第8話 迷宮街

 南から大迷宮の街を目指した者はまず、荒屋が立ち並ぶ番外地の大きさに度肝を抜かれる。

 「今見えてるのは街ではないんだよな。」この旅の間にすっかりと仲が良くなったポランに伯父が話しかける。

「ああ、今見えてるのは俺の故郷、番外地だ。」

 ナズルは申し訳ないが、と断りを入れると「よく番外地の者が下級とはいえ官吏になることが出来たな。」と不思議がった。

 ふふふ、と笑うポランをアデリアは気持ち悪いと文句を言った。

 「俺はあの大迷宮で一山当てたのさ。その金でちょっとした商会の息子って立場を買ってね。後は簡単だったよ、出された手に銀貨を乗せればいいだけさ。」

 要は身分を偽装して、そのあとは賄賂で官吏になったと言うことだ。一同はポランに冷たい視線を送る。母は「この人は信用できるの?」と本人の目の前で心配を始めた。

 

 「本当に手配書の心配はないのか?」

父がごく当たり前の不安を口にする。

 「大丈夫だ。山の向こうとこちらでは領主が違う。しかもはもういないからな。」

ナズルが安心していいと太鼓判を押す。

 「その番外地?には寄るの?家族とかお友達とかいるんじゃないの?」

母はポランの心配というより、番外地に寄りたくないのだろう。

 「俺はちょっと寄っていくよ。馴染みに挨拶もしたいしね」ポランは心の中で生きていればね。と付け加える。

 「私は遠慮しておこう。行くとしてもいずれだ。」

ナズルは、ああいった場所は苦手なのだろうなと全員が思った。

 「我々は先に街に入るとするよ。宿屋が決まったら、広場の掲示板に行き先を貼り付ければいいんだな?」

ナズルが連絡の取り方を確認し合うと、ポランを番外地へと見送った。

 

 ナズルの騎士爵が思っていた以上に大きかったようで、大した審査もなく一行は街に入ることが許された。

 ただし平民である一家は、一人辺り銅貨十枚の通行税を取られてしまった。

 ポランの入れ知恵がなければ無一文であった家族は、この場にいない男に感謝しながら通行税を支払った。

 壁門を抜けると、生まれ育った村はもちろん、前の街よりはるかに大きく賑やかな光景が広がっていた。

 二度目の逃亡、二度目の新しい街。何故こんなことになってしまったのだろうと父は空を見上げた。

 

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