第5話 不安がる彼女落ち着かせるのって最高に男の子っぽいよね

「ふぃ~満腹満腹」

「美味しかったです。でもあの………」

「どしたの? デザートとかいる?」

「近くに美味しいクレープ屋さんが………ってそうじゃなくてっ!」

「??」


求めてた展開にはならなかったけどショッピングモールを堪能して外に出たら結構な時間になっていた。

なので食事がてら調べといた雰囲気のいいラーメン屋さんへ。


デートでラーメン? なんて言語道断だと眉を顰める人ももちろん結構いるしボクもその派だったけど………こっちのラーメン屋はどちらかというと元の世界のカフェに近い。

ごってごてではなくカラフルなデザインと溌剌した店員たちはまさにデート王道そのものだった。


イレナだってボクと一緒に食事を楽しんでいた。なんならボクよりはしゃいで気がついたらお互いマンガの話に夢中になっちゃうくらいだったからねぇ。

妙にソワソワしてるというか落ち着きがないのは先ほどのデートコースが原因ではないはず。

他に何か思うところがあるのかな?


「奢らせていただいたのは嬉しいのですが、あの、その………」

「あ————————————」


さっきからしどろもどろだったのはそういうことだったんだ。

瞳が落ち着きがなく慌ただしく回り続けておりとにかくこちらと目線を合わせようとしないと思ったらそういうことか。

昼食を奢られたことに後ろめたい気持ちが芽生えたのか、なるほど。


「いいよいいよ。ボクが奢りたくて奢ったんだし」

「でも………」


しゅんとした落ち込んでる雰囲気が隣から漂い始める。

今日のデートに誘ったのは結果論で言えばイレナだ。

この世界では男性はとにかく養われるのが基本スタンスになってるらしい。


女の子にしか思えなくても書き込み上、男の子って肩書のボクに奢られるのが申し訳ないのだろう。

ってれっきとした男では合ってるしそこでちょっと嬉しくなっちゃってるのがボクのダメなところかも。

ひとまず安心させないとデートも何もない。


「ユウミさん………?」


イレナの呼びかけに敢えて返事したりせず黙々と歩いて商店街からちょっと外れた先にある脇道へ。

その脇道に差し掛かると繋いだ手を解きイレナを抱きしめた。


「不安にならないでイレナ。さっき言った通りボクがやりたくてやったんだからね」

「でも………わたし、申し訳なくて………」


腕の中に収まったイレナが相変わらず申し訳なさそうに俯いてしまっている。

う~ん。

抱きしめたらなんとか解決するかもなんて貞操逆転お決まりの展開はボクには通じないか。

どうしたらいいんだろう。


このままおどけて強引にまとめるという手もあるけどそれは最終手段。

彼女の純粋な気持ちを踏みにじるみたいで憚れる。

やっぱり“あれ”しかないかな?


「イレナ」

「ひゃぃっ!?」

「楽し気に食べながらマンガの話で夢中になるキミが綺麗だったから奢りたくなったってことでダメかな」

「でも………」

「服のプレゼントしてくれたお礼というボクの気持ちも込めて奢ってもらったんだよ。男のボクの顔も立てて欲しいな」

「ぷっ、くふっ………」


先ほどまで罪悪感に押しつぶされそうな彼女はどこへやら。

何がおかしいのか抱き返してきた両手に力が物凄く込められ始める。


「イレナ?」


前時代ハーレム物のキザな主人公の真似なんてしない方が良かったのかな?

え、どうしよ。

トドメ刺しちゃった感じだよねこれ。


「男の顔を立てるって、ぷくっ………あっはっははっ!!」

「ツボっちゃうポイント!!」


どうしてそこにツボっちゃうかな!?

まあ確かにイレナのこと落ち着かせるため何の脈絡もなく絞り出した感はあるのは認めるけど!

しかも女の子の格好してるけど!!


“マンガの主人公みたいです”とか“昭和臭乙ww”など心に効くやつに備えてたボクの覚悟返してほしい、マジで。

そこでツボっちゃうなんてまったく予想できてなかった。


「ごめんさない、すっーはあー」

「ちょっ」


抱き合ったままイレナが己を落ち着かせるため深呼吸し出す。


「んっ」


深く吸って吐くという単純作業が耳元にくすぐられてなんかソワソワした気持ちになってきた。

喉から勝手に声がまろび出てる。

耐えろ、耐えるんだボク。


「はぁっ………ありがとうございます、おかげさまで落ち着けました。ちょっとナイーブになっちゃてて楽しい雰囲気台無しにしちゃったみたいでごめんなさい」

「んっ、い、いいよ。元気になってくれたなら」


ボクも落ち着かないと………。

さすがにこのまますぐ動いたりしたら大変なことになりそうなので元の世界の出来事(SNSで好きな作家さんの新規絵見ようとしたらアプリがバグって何故か地雷ジャンルに飛ばされるやつ)を想起させ膨張しかけた微かな熱を鎮める。


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