第2話 レンタル彼氏、始動
ボクは今、駅前の広場に立っている。
この世界に友達も家族もないボクがここに立ってる理由なんてひとつしかない。
そう、呼び出されたからだ。
「おかげで睡眠不足、ふぁっ~~」
夜遅くまで携帯いじってそのまま眠りへ——————なんて習慣のせいか身の周りにスマホがないとしっかり眠れない体質になった。
というのも前世の話だけど今回の人生もしっかりその性質だけ受け継がれたらしく寝る時、習慣的に枕の近くにスマホ置いて寝るようにしている。
それが原因で今朝はもう大変だった。
ほんの少し眠気の海から意識が浮かび上がる頃、枕元からやけに振動感じるなーって思って確認してみたらまさかのバズリ。
初めての経験でどうしよって慌て出したタイミングでDM欄を確認してみると上限壊れた他の項目と違って横に3ってシンプルに浮いてあった。
『すごく可愛らしい方ですね♪男だなんて無理すぎません?w』
『直接会って男の魅力、見せていただけますか? レンタル彼氏申請します。午前11時、トーヨ駅前でお会いしましょう?』
挑発的な申請以外の二つはひとつはスパム、もう一つはダミー垢で煽りなんてお決まりのオチ。
書き方はちょっとあれだったけどそんなことはどうでもいい。
「やっと会いたいなんて言う女の子キターーー!!!」
書き方がこの世界に存在しないであろうメスガキ臭があるが、それ含めて“むしろ本望”状態だ。
『では10時まで駅前に向かいますね。よろしくお願いします』ってひとまず無難な返事だけ打ち込み、さっそく出かける支度に。
そこからまた慣れない作業の始まりで気がついたら約束の10時が迫って来てたので慌てて家から飛び出したわけだ。
今はDMくれた彼女を待っている。
「もう少し男性っぽさが強調できたら良かったけどなぁ………」
待ち合わせ場所についてすぐどんな格好か伝えるため相手側に自分の自撮りを送ったけど反応はいつも通り『可愛い』一点張り。
「服が問題かな………」
ここはちょうど春から夏への衣替えのシーズンだった。
それに合わせてミント色のシャーツと短パンで出かけて来たんだけど………マズったかな?
ちなみに今朝のバズリ虚しくボクに反応してくれる女の子なんて誰もいなかった。
たかがSNSひとつで病むだなんだ言っていた前世のSNSの民たちの気持ちがちょっとだけわかった気がする。
「えっと………ユウミさん。ですか?」
ふと名前で呼ぶ声が後ろから鼓膜に響く。
透き通る森の中に響く心地いいさえずりのような可憐な声。
「はい、どちらさまでしょうか………?」
「っ」
今朝DMした人だって直感で後ろへ振り返り、世界が止まったような錯覚に陥った。
背中まで伸びる色素の薄いキャラメル色の髪にそこはかとなく慈愛が感じられるような赤色の瞳、形のいい唇。
それらが引き立つような色の薄いワンピース。
「あの………?」
「はっ!?」
どこか伺うような不安げのような音色にやっと我に返る。
いかんいかん。始まる前に相手を不安がらせてどうする?
「はい、ユウミ本人で合ってます。キミがDMくれたイレナで合ってるかな」
「はい、予約した本人で合ってます」
「会えて嬉しい、今日はよろしくね? あ、彼氏感出したくてタメ口で言っちゃったけど嫌なら言って」
「いいえ、不快ではないのでお気にならさず」
内心、胸を撫でおろす。
「それでその、か、彼氏持ちってどんな気持ちか興味があって申請したんですが………男で合ってます?」
「合ってるよー!」
胸を撫でおろす余裕なんてなかった。
さっそく疑われた。
それだけならまだしもいつの間にか頬っぺたぷにぷにしてきた。
完全に女の子扱いされてるっ………。
「今日はリードさせてもらうから。行くよっ」
「キャッ♪」
ボクの頬っぺたをニギニギしていた片手をかっさらい、さっそく恋人繋ぎで動きを封鎖する。
ここからが正念場だ。
このデートの成り行き次第でこの世界の住み方が変わるはずだ。
輝かしいハーレムウハウハライフを胸にレンタル彼氏になり切ろうと気を改めるボクだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます