感情の結晶
感情の結晶
……————
「カナ、それはイメージ悪いんじゃない?」
放課後、
「なんで?どこが?」
「女として最悪ってんの。向こうは『奏は"こんぺいとう"のために毎日つけ回してる』って思ってんでしょ?」
「えへへ~。つけ回してるってわけじゃぁ~」
「照れるとこじゃないわよ。褒めてないから…。まぁともかく、和田にしたらカナは…」
「私は…?」
「食い意地張った女。」
「…え?」
「ね?イメージ最悪でしょ?」
食い意地張った女?
色気の欠片もない!!
クラスの皆が帰った教室で机に突っ伏した。
そんな私を見下ろして、ケラケラと菊池君が笑う。
「まぁでも春平のやつも実際に助かってるみたいだぜ?」
「菊池…あんた何うちらの会話に混ざってんの?」
「だって~春平の委員会がまだ終わんねぇんだもん。別に良くね?」
「だからって、ここで待たなくてもいいでしょ?あっち行きな、シッシッ!!」
「まぁまぁ、真葵?私は菊池君の情報提供にはだいぶ感謝してんだから。で、何が助かってるって?」
菊池君は春平の親友。
何も打ち明けていないのに何故か私の気持ちを見破った人だから、ついついこうして私も恋バナして相談しちゃう。
「あいつ、無表情であって無感情ってわけじゃないからね。ポロポロと"こんぺいとう"が出てきちゃうんだってよ!!大体は自分で食って処理してっけど、切りがないよな。だからカナデちゃんに食べてもらってんのは、やっぱ助かるって!!」
……だからって食い意地張ったなんて色気のない女って春平に思われてたりしてたら確かに嫌だ…。
でも素直に春平に会いたいなんて恥ずかしくて言えない…。
「大体、和田の"こんぺいとう"って何なの!?出てくるって何よ?食べて、害がないわけ?」
「失礼なー!!春平の"こんぺいとう"って最高なんだよ!!真葵が食べてるポッキーよりもずっと!!」
顔を上げて反論したけど、真葵はスルーして菊池君に話を続ける。
「菊池と和田って幼なじみなんでしょ?最初からそんな力があったわけ?」
「いつからかはわっかんねぇけど、俺が出会った時にはもう"こんぺいとう"出せてたな…」
『“感情の結晶”みたいなもんかな?』
私も春平の"こんぺいとう"を知ったのは、つい最近のことである。
その時、春平にそう言われたのだ。
『コラ!!和田!!授業中に何食べてんだ?』
いつも注意されている春平。
いつも何かを食べている春平。
2年のクラス替えで初めて知った同級生だけど、すぐにその存在を覚えた。
静かで無表情で特に目立つ感じではないのに、どこか心に残る男の子だった。
勇気を出して思っていたことを聞いたのは春平が一人、図書室にいた時だった。
『和田君っていつも何食べてるの?』
『…何が?』
『食べてるでしょ?いつも授業で注意されてるじゃん』
『…あんた誰?』
ずっと本を読んでいた春平がそこでようやく顔を上げて私を見た。
『えぇ!?おんなじクラスメイトだよ!!知らない!?』
『…知らない。』
『
『かなで?』
『"奏でる"って書いて、"か・な・で"。』
『…ふーん。わかった。塚本さんね。』
『…………まぁ、いっか!!で何食べてんの?和田君って食いしん坊なの?』
しばしの沈黙のあと、ゆっくりと動いてポケットの中身を見せてくれた。
それはティッシュに包まれた色とりどりの"こんぺいとう"。
『わぁ…すご。きれい!!これ食べてたの?こんぺいとうが好きなんだ?』
『…まぁ。』
『へぇ~。あ、私にもちょーだい?』
『…………はい。』
私の差し出した手に置かれたのは、たったの小さな一粒。
『え~?ケチ!!』
『…』
『まっいーや!!ありがとう!!いただきます♪』
それが春平の"こんぺいとう"を口にした最初の時。
『わっ…』
口に広がる砂糖。
甘いのに強くなくて鼻に抜ける香りが優しい。
『すごい…。すっごく…美味しい!!!!!』
感動するがまま力を込めて、春平を見つめて、感想を伝えた。
『なにこれっ!?市販のもの…じゃないよね!!すっごい美味しいもん!?手作り!?高級もん!?』
春平はわずかに目を細めて私をまっすぐ見た。
『感情の結晶みたいなもんかな?俺の。』
『…え?』
『俺が笑う度泣く度に生まれんだよ。ポロポロと。』
『…こんぺいとうが?』
『そう。だからいつも持ってんだよ。こんぺいとう。』
今思うと、ちょっとあしらわれた言葉だったのかもしれない。
春平は何度もこんな風に誰かに"こんぺいとう"を聞かれる場面に出くわしたのだろう。
それに対してどんなに隠してもおどけても真剣でも……信じてもらえなかったんだろう。
だから春平はこんな顔も覚えていなかったクラスメイトにあっさりと本当の説明をしたのだと思う。
多分信じないだろうと思って。
『そっか!!だから美味しいんだ!!』
『…は?』
だけど私もあっさりと受け入れた。
むしろ納得した。
だってそれほどまでに美味しかったのだ。
その優しい味がただのお菓子でないことが自然に感じた。
『お前って変な奴…』
『…え?』
カランコロン、カラン
いつ出たのかわかんないけど、いつの間にか"こんぺいとう"が机の上に何個か転がっていた。
『…え?この"こんぺいとう"って…』
『…出来たてだね。多分。』
春平はそれを摘まんで私に渡した。
『塚本、食べていいよ。』
カラン
無表情でそう言う春平。
カランコロン
でも春平が笑った気がした。
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