愚者を探して

「監督官。愚者フールのタロットの行方はどうなっている」


 薄暗い研究室で二人の男女が対面していた。一人は炎の如く赤い長髪に白衣を纏った女性であった。女性はライターで煙草に着火すると、チラリと灰色髪の少年の方に目をやりながら壁面のモニターを起動する。

 モニターには日本地図が表示されると、関西地方付近に赤いポイントが出現し、その場所を示していた。


「恐らくは大阪のここだろうね。これまでのケースを考えると……早期に回収しなければ不味いことになるね」


「大丈夫だ。俺が今すぐ回収する」


「ったく、結城はせっかちだね。だけど、あまり根を詰めすぎたら駄目だよ」


 女性は咥えていた煙草を口から離すと先端を少年、鹿島かしま結城ゆうきへと向け、口角を上げる。結城は頭を抱えながらため息を吐くと、女性に背を向けながら淡々と呟く。


「分かっている。それよりも、俺以外に目を向けろ」


 結城は深々と頭を下げ、部屋を後にする。

 目標地点へと移動するためにオスプレイが格納されている倉庫へと足を運んでいると、連絡橋の扉前に一人の少女が結城が到着するや否や歩み寄る。

 

「待ってましたよ、鹿島君。同じクラスの私に連絡無しはひどいですよ?」


「……望月か。悪いが、急いでる。説教は帰ってからにしてくれ」


 その場を去ろうとする結城に対して、望月もちづきかえでは彼のネクタイを引き寄せ、瞳を凝視する。結城は視線を逸らそうとするものの、水のように透き通った純粋な双眸に根負けし、いつもながらため息を吐く。


「連絡しなかったのは悪いが、これは俺が与えられた任務だ。お前には関係ない」


 お前は眼中にない。といったような様子で淡々と呟く結城に対して、楓は眉をひそめ、更にネクタイを引き寄せる。


「だから、私たちは同じクラスの仲間じゃないですか。単独行動はクラス長の私が許しません」


 楓の決意は固く、ネクタイを握る力からその心意気が伝わってくる。こうなれば頑固なことは結城も十二分に理解しており葛藤の末、ネクタイから楓の手を引き剥がし、再びネクタイを締め直す。


「チッ……なら、すぐに向かうぞ。これは重要任務だからな」


「重要任務? もしかして、愚者フールのタロットが見つかったんですか?」


「ああ。正確な位置は不明だが、直ぐに向かえば早期の回収が見込めるからな」


 格納庫の扉を潜る。出入口付近には既に移動用のオスプレイが手配されており、周囲にはメンテナンスを行うエンジニアたちの姿があった。エンジニアたちは二人を見るや否や敬礼し、楓は敬礼を返すも結城は我先にとオスプレイへと搭乗した。


「もう……すみません。せっかくご手配してくださったのに」


「大丈夫ですよ。鹿島さんの性格は重々承知してますから。それよりも、オスプレイに異常はありません。お気をつけて」


 エンジニアに会釈すると、続いて楓もオスプレイへと乗り込む。


「鹿島君、もう少し皆さんへの態度を改められないんですか?」


「改めたところでどうなる? 俺は戦う覚悟がないやつの相手などしてられない。お前も、愛想ばかり振り撒いても疲れるだけだぞ」


「……私は──う──かをう──すよ」


 楓は何かを呟いたように聞こえたがプロペラの音によって、ノイズで邪魔された通話のようにしか聞き取れなかった。だが、結城自身も楓の事情は存じていることから、大方予想はついていた。


 やがて、オスプレイはその身を地から離し、遥か彼方へと飛翔するのであった。

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