第35話

しばらく無言のまま歩き、気付けばもう目の前は

自分達の教室だった 。


帆夏が教室の扉に手を掛けようとしたその時、


「待って!一息させて。」


と隣に居た夏樹が表情一切変えていない帆夏に言う 。


どうやら夏樹は緊張している様子だった 。


「…もー、早くしないと遅刻になるんだけど…。」


と言って帆夏は呆れながらも掛けようとしたその手を降ろす。


数分が経って、帆夏は隣に夏樹に目をやる 。


夏樹は、目を閉じたままで、自分の胸に手を当てていて、帆夏は自分に何かを言い聞かせているんだと確信したのか何も言わずただただ彼を見詰めた 。


そうこうしていると 、何やら遠くの方から低い声が聞こえてきた 。


「君達そこで何してるんだい?」


その人は、手には沢山の資料を持ちながらこちらに向かって来て 、 こう言ってきた 。


「さては、君達はこのクラスの生徒だね?」


「はい…そうです。」


「ところで、教室にも入らず、何をしてるんだい?」


「ええっと…、私は入っても良いんですが、隣の奴が

なかなか入ろうとしなくて…。」


「ほぉ…、なるほど。どうやらその様子だとそうみたいだね。さては君の隣の子は緊張でもしてるのかな?」


「そうみたいですね…。男の子なのに緊張なんかしちゃって、不思議な奴ですよね。」


「ふふふ、人は誰でも緊張するものだから仕方ないんじゃないかな。それに今日は久々の対面だと思うしね。」


そう、この1年4組の生徒の皆に会うのは入学式以来だ。


「まあまあ、そんな所に突っ立ってないで、教室に入ったらどうかな?もうそろそろ予鈴鳴るしさ。」


「じゃあ、私が強引にでも引き連れますね。」


と帆夏が顔に不敵な笑みを浮かべ言うと 、


「はははっ。君面白い子だね。そうしてくれ。」


と言って、その人は帆夏に笑ってみせた 。


その時、帆夏は一瞬で奪われてしまった 。


その人の見せた〝笑顔〟に ___________ 。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る