第50話

「その当時俺を担当してくれた看護師さんが

その事実を伝えた後からしばらくの間の俺の

様子を退院時に教えてくれたんだ。」



晴人が包み隠さず話してくれる事にどこか

嬉しく思いつつ相槌を打ちながら聞く。



「毎食3食全然手付かず飲まずで1日に

必ず”死にたい”そう言ってたんだってさ。」



聞いた瞬間いかにその事故が晴人にどれだけ

残酷な思いをさせたのかが伺える。



その当時の晴人を思うと再び泣きそうに

なるのをグッと堪え私はこう晴人に返した。



声出ないかもしれない、上手く伝わらない

かもしれない、だけど、あの時突き放す様な

言い方したのは晴人自身がこの過去の事を

知られたくなくて見栄張っただけなのかも

と思えたら傷付けたのはあたしだ。



恐る恐る口を動かして晴人に伝えたい

事を言葉にして発してみる。



「あたし何も知らなかった!晴人はあたしを

傷付けたって言うけど傷付けたのはあたし。

なにも知らずに勝手に疑って本当にごめん!」



「…ふはっ、お前いつも通り喋れてるじゃん。

何でお前が謝んだよ、それに傷付けられたなんて

思ってない。それにしても戻って良かったな」




「……っ。」



泣いちゃ駄目なのにそう安堵するような

優しい言葉を掛けてくれる晴人に次から

次へと目から雫が頬を伝って流れてゆく。



あたしが泣くと晴人はまた自分を責めてしまう。

これ以上泣いてる姿見せられまい。



そう思った私は彼に何かしら伝えてこの場を

出ようと思い、少し動くようになった足を

ベッドからゆっくり下ろして立ち上がろう

とした次の瞬間、晴人に無言で抱き締められる。




「……!? …晴人?」

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