恋をする
恋をする
……———
「あのね?だから私もう気にしてないから!!どんな"こんぺいとう"食べても大丈夫だよ!!」
「でも食べられると俺の気持ち、モロバレって恥ずかしいし。」
恥ずかしいしって!!
無表情に淡々と何言ってんの!!
春平、恥ずかしがるキャラじゃないじゃん!!
今日も昼休み、春平と屋上で過ごす。
でも"こんぺいとう"はもうくれない。
「ケチ!!くれたっていいじゃん!!」
「腹減ってんなら、弁当でかく変えろよ。」
春平はこっちを一切見ずに、寝転がって昼寝をしようとする。
冗談を交えて言ってみてるけど、こっちはこうして断われるごとに春平との距離を感じる。
これでいいじゃん。
前みたいにお互い嫌な気持ちのまま、無視してるわけじゃないんだし…
そう言い聞かせてみた時もあったけど…今は無視してた時よりも、もっともっと距離が遠い。
…遠いんじゃなくて、ハッキリとした線引きをされているのがよく見えるようになったのだ。
「…春平?」
「ん?」
「…もう、彼女には…なれませんか?」
真剣なトーンに春平がソッと目を開く。
「塚本。」
「…」
「俺は散々、お前の気持ちにイカサマをした。」
「…」
「これ以上、塚本を傷付けるわけにはいかねぇ。」
春平は体を起こして立ち上がった。
「お前のその気持ちで充分嬉しいから…」
「でも、」
「こんな気味悪い"こんぺいとう男"は…もうやめとけ。」
春平は「じゃあな」と一言残して、屋上を立ち去った。
春平…
春平…
「うっ…う~…」
その場で膝を抱えてしゃがみこんだ。
なんで好きなの?
何が好きなの?
なんで春平なの?
それは本当なの?
本物の気持ちなの?
「うっ……うぅ……んー。しゅっ…しゅんぺぇ…」
なんて情けなくて頼りない自分の涙声。
こんなにも…こんなにも脆い"好き"が愛しくてたまらないのに…
偽物なの?
恋に恋した自己満なの?
私は確かに"こんぺいとう"に恋した。
でも…春平がいないと、意味ないのに…
どれぐらい格好悪く、そうやって泣いていたのだろう…
しばらくして声が降ってきた。
「…かなで?」
顔を上げなくても凛としたその声は真葵しかいない。
「かなで。」
「…」
「もう授業始まってるよ?」
「う…うぇっ…うー……うぅ。」
「……泣き虫。」
「泣き虫って……真葵のッッ~イジワル~!!」
イジワルと言ったけど、真葵は膝を抱える私の横にずっといた。
「だから和田のこと忘れた方がいいって言ったのに…」
「…う、うん。」
「その恋も"こんぺいとう"かもしんないのに…」
「あ…あきら、めッッめる、べき、?」
「私は奏は変な子だなって思ってた。」
「え?」
「和田に明らかに好き好きオーラ出すくせに、肝心な時になると急に弱気でしおらしくなってさ…」
「…うん。」
「なかなか告白もしんないしさー、」
「…う、」
「積極的なんか消極的なんかよくわかんない感じで。」
「…」
「奥手とか可愛いもんじゃなくて、ヘタレだよ。単なるヘタレ。」
「真葵…私だいぶへこんできた…」
「そんな奏は誰よりも綺麗だったよ。」
ぐちゃぐちゃに濡れた顔を上げると真葵の穏やかな笑顔があった。
「私は和田の"こんぺいとう"を食べてる奏を見たことないけど、私の見た奏は確かに『恋する綺麗な女の子』だったよ。」
「……うん。」
「和田のこと好き?」
「うん。」
「"こんぺいとう"の気持ちせいかもしれないんだよ?」
「うぅん。"こんぺいとう"っていう…キッカケのおかげだよ。」
「そっか。」
真葵は優しく頭を撫でてくれた。
「じゃあ伝えなきゃね?」
「伝えたけど…春平はもう…」
「ホントに?」
「え?」
「ヘタレの奏が言えたの!?」
「え?え?」
「『好きだ』って。」
「…………ん?」
「『大好きだ』って、和田が呆れるくらいに伝えた?」
「言って……ない。」
「…」
「『"こんぺいとう"欲しい』とか『元に戻りたい』とか『彼女にして』って…」
「……まぁ、意図は伝わるけど…弱いよね。」
「弱い?」
「和田みたいに…人を避けて、自分にコンプレックスある奴にはストレートに強いの一発かましてやんなきゃね?」
真葵が私を撫で続けながら、笑った。
涙が溢れそうだったから、また膝に顔を埋めた。
私はヘタレだ。
何も伝えてないのに
一人で舞い上がって、腹立てて、悲壮に酔ったり…
"こんぺいとう"なんか関係なく…恋に恋してたんだ。
「真葵、私…最初で最後に最大の想いを春平にぶつけるよ。」
恋は一人じゃできないから。
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