Floor2-3/4[ジ・オリジン・オブ・ザ・カーネイジ・バグ#1]

――前回より――


 クイーン・ミサンドリとロード・マーブル。

 強豪同士の激突に起因する爆炎は一帯を尽く焼き払い、

 有象無象の区別なく場の全てを炭か灰へと変えた。


 また、大規模魔法の撃ち合いにより大幅に消耗した両者は

 これ以上の戦闘継続を無駄と判断し現場より撤退。


 壮絶な戦いは痛み分けの形で一先ず閉幕と相成った。

 仮に戦闘が続けば被害拡大は免れなかったと考えれば、

 或いは不幸中の幸いと言えよう。


(……生き、てる……? 生きてる、のか……私はっ……!)


 ただそれでも被害は甚大……

 生存者はシンゲンただ一人であった。


(……生き残ってしまったと悔いるより、

 生き残れたと喜ばねばならんな。

 生き字引として、後世まで語り継がねば……)


 ゴミ箱が半壊する程の爆風を受けたが故か、

 シンゲンは全身傷だらけ、

 動くこともままならぬ重体であった。

 だが彼は尚も諦めず、

 必ずや生き抜くと己自身に誓う。

 だが……


「ひや~、なんやエライ殺風景んなってしもたなァ~」

「さっすがはウチらのリーダー☆彡 サイキョーすぎてマジ卍~☆彡」


 そんなシンゲンに、次なる脅威が迫っていた。



――暫く後――


「……っ、ぅぅ……!」

「にっしっしっしっしっし~☆彡 みぃ~つけたぁ~☆彡

 おぢさぁん☆彡

 ここでぅちらとマッチングとかまぢフコーだねぇ~☆彡

 せっかくぃきのこったのに、

 ぅちらにやられちゃうんだからさ~☆彡」


 決死の決意から数分後、

 シンゲンの命は早くも風前の灯火と化していた。


 傷付き倒れ伏す彼を容赦なく足蹴にするのは、

 際どく華美な身なりの小娘。


「さぁ~て☆彡 まずはどこをどーしちゃおっかな~☆彡

 とりま、ただじゃコロさねーからそのつもりでヨロピクぅ~☆彡」


 挑発的でふざけ散らかした態度の小娘は、

 殺人鬼の真似事か、

 手にしたナイフに舌を這わせ下劣にほくそ笑む。


「何しとんねん、

 勿体つけんとはよりなはれや」


 そんな小娘を急かすのは、

 豪奢な着物の上に白衣を羽織り眼鏡をかけた華奢な女……。

 小娘よりは年上としても、恐らく未成年と思われた。


「えぇ~? もーちょっとじらそ~よ、ブラッド・オイランちゃぁん☆彡

 こーゆーのはフンイキがキモぢゃんね~?

 てか、ここでシんでないの、このおぢだけなんでしょ~?」

「せやな。生体反応はそれで最後や。うちら以外では、な……」


 倒れ伏すシンゲンを前にほくそ笑む二人の女。


 俄かには信じ難い話であるが……

 この下衆らもまた、ユーシャーの端くれであった。


「けどさ~、キタイしたワリにたいしたコトないよね~☆彡」

「……なにがや?」

「だからさ~、イキノコリすくなすぎってハ・ナ・シぃ~☆彡

 もっと、ぢぢばばとかオスガキとかいろいろいればいーのにぃ~

 こんだけさがしてこのおぢだけとか、

 まぢぁりえなくなくなくなくなくなくなくな~い?

 こんなシニカケのざぁこなんてすぐイっちゃいそーだしぃ

 なんかつまんないな~って☆彡」

「そらァしゃあないやろ、メスガキ☆でびるはん。

 ミサンドリ様の攻撃で粗方死に絶えたんやさかいな。

 寧ろここに生き残りがおる方がおかしいまであるやろ」


 ブラッド・オイランの発言で察した読者は多かろう。

 この下衆二名は事実クイーン・ミサンドリが率いる

 女性ユーシャーだけのチーム『鎚不壊美ツイフェミ』が構成員であり、

 主にはチームの関与した悪事や騒動の目撃者を始末する役割を担う。


 揃って世辞にも実力派とは言い難いが、

 とは言え曲がりなりにもユーシャーたる以上、

 下位モンスターや民間人にとっては脅威となる。

 まして相手が、瀕死の怪我人ともなれば事実、

 どう足掻こうと敗北など有り得よう筈もなかった。


「はぁ~ん、そーゆーとこだよね~リーダーってさ~☆彡

 ソシキのトップたるもの、

 みんなへのオモイヤリがダイジってゆ~か~☆彡

 ま、いっか~☆彡

 とりま、こいつでたのしんじゃお~っと☆彡

 ブラッド・オイランちゃん、

 サツエーよろピク~☆彡」

「任しとき~」


 メスガキ☆でびるはシンゲンの、

 既に肋骨が何本も折れた腹を踏み躙り、

 ナイフをちらつかせながら下劣にはしゃぐ。


「ねーねーねーねー? いまどんなキモチぃ?

 くやしーでしょぉ? くやしーよねぇ?

 こんなコドモにだいのオトナがふみつけられてんだもんねー☆彡

 くやしくないワケないよねー☆彡」

「ぅ……ぁ……づ……」

「ほぉらぁ~、わめきなよぉ☆彡 さわぎなよぉ☆彡

 くやしーって☆彡 クツジョクだーって☆彡

 みじめにわめいてさわいで、

 もーっとうちのこと、たのしませてよぉ~☆彡」

「ぐ……ぅぁ……」

「ほ、らぁ! こえはりあげてっ!

 オトコでしょぉ? そのくらいできるよねぇ!?

 ほらわめけ、さわげっっていってんのっ!

 イノチゴイのひとつでもみせてみなってばっ!」

「づ……っ……ころ、し……」

「え~? なにぃ~? よくきこえなーい☆彡

 もっとおっきいこえでいってよほらぁ~☆彡

 ちかくできいててあげるからぁ~☆彡」


 メスガキ☆でびるはぐいと前屈し、

 息も絶え絶えのシンゲンの口元へ顔を寄せる。


「……ブチ、殺して……」

「はぁ~? なんて~? キキマチガイかな~☆彡

 『ブチコロして』ってきこえたんだけど~

 もしかしておぢさん、

 うちらにコロされたいとかそういうアレ~?

 うっわ~キッッショ~☆彡

 まぢドンビキしまくりビキニカンショーなんですけど~☆彡

 ほーらっ、のぞみどーりコロしてあげるからぁ~

 もっとおっきなこえでおねがい、できるよね~?

 『ブチコロしてください』って、

 むこーでサツエーしてるブラッド・オイランちゃんのスマホがオトひろえるよーに、

 おっきなこえで、いってみよっかぁぁ~?」


 調子付いたメスガキ☆デビル。

 下劣にはしゃぎながら命乞いを待ち望む彼女だが……


「……ブチ殺して、やるっ……!」

「――――へ?」


 シンゲンの口から出た予想外の言葉に、

 外道ユーシャーは思わず困惑。そして……


「ッ――」

「え?」

「――らァッ!」

「ぎげあああっ!?」


 刹那、メスガキ☆でびるが宙を舞う。

 垂れ下がる長いツインテール、その左側を掴んだシンゲンにより、

 力の限り投げ飛ばされ……

 否、あたかも器物が如く"放り投げられてしまった"が為である。


「ぉごがあっ!」

「なっ、メスガキ☆でびるはん!?」


 全く想定外の展開に、ブラッド・オイランも混乱し取り乱す。

 助けに向かうか或いは逃げるか、

 迷う外道のその隙を、

 跳ね上がるように立ち上がったシンゲンは逃さない。


「ひっ、なんやこい――

ぁッ!」

「づぼらゃあっ!?

 ぉ、ぐ……ぇ……ぉげええええええっ!?」


 立ち竦むブラッド・オイランの腹に叩き込まれるシンゲンの拳。

 怪我人の攻撃とは思い難く強烈なその一撃は、

 彼女の肋を砕き内臓をも破壊……

 眼鏡の女ユーシャーは骨片混じりの血反吐を撒き散らす。


「ぁ……なん、でや……

 うちは……ユーシャーの女、やのに……」


 非ユーシャーの男に攻撃された挙げ句傷を負う……

 傲慢で男嫌いなブラッド・オイランにしてみれば、

 それは余りにも認め難く受け入れ難い出来事であった。


 だが、生き地獄はまだ終わらない。


「なんや、こいつ……

 ユーシャーでもない、

 しかも……男、の、くせ……に――

屠壊ズェァァッ!」

「ぶべぁぁぁ!?」


 続け様に繰り出された拳が、

 ブラッド・オイランの鼻をへし折る。


「ふご……ぶごっっ……!

 なんで、や……

 うちは、ユーシャー、やのに――

「屠壊ァッ!」

「ぼぎゃあぁぁっ!?」


 三発目の拳により、

 鼻は跡形もなく崩壊する。

 そして……


「うち、は、

 ユーシャー、や――

「屠壊ァッ!」

「ごげぅ!?

 ……ぃ……ユー、シャ――

「屠壊ァッ!」

「ぁがばぁぁっ!?」

「屠壊ァッ!」

「おぎょあっ!?」

「屠壊ァッ!」

「ぅわらッバァ!?」


 繰り返されるのは、

 蹂躙するが如き一方的な暴力。

 相手の精神や尊厳さえ破壊しにかかる、

 まさに鬼畜の所業。

 そして……


「ぅ……ぁぁ……

 うち、は……

 ユー、シャー……

 京の都の、気高き――

セイッ」

「ドズゥェエアッ!?」


 シンゲンの蹴飛ばしたコンクリ片が眉間に命中。

 穿たれた風穴が致命傷となり、凄絶に息絶えるのであった。

 

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