幸せの形

幸せの形


……———



「はあぁ!?付き合うことになったぁ!?和田とぉ!?」



学校へ登校中の朝、真葵に報告したら恥ずかしいくらい叫ばれたから「声が大きいって!!」と注意した。



「いつの間にそんなことになってんの!?前まで友達以下の餌付けの人だったじゃん!!何がどうなってそうなるのっ!?」


「なんとゆーか…流れですかね?」



なんだか照れくさくて、くすぐったい気持ちに曖昧に答えたら注意したにも関わらず叫ばれた。



「流れもクソもあるか!?どっち!?告り?告られ?どっち!?」


「どっち…っていうか…どっちなんだろ?なんか…私から告白しようとはしてたんだけど、ワケわかんなくなって…告白になってないうちに…なんてか、春平から…」


「…何。」


「まぁ……キスされた…って言いますか…?」


「ぎゃあぁー!!!!マジでか!?」


「ちょ…真葵。だから声が大きいって!!」


「アイツはムッツリだったのかぁー!!」


「ムッッ…!?何言ってんのよ!!!」



すっかり周りの人にジロジロ見られながらも私達は夢中ではしゃいだ。


いよいよ校門を通るころにはさすがに真葵も落ち着きを取り戻した。



「でもさ、告白されたわけじゃないし…本当に付き合ってるって言っていいの?」


「あ…それは大丈夫。帰りに聞いたから!!」


「なんて?」



そう。

あの後、春平からたくさん"こんぺいとう"を貰い、駅まで見送ってくれた時に私はたまらず聞いたのだ。



『ねぇ、私らってさ…付き合うの………かな?』


『…まぁ。そうなるんじゃない?』


『…そっか。』


『おぉ。』




……———



「…え。それは本当に付き合うことに…なったの?」


「え?なってない?私の早とちり?」


「いや…まぁ、アリか。そういう始まりも」


「でしょ?でしょ!」


「あ。」


「え。何?」



下駄箱で上履きに履き替えていたら、真葵が視線を外して声を出すから、それに合わせて振り返った。



春平だ。


真葵は耳元に小さく囁いた。



「…よかったね。」



それだけ言って私を置いて先に行ってしまった。



春平と二人で話せるように気をつかってくれたのかな?



それまでぎゃーぎゃー叫んでたくせに、なんだかんだで春平とのことを喜んでくれてるみたい。



そんな真葵の気持ちが恥ずかしくて嬉しくて…変な気分。



それでも春平は無表情。



「おはよう。」


「お…おはよう。」




昨日のキスのことを思い出すと顔から火が出そう。


春平は至って普通。


それが春平なんだって、わかってもなんか不安っていうか、私だけバカみたい?って思っちゃう。



でも…



「塚本。」


「ん?」


「手ぇ出せ。」


「え?あ…は。…え?」



変にキョドキョドしたまま手を出せば、二つの"こんぺいとう"。


それを見て胸がキュッとなった。


春平は普通な顔して靴を履き替えている。



「春平。」


「何?」


「もしかして、これ。私と今会って『嬉しい』って感情…の出来たてだったりしますか?」


「…」


「な…なんてね?」


「…」



か……彼女になれたからって調子乗り過ぎた!?


誤魔化し笑いをしようとしたら春平から軽いチョップを頭に喰らった。


痛くはなかったけどビックリして頭を押さえた。



「え?え?なんで?」


「…」



え?


…もしかして、図星だった!?


図星の照れ隠しのチョップ的な!?



真っ赤になっていく顔を春平がジッと見ている。


慌ててもらった"こんぺいとう"を口に含んだ。



それはとても甘くて優しい。



「うん。美味しい。」



だから笑って春平にそう伝えてみせた。


春平は優しく頭に手を二回ほど置き、そのまま階段へと進んでいった。


その背中を見るとさっき以上に胸がドキドキした。



……————



「奏ちゃん。春平と付き合うことになったんだって?」


「情報が遅いよ、菊池。何週間前の話してんのよ?」



私も真葵も部活が終わり、教室で待ち合わせていた時に菊池君と鉢合わせた。



「なんで奏ちゃんじゃなくて真葵が答えんだよ。」


「アンタの話題があまりにも遅いから。」


「ちげぇよ!!だってアイツ、すぐに教えてくれなかったんだもん!!」



春平、私と付き合ってること周りには言ってないんだ。


ちょっとショックかも。



「まぁよかったね、奏ちゃん。今から春平と一緒に帰んのか?」


「…?うぅん、帰らないよ?」


「…えぇ?なんで!?」


「なんでって…春平は帰宅部だけど私、部活だし…春平なら多分もう帰ったよ。」



菊池君とのやり取りに真葵が溜め息をついた。



「菊池…言っとくけど、ここのカップルは何の進展もないから。」


「え?進展って…マジで?一緒に帰らないの?土日とかも出掛けないの?」


「…えっと、一回行ったかな。映画見に。」



照れて言う私の傍で真葵が菊池くんにポソッと言った。



「更に言っとくと、このデートも本当に映画見ただけらしいよ。手も繋いでない。」


「えぇ!?一回しか行ってないのに何もないの?遊びに行っただけじゃん!!」


「ホントだよ、和田のやつ…。最初にチューはしたくせに…」


「ちょ!?真葵!!!」



照れて慌てる私をよそに菊池君も「マジか!?」と叫ぶ。


そんな叫ばれるほど変?


私らって…。



「…奏ちゃん。それはホントに付き合ってんの?」



え?


そこ疑うの!?



焦りながらも弁解した。



「時々メールや電話もしてるし、昼休みは一緒に屋上で"こんぺいとう"食べてるよ!!」



瞬きを繰り返しポカンとする菊池君が一言。



「…それって、付き合う前と何が違うの?」


…。


…?


!!!



「ホントだ!!!一緒だ!!!」



真葵は腕を組んで「ばーか。」と言ったが、そんなの耳に入らないくらいの発見にビビった。



「いや…待って!!前と違ってお互いの気持ちの確認した!!春平が私のこと好きなら今まで通りでも大丈夫!!」


「……一ヶ月もたってないペーペーカップルがなに大層なこと言ってんの。何の刺激もなけりゃ気持ちなんて変わるかもしんないでしょ?」



グサッ!!


真葵の言葉が胸の中心にきた。



「で…でも私は今のままで充分しあわ…」


「アンタはね。でも和田はわかんないよ。てかいざ付き合ってみたらつまんねーなとか、変わんねーなって思って…てかめんどくさくなって、何も仕掛けてこないとか?」



グサッ!!



「そもそも和田はカナを"好き"って言ったの?」



グサグサグサッ!!!!



KO。



「真葵さん…立てないっす。」


「一意見よ。安心しきってないで、少しは進展させないってこと。」



進展…ですか?


でも春平と一緒に"こんぺいとう"を食べてるだけで、とても満足な私って子供なのかな…



……———



暖かな午後の日差し。


いつものように屋上で春平と日向ぼっこをしていると、いつもと同じはずなのに真葵の言葉が引っ掛かってなんだかふと不安になってしまった。


"こんぺいとう"を食べる手が止まる。



「どうかした?」


「いや…春平はさ。私と付き合ってて楽しいのかなって。」


「…は?」


「私のどこを好きになったの?」



春平は無表情で私を見た。



ハッとなる。



呆れられたのかも!?



「ごめんごめん!!!ウザい質問だったね?ごめん!!忘れて!!」


「…別にいいけど。何?」


「な…何って…だって…」


「塚本は俺といてつまんないのか?」


「違う違う違う!!!こうして、一緒にいるだけで嬉しい!!し…幸せ!!!すっごく!!!」



言ってから、すごい恥ずかしいことを口走ったと顔が赤くなった。


俯いて、手にある"こんぺいとう"をコロコロ動かした。



「あんまり…その…付き合う前と変わらないから…変なのかな…って思って。」


「そうか?」


「私ら…本当に付き合ってんのかな?」



もう一度ハッとなった。


なんで不安をこんなウザい言い方しか出来ないのか。



真葵がいらんこと言ったせいだ!!こんちくしょー!!



誤魔化すように自分の手にあった"こんぺいとう"を口に放り込んだ。



「塚本。」



春平の声にドキッだかビクッだかキュンとか…何とも言えないような心臓が反応した。


でも顔が上げられない。


だって付き合って数週間だけで『私達付き合ってる?』なんて確認する彼女なんて……絶対めんどくさいに決まってる。


春平のあの無表情を見て不安が膨れ上がられない自信がない。


しばらく顔を上げなかったら、また春平が呼んだ。



「塚本」


「……」


「…………かなで。」



……え、


名前……


ビックリして顔を上げてしまった。



その隙に手が伸びてきた。



私は声を出すタイミングを逃し、すっぽりと春平の腕の中にいた。



「…あんまり彼氏彼女らしくすると…俺の身がもたない…というか"こんぺいとう"が出過ぎて、困る。」


「は…はい。」



春平って…体大きい。



てか抱き締められてまた心臓が変なんですけど!!


そんな強く抱き締められるとすっごく鳴ってる心音がバレそうで恥ずかしい。



「でも俺はお前と付き合っていきたいって思ってるよ。」


「…はい。」


「たとえこれが…嘘でも夢でも。俺もお前とこうしてココにいること、幸せだと思ってる…すっごく。」


「…春平。」



春平の背中に手を回して、私もギュッと抱き締めた。



「これ以上"こんぺいとう"が出すぎるのは…大変だから。しばらくは今までと一緒じゃ…ダメか?」



無表情な春平。


でも誰よりも素直な春平。



さっきから出てくる"こんぺいとう"に嘘も偽りもないのがわかるから。



思わずクスクスと笑った。



「私も…幸せだから大丈夫。」


「…そっか。」



春平は私の肩を持って、ようやく体を離した。



「…でも我慢は無理そうだから、そこだけは先に謝っておく」


「え?……んっ。」



その熱い唇にもう一度、"こんぺいとう"の花が咲く。

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