第3話 貞操逆転世界で初デートは緊張しちゃう
「まずは軽くウィンドウショッピングからでいいかな?」
「構いません」
「じゃあこっち」
グイっと繋いだ手を軽く引っ張り、反対の指で商店街の方を指す。
「ここからゆっくり見て回ろう」
「はいっ」
手を繋いだままやってきたのは近くの大型ショッピングモール。
そのままエスカレーターに乗り、色んな店の集まるところへやってきた。
さてと………。
(え、こっからどうすればいい?)
王道から攻めようってひとまずショッピングモールに連れて来たはいいけど………。
脳内で何度も繰り返しシミュレートしてたデートプランが綺麗さっぱり飛んじゃってる。
動悸がヤバい。あれ、そもそもちゃんと息してるのかな?
緊張しすぎで初体験の失敗談なんてそこらへんに転がってるくらい耳にしていたけどデートプランが飛んだなんてさすがに聞いてない。
てか緊張しすぎたせいで当初の予定だった商店街じゃなくてショッピングモールとかどんだけ緊張してんの!?
「どうしました?」
隣のイレナが不思議そうにこちらを覗き込んでくる。
さっきから繋いだ手のひらがニギニギされているけどそういうアピールではないのは確か。
こいつ今絶対ボクのこと男だって信じてない。
「なんでもないよ。行こうか」
すうぅっと心の中で深呼吸ひとつ。
繋いだ方の手を軽く引っ張りこっちってそれとなく伝える。
「どこから行きましょう」
「一通り回って見ようかなって思ってるかな。ここにやってきたの地味に初めてだからね」
貞操逆転世界のショッピングモールはそういえば描写されたことないかも。
ってことはボクが一番ノリってこと!?
「以外ですね」
「そうかな」
「ショッピングとか大好きそうな見た目ですしてっきりこういう空間に慣れてるかと」
「それ遠回しに女の子って言ってない? ねえ!?」
これで確信できた。
この子、絶対ボクのこと男の子だなんて思ってない。
今の発言だって遠回しに“毎週来てそうなのに意外”って意味が含まれてる気がする。
「そんなことありませんよ♪」
嘘つけ。
ほんわか系お嬢様キャラのような雰囲気に似合わなすぎるくらい顔がニヤニヤしてる自覚ないのかな?
いや、気づいて尚あえてって可能性もあるかも。
「イレナは頻度どれくらいで来てるの?」
「わたしはたまーに来て買い物だけ済ませてって感じです」
「へえ、意外だー」
この手のデカいショッピングモールなんて大抵のことは施設の中で済ませられる仕組みになってることが多い。
買い物から食事へ、デザートから息抜きの娯楽まで。
とにかくなんでもござれのドーパミン盛り合わせセットのような建物!!
って前世でクラスメイトのの女子たちがきゃぴってた記憶がある。
「そうでしょうか?」
「そそっ。週に数回くらい友達に連れてこられるかと思ったよ」
「確かにそれは否定出来ません。鋭いです」
「だよね? っとそうだ?」
「なんでしょうか」
「思い出残したくて写真とか撮っていいかな」
「構いませんよ♪」
「じゃあひとまず見えないように、ハイチーズ」
スマホのカメラ向きを自撮りモードに変えて二人の顔が映らないよう上手く調整して手繋いで歩いている姿だけ撮る。
彼氏レンタルは実在するって証明するためにはこれに勝る手段はない。
同時に“こういうことまでしてあげますよー”って宣伝もできる。
「後で送ってあげるね」
「はい♪」
それなりに勇気振り絞って切り出したつもりだけどこうあっさり受け入れられるとなんか複雑………。
元いた世界だったら断られるか最悪、警察に突き出されるかだったはず。
ボクが居るここがモラルも何もかも違う世界だってわからされる瞬間だ。
今は女の子にしか見えないからかもしれないけどこれくらいの妄想は許して。
「っと先ほどのところに戻っちゃいました」
「え、もう?」
本当だ。
思ったよりヤバい緊張に頭真っ白になってた記憶のあるところへ戻っている。
時間は僅か三十分くらいしか経ってない。
心も落ち着いてきて所々会話も弾んでいたけどそれは女子だって思われているからかもしれない。
もう少し踏み込んでみようかな。
「イレナ」
「はい」
「ボクのこと………君色に染めてくれないかな?」
「はい………はいっ?!」
「こっちだよっ」
「ちょっ、あっ!」
繋いだままの手を強く引っ張り目星つけて置いたとある店へ向かうのだった。
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