星空に花を

星空に花を


……———



放課後。


家に帰って着替えてから走った。


必死になって走った。



私が春平を好きだという想いは"これ"しかないと思っていたから。



日も落ちて少し空に赤みが薄れた頃、春平に電話をかけた。



出なかったら、メール…もしくはまた電話すればいいし…



『…もしもし。』



でも春平の声が聞こえた。



よかった…


一回で出てくれて。



「春平!!今何してた?」


『えっと…テレビ見てた。』


「家?」


『あぁ。』


「今、出れたりしない?」


『…塚本は今どこいんだ?』


「ん?ほら高校の近くの…てか春平の家の近くの公園!!そこにいる!!わかる?」


『わかる……けど、なんで』


「待ってる!!」


『え?ちょ』



春平にこれ以上何か言われて、来てくれなくなったら困るから、途中で切っちゃった。



来てくれるかな…



初めて来た公園のジャングルジムの天辺に登って空を仰ぐ。


公園で遊ぶ子供達もいない。



たまに部活帰りの中学生とかが通り抜ける。



時間が長く感じる。


ドキドキする


やっぱ告白するの…明日にしようかな


でも今の勢いに乗らないと、春平の線引きは日に日に太くなるかも。



会うの怖い…


でもやっぱ



「あ…一番星。」



早く会いたい。


……



「塚本。」



星をボーッと見てたら、時間が過ぎてたみたい。



「春平…」



ジャングルジムから見下ろす先にパーカーを軽く羽織る春平がいた。



「電話…いきなり切ってスマホ電源も切んなよ。」


「…ごめん。」


「俺が急用とかで来れなくなったらどうしてたんだ。」


「春平…」



それでも来てくれた。


もう『もしも』とか『もしかしたら』なんて話を考えるのに疲れた。


だから私は春平を呼んだんだ。



「聞いてほしいことあるの!!」



ジャングルジムから立って、そこから呼び掛けるように声を張った。



「春平!!」


「…」


「やっぱ春平から"こんぺいとう"もらいたい!!」


「…」


「食べたいとかじゃなくてね…私、春平のその感情が欲しいです!!」


「…え?」


「春平の好きの結晶…欲しいです。」


「…………だからもう塚本には…あげない。やるわけにはいかないし、これ以上……塚本の感情を混乱させたくない。」



春平のはっきりとした物言いに言葉を詰まらせた。



「本当だったら、もう関わんない方が…塚本のためなんだよ。」



ゆっくりとポケットから手を出して春平は背を向けた。



「言いたいことってのが"こんぺいとう"だったら…いつでも『買って』やるから…もういいだろ。」



ダメ…


行かないで!!



伝えたいことはそれじゃない…



『たとえこれが…嘘でも夢でも。俺もお前とこうしてココにいること、幸せだと思ってる…すっごく。』


青い空。




『俺も…心臓変。』


こんぺいとうの花。





好きだっていう気持ちが何なのか……私、知ってる。




いけ…


いけ!!私!!



「ーッッ好き!!」



上から叫んだ。



「好き!!!!」



大きな声で。



「大好き!!!!」



何度でも。



春平が足を止めて、こっちを見上げた。



「私、春平のことが好き!!」


「…」


「今まで言ったこと…なかったけど、春平のこと好きだったの!!だから付き合う前からずっと春平を探したの。"こんぺいとう"を食べる前からずっと春平を追いまわしてたの!!」


「塚本。」


「騙されたって…思っ……たけど、やっぱ。でも私は"こんぺいとう"も含めて春平が大好きなの!!春平の時間が好きなの!!春平の腕もキスも…春平の"花"が好き!!」


「……はな?」



私の隣に置いておいたジャングルジムに乗せていたカバンを開けた。



そして膨らんだ袋を抱えた。



「私は…春平みたいに、好きって、表現なかなかしないし…言葉だけじゃ伝わらないし、信じてもらえないかわかんないんだけど…春平の"こんぺいとうの花"は…すごくすごく…嬉しくて素敵で…そこに嘘がなくて真っ直ぐなんだよ!!そんな花を咲かせてくれる春平のことが……私うれしくて……大好きなの!!」


「"花"…」


「春平はもう私に花を咲かすことはないかもしれない。でも、だけど、だから…私も……春平にも"大好き"を見てほしいの!!」


「え…」


「行くよ!!」



口の空いた袋を思いっきり上に向けてバラまいた。



シャラ…


シャラ…


シャラ…



夜空に大量の"こんぺいとう"が舞い上がった。



シャラ…


シャラ…



「春平!!」


「…あぁ」


「好ッッ…わっ!!」



ジャングルジムの上でよろめいてしまった。


やばい!!


この高さは死なないかもだけど、絶対痛い!!



「きゃあ!!」



目を瞑った。



「かなで!!」



その向こうでずっと待っていた言葉が聞こえた。




…うっ!!


すごい衝撃!!



…のわりに、痛く…ない?


目を開けたら完全にしりもち着いた春平に乗っかっていた。



「…ッッ痛ー。」


「え?わ!!ごめん!!春平、大丈夫!?」


「かなで…ジャングルジムの上で動き回るの、マジ危ないから。」


「ご…ごめん。」



名残惜しいけど春平を痛めつけるわけにはいかないから、春平から退こうとした。



でも春平に腕を掴まれて、体を離すのを制された。



「俺の"こんぺいとう"…」


「え?」


「あんな風に瞬いて見えるのか?」


「…うん!!綺麗なピンクに染まって、花が開くみたいに…」


「花か…俺にはさっきの"こんぺいとう"は星空に見えた。」



うん。


私もそう見えた。


思わず仰いで、足を滑らしちゃったんだけど…



「あれが…お前の…"好き"か?」


「……うん。」


「そっか。」


「うん。」


「…」


「…」



それ以上に言うことが思い付かない。



ドキドキする。


それはジャングルジムから落ちたから?


星空の"こんぺいとう"が綺麗だったから?


それとも…



「ところでこの"こんぺいとう"はどうしたわけ?」


「え?今日、急いで買ってきた!!」


「だから色とりどりなんだ。つーかもったいねぇな。」


「ごめん…春平に告白って思ったら"これ"しかないと思って…。いや!!てかもったいなくないよ!!これは蟻さん達へのプレゼント!!大セールだよ!!」


「なんだそりゃ。」



その時、春平は…



「…え?」


「…なんだ?」


「春平、いま笑った?」



一瞬、小さく、春平が笑ったのだ。



春平も目を開く。



「…笑ったか?」


「うん!!笑った!!絶対笑った!!」


「そうか…」



小さく顔を弛ませた春平に愛しさが溢れて、その首に抱き付いた。



「春平!!」


「ん?」



春平もソッと背中に手を回してくれた。



「好きです!!」


「…ん。」



春平は肩に手を置いて、私と目を合わせた。



「俺も奏が好きです。」



そこにはハニカんだ最上級の笑顔と一粒の"こんぺいとう"が空に光った。


~fin~

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