第4話 君色に染めて
「服選びですか」
「せいか~い」
タメ息交じり気な彼女にいたずらっぽく跳ね返した。
驚いているのもきっと“そういう目的”で同性に言われた気がして気が動転したってところだろう。
まあ、ボクなりの意趣返しかな?
こちとらずっと性別誤認されててかなり不服なのにいたずらひとつで手を打とうとしている分、優しいと思うんだけどなぁ。
「目当ての物があるのでしょうか?」
ちょうどいいタイミングで店員さんがこちらへやってくる。
「わっ………」
服屋の店員さんも予想通り女の人、しかもスタイルがもうヤバい。
ラインがハッキリ浮き立つ腰の上にあしらわれたでっかい双丘。
これが大人の色香というやつですかっ………。
「ちょっと~よそ見は嫌ですよ~?」
発言は嫉妬めいたものだけど声のトーンがとことなく楽しそうに聞こえる。
わき腹にイレナの肘がグリグリ当たるけどやはり痛くはない。
「絶対面白がってるよね」
「失敬な~彼氏が店員のお姉さんのナイスボディーに釘付けにされてるのに嫉妬しないわけがないじゃありませんか」
「あらあら彼女さんに意識されちゃいました♪」
このお姉さんノリ良すぎでしょ。
しかも絶対親友同士のいたずらにしか見えてないよね今のやり取り。
「それで何かお探しの物があるのですか? よろしければお手伝いさせてください」
「そうですね。わたしの彼氏が外で襲われないようわたしの物って意味で印を刻み付けてあげたいんです」
「虫よけの女装服ってコンセプトですね。それではごゆっくりどうぞ♪」
「行きますよユウミさん」
「嬉しいはずなのになんか複雑………」
イレナに聞こえないよう小さく呟いたら隣からほんわかした雰囲気の微笑みが返ってきた。
さっきボクの意味深な台詞の意趣返しか、やっぱり。
どれも貞操逆転世界モノの恒例のセリフで本来なら喜びのあまり泣いてたかもしれないけどなぁ……………。
イレナは意趣返しのつもりだし店員のお姉さんなんてコンセプトなんて言っちゃってる始末。
てかしれっと言うものだから流すとこだったけど、ここ男性の外出には女装が居るんだ。
ナチュラルすぎて気づかないとこだった。
陽キャ力も大人の色香も溢れるお姉さんに案内されて服が立ち並ぶコーナーへ。
「これもいいけど、うーん………こっちも捨てがたい………」
さっそく二枚の上着を列から取り出して見比べ始めたイレナ。
「これ結構いい線いってるかも」
邪魔にならないよう少し離れてイレナの後ろ姿へフォーカスを宛ててパシャリと一枚スマホに収める。
「うん、やっぱりいい………!」
後ろで店員のお姉さんが何故か微笑んでるけど気にしたら負けだ。
服のところだけぼやけていかにも“彼氏のため服選びに励む彼女”の図が見事完成されていた。
本来は外出用のやつとか見繕ってもらいながら少しでも男の子っぽい服装にチャレンジするつもりだったけど………。
甲斐甲斐しい彼女っぽいワンシーンにも遭遇できたしいいかな?
「ユウミさーん。試着してみましょ」
「もう終わったの?」
「はい。何でも消化出来ちゃいそうで店員さんと相談しながらやっと選べられました」
「こ、これは………っ」
「フィッティングルームはこちらですよカレシさん」
ニヤリといたずらっぽい笑みを携えたお姉さんが手招きしている。
「わたしに選んで欲しいって言いましたし、着てくれますよね?」
「うぐっ」
気がつくといつの間にかイレナの選んだ服が両手に乗せられていた。
「ではいってらしゃいっ」
「とわっ、わっ」
そのまま勢いよく店員のお姉さんの方へ押されるボク。
「あ、もう! 着ればいいでしょ着れば!!」
誘惑するようなセリフを口にしたのは他の誰でもないボク自身。
観念するしかないかっ。
「とてもお似合いですよユウミさん。すごく可愛いですっ、エクセレントです」
「ここまで完璧に仕上がるなんて。これで道端で襲われる心配はないですねっ」
「似合ってて腹立つぅ………」
ヒロインたちに無理矢理女装されて涙目浮かぶ数々の主人公たちの気持ちがようやくわかった。
控えめにあしらわれたフリルが特徴の黄色のTシャツとめっちゃスース―するって描写がお馴染みの赤色のスカート。
それらが身に纏う鏡に映った己の姿はまごうことなきファッション好きの女の子そのものだった。
「よい見物をありがとうございました♪」
「いえいえこちらこそ良い買い物させていただきました」
上機嫌な微笑みが湛える二人がお礼を言い合っている。
着替えて出てきたら既に支払いの真っ最中で何故かイレナがボクの手から着て来た服を奪っていき、店員のお姉さんが袋に丁寧に仕舞ってくれた。
「このまま行きましょ?」
「………はぃっ」
袋を持つイレナが反対の手でボクの手を握ってくる。
着せられるがままデート続行するので決まりかな。
レンタル彼女とはいえど女の子から服のプレゼントされてそのままデートに続くのは内心夢ではあったけどなんか違う。
けれどせっかくプレゼントされた物。
拒む権利なんかボクにないと自覚して挑発した通りイレナ色に染まったままデートに続くボクたちだった。
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