一言に徐々にクールダウンしていく。

冷えいく思考の片隅にある感情がひょっこりと顔を出した。

————————————このまま男だって認められぬまま次に移行したら元の木阿弥。

もう少し男だって証明できる何かがいるんじゃないか?

最後の悪あがきくらいしてもバチは当たらないんじゃ?


「じゃあさ、送らせてよ。女の子ひとりじゃ危ないよ?」

「どちらかというとそれ、わたしのセリフですよ? 男の子のユウミさん」

「絶対わざとやってるよね、ねえ?!」

「バレちゃいました。ふふっ」


いたずらっぽくぐるりと回って二、散歩イレナが離れていく。

やっぱりっ。

男って全然思われてないじゃん!!


「本当に男であってますよね、ユウミさん」


後ろ手に回して上半身だけこちらへ近づかせたイレナが変わらないほんわかした雰囲気のまま真面目な質問をぶつけてくる。


「………あ~」


今日初めて聞く真面目トーンだし女子だって疑われてることくらい察していた。

内心、見た目で誤解されるのに免疫出来てるって思っていたけど………。

デートした相手に真正面からハッキリ言われた経験がないからかな。

グサッと効くな、これ。


「どうしても疑わしいならぁ………」

「ボクのうちに来て、確かめてみる………?」

「………」


ボクは未だイレナ色に染まっているままだ。

要するに彼女からプレゼントされた服をまとっている。

スカートの両端を手で掴み股間が露出されないギリギリのラインまでたくし上げながら誘うようなセリフを口走る。

上手く出来てるかどうかわからないけど蠱惑的な表情も心掛ける。

ラブコメ系エロ漫画にありがちなヒロインが主人公を誘惑するテンプレそのものだ。


「っ………!」


恥ずかしいすぎるよ。何やってんのボク!?

むしろこれじゃ女の子そのものじゃないか。

目の前のイレナも固まってるし。


「わ、わたしが悪かったからそこまでっ………」

「ってきゃぁ!?」

「え?」


そこまでさせてしまったって責任感で中断させるつもりでボクの方にやってこようとしたんだろう。

けどそのタイミングが悪かったのか、スマホガン見しながら歩く女性にぶつかってこちらへ倒れ込んできたイレナ。

案の定、ボクも巻き込まれてしまい後方に尻もちついてしまう。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」

「いひっ!?」


神のいたずらのようにイレナの手はボクの股間にピッタリ位置する形で共倒れになっていた。

なにこれ

んなラッキースケベみたいな倒れ方が現実で再現できたの。


「ユウミさんどこかお怪我はありませんか?」


ニギニギ


「んはぅ………」


イレナの顔は今、ボクの下腹部辺りで前が見えない。

だからひとまず地面かどうか、ボクに怪我があるかどうか触って確めるつもりみたいだけど………。


「はっ、そこ………」


どうして敏感なポイントばかりピンポイントで触れるんだろ……………。

ボーンとあそこから脊髄に伝って脳の奥までほのかな快感と突然の出来事という特異性により脳が機能出来てない。


「やば………」

「大丈夫ではない………えっ………」


ほんの少し理性って子がスペース確保できた頃には時すでに遅し。

もっこりと重力に逆らったスカートの一部とその上に添えられたイレナの柔らかくて細い左手という信じたくない構図がそこにあった。


「こ、これはその………あの………」


さすさす


「んんっ!!」


どうしてそこで、触るかなっ。

ってかラッキースケベするのは普通逆なのにどうして。

ここが貞操逆転の世界だから恵まれるのは女子になるの!?


「ほ、本物………」

「男だってずっと言ってたじゃんっ………!」


おかしな程爆増した快感の波に抗いなんとか平気そうな声で吐き出す。


「ご、ごめんなさいっ!!!!!」


さっきまで戸惑っていた雰囲気だったイレナがやっと現実に思考が追いついたのかそんなありふれた一言だけ残し、慌てて飛び起きて走り去ってしまう。

男の子だってやっと証明することができた。


ここにやって来てやっと男の子だって認識されたけど………。

変な感じでデートは幕を閉じる。

あまつさえ服はイレナに持っていかれてしまった。


「想像してた展開と違いすぎるでしょ。クソ女神様があぁぁぁぁぁっ!!」


なんて、不敬極まりないことを声がかれる程の大声で叫ぶしかなかった。

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