第9話 アデリアと大迷宮
「お前の母さんは大迷宮に取り憑かれてしまったんだ。」
伯父の話に出てくる母は、困難は確かにあったが不幸には思えなかった。何より目の前のおとなしい伯父さんが、そんな長い旅をしてきたことに驚きだった。
「迷宮に取り憑かれるってどういうこと?」
「魔法は魔素を消費して使う話しはしたな。」
「魔術は魔力を魔法は魔素をでしょ。」
「そうだ。そして迷宮は魔素を大量に保有している空間なんだ。つまり魔女であるアデリアの独壇場だ。万能感に酔いしれた妹は、性格まで変わってしまったようだったよ。」
魔女であるアデリアは、街の中ではいつ追われる身になるかわからなかった。しかし、迷宮の中でなら違う。誰に憚ることはないのだ。
伯父は悲しそうな顔をすると何かを否定するように首を振った。
「次第に街に戻らなくなり、家に帰らなくなったよ。ポランの話では迷宮から出てくることすら稀だったらしい。」
そして連絡が途絶え、十五年以上たったある日、突然モモを連れて伯父の目の前に現れたと言った。
その話にモモは驚く。モモにその記憶は無いのだ。母は死んだと伯父は言っていた。
「母さんは生きているの?父さんは誰なの?」
伯父は残念そうにモモの肩に手を乗せる。
「今はわからない。生きていたとしてもおそらく大迷宮の中だろう。そして父親が誰かは本当に知らないんだ。アデリアは死んだと言っていたがね。」
「父も母も私も捨てて迷宮を選んだんだ。私にはわからないよ。誰よりも家族を愛していたのは妹だった筈なのにね。」
伯父の声に涙が混ざる。
「父も母も死ぬまでアデリア、アデリアってね。目の前にいたのは私だったのに。」
モモはどうしても聞きたいことが一つだけあった。
「母は僕を預ける時に何か言いましたか?」
伯父は少し迷うと「この子に才能は無い。迷宮では邪魔にしかならない。」と言った。
「才能が無いと聞いた時、私はほっとしたんだ。この子は普通の幸せを求めることができるんだってね。私はお前のことを今では本当の子供だと思っているよ。」
どこまでも優しい声であった。
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