sweet emotion

こんぺいとう

第1話


ひとつ


カラリ……—


またひとつ


コロリ……—



君から溢れた結晶が生まれる。







春平しゅんぺい~!!しゅんぺえ~?」



空を存分に独り占め出来る場所。


高校の屋上。


和田春平わだ しゅんぺいがいつもそこでお昼寝をしてるのを私、塚本奏つかもと かなでは知っている。



「見ぃーつけた♪」


「塚本…またお前か。」



寝転がっていた彼は眠たげに目を開き、私を確認した。


春平はいつでも無表情。


怒りもしないし、笑いもしない。



「いーじゃん!!春平だって昼寝場所、変えないんだし!!」


「俺の自由だろ?」


「え~?せっかく減らすの手伝ってあげようと思ってるのに?」


「…塚本がただ単に食べたいだけじゃ?」


「…バレた?」


「…毎日来るからね。」


「だって美味しいから!!春平の"こんぺいとう"。」



そう言って満面の笑みを見せると、春平は表情を崩さずに溜め息をついて呟いた。



「…手出して。」




シャラ、シャラ……シャラ



慌てて両手で受け止めたのは淡い桜色の"こんぺいとう"。



「わっ!!ありがとう!」



表情を出さない春平。



春平は代わりに"こんぺいとう"を出す。


それは不思議な力だけど、自然なこと。



嬉しかったら笑顔を作るし、悲しかったら涙を作る。



春平は表現の方法の一つで代わりに甘い"こんぺいとう"を作るのだ。



1粒つまんで、さっそく舌に転がした。


春平はそっと私の顔を覗きこむ。



「美味しい?」



ドキッ!!



か…顔が…近い。



「う…うん!!甘くて…美味しい。」


「…そ。」


「春平のって、市販のとはなんか味が違うんだよね!!ただ甘いだけじゃなくて、なんてゆーか…」



ドキ…ドキ…


ドキ…ドキ…



だんだん顔も火照ってきた。


気付かれませんように…



「ともかく!!春平の"こんぺいとう"はどこよりも美味しいから私は好きだな!!」




グニッ。



「へ?」



グググググ…



「いたたたた!」



おもむろに頬っぺたを摘まんで引っ張られた。



「い…いひゃい(痛い)!!いひゃひゃひゃ(痛たた)!!」


「塚本って……変な奴だよな。」


「!?」



春平は私の頬っぺを離して、目の前にテッシュの包みを置いた。



「やるよ。」



それだけ言うと、立ち上がって屋上の出口へ歩き出し、背を向けた。



一人残されて、包みを開くと"こんぺいとう"が入っていた。


春平の"こんぺいとう"はお店のものよりも美味しくて好き。


そこに嘘はないけど…



「毎日、君を探すのは"こんぺいとう"目的なんかじゃないのにな…」



届きやしない呟きをこぼした。



不思議な力を持っている君に恋してるんだ。



もらった"こんぺいとう"を全て口に放り込み、噛み砕いた。


甘くて優しい味しかしない。


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