Floor1-2/3[ユーシャー・コンフロンティング・シリアルキラー・モンスター]

──前回より 地下型ダンジョン『超古代都市ロスト・シャンバラ』内──


 若手大物ユーシャーのビッグライ・ブルフィンチは、

 仲間の命を奪い自らにもその後を追わせんとする『敵』と対峙する。


(ユーシャーの誇りにかけて

 コイツは絶対ェブッ殺すっ!!)


 見上げるような巨体を誇る『敵』……

 その姿は厳めしく有機的であり、

 宛らSF洋画のパワードスーツ重装兵が

 おぞましい毒虫怪人と成り果てたが如く。


 取り分け異質なのは頭部で、

 日本妖怪ろくろ首めいて首が長い……

 ように思わせて事実そう見えるのは

 首元より生え聳える、大蛇が如き大百足。


 ともすれば当然、

 先端に備わる頭も美女の生首でなく、

 鞭の如き触覚を振るい、

 牙から毒液を滴らせし、

 恐ろし気な毒虫のそれに他ならぬ。


 付け加えれば、

 尻からも尾の如く大百足の後ろ半分が生えており、

 風貌の異質さを際立てる。


(今に見てろ……

 その無意味にウネついてるキモい足

 全部引き千切ってやるぜこのクソ虫野郎……!)


 剣を構えたビッグライは、

 ただ眼前に立つ『敵』への殺意を滾らせる。


(闇雲に動いちゃいけねェ……!

 状況をしっかりと見極めて、

 一挙手一投足確実に結果を残してかねーとッ)


 平素、仲間が健在であった頃ならば

 自分のやりたいようにやるか、

 または、

 "配信映え"を意識していれば良かった。

 だが今、彼はひとり。

 かつ、装備も限られている。

 即ち、一瞬の判断ミスが死をも容易に招きうる。

 当然、寸分たりとも気の抜けぬ状況……

 なのだが……


『……オイッス、お初です。

 我"カーネイジ・バグ"。

 ユーシャーを殺すものに御座い……』

(なっっ……!?)


 瞬間『敵』もとい『カーネイジ・バグ』の

 予想外の行動にビッグライは驚愕する。

 手を合わせ会釈、厳かに名乗る、

 その動作こそはまさしく……


(や、野郎っ……!

 モンスター風情が『グリーティング』だとっ!?)


 ユーシャーは決闘や試合に際し、

 対戦相手と向かい合い、

 手を合わせ会釈し、

 自らのユーシャー・ネームと、

 己を要約した肩書きを名乗る。

 それこそ『グリーティング』……

 正々堂々、全力を以て誠実に戦いへ臨むとの

 戦闘者としての意志を表明する、

 神聖不可侵なる行為に他ならない。


(ファッキン・アスホーッ!

 グリーティングはユーシャーの誇り!

 それをたかがモンスター、

 それも快楽殺人者の虫けら風情が真似やがるなどっ!

 許せねェェェ~っ!)


 ビッグライの怒りは尤もであったが、

 然し事実として、

 賢く誇り高い上位モンスター等、

 グリーティングを行う非ユーシャーも少なからず存在する。


 ただビッグライを始めとする一定数のユーシャーにしてみれば、

 そのような行為は自分達の歴史と伝統への冒涜、

 最悪の侮辱に他ならない。


(ナメやがってっ……!

 徹底的にブッ殺すっっ……!)


 ともすれば、

 彼が冷静さを欠くのも必然。


「……ファッキン、シット……!

 くたばりやがれッ、ンのクソ虫があっ!

 ドゥェアアアッ!」


 頭を垂れたまま微動だにしないカーネイジ・バグ目掛けて、

 ビッグライは構えた剣を力の限り振り下ろす。


 伝説剣レジェンドセイバー、

 その刃はエルダー・ドラゴンの鱗を切り裂く程に鋭く、

 刀身はダマスク・ゴーレムの拳を受けて尚曲がらぬ程に頑丈。

 準神話級の防具『オリハルクマムシンの盾』をも打ち砕く破壊力を誇る。


 ともすればカーネイジ・バグさえも

 容易く一刀両断できる

 ハズだったのだが……


『ぬぅ?』

「なあっ!?」


 なんたることか。

 ビッグライの振り下ろした刃は、

 確かにカーネイジ・バグに触れており

 その甲殻に傷を付けてはいた。


(な、なんでっっ……!?

 なんでええええっ!?)


 なれど、そこまで。

 伝説剣レジェンドセイバー……

 傑物ビッグライ・ブルフィンチの力の象徴にして

 破壊不能の防具さえ打ち砕く最強の剣は、

 たかが毒虫一匹さえ切り裂けず、

 精々その外骨格を少し傷付けるだけに終わった。


(う、うそだ……

 そんなわけが……

 このレジェンドセイバーが、

 こんなクソ虫一匹殺せないなんて、

 そんな、馬鹿なああっ!)


 思いがけぬ出来事に絶望するビッグライ。

 だが彼は尚も諦めず、

 より強烈な攻撃を叩き込むべく再び剣を振り上げる。


(何かの間違いだっ!

 俺のレジェンドセイバーが、

 こんな虫けら風情に

 負けるわけがねえっ!)


 だが振り被り剣に魔力を込めると同時、

 カーネイジ・バグもぬっと身を起こす。


『不可解な。

 グリーティングはされれば返す。

 それがユーシャーのルールではないのか?』

「うるせぇーっ!

 それはユーシャー同士の話だ!

 モンスター風情のグリーティングなんぞ

 返す価値もあるかッボケェ!

 ヴォーッラアアア!

 エナジー・ブレイドォ!」

『成る程、そういった考えもあるのか』


 ビッグライが剣を振り下ろす。

 放たれるは破壊の魔力を纏った斬撃"エナジー・ブレイド"。

 掠っただけでも標的を破壊しうるその技を、

 流石に危険と察したカーネイジ・バグはあっさり回避する。


「……クッソ、避けンじゃねーよっ!」

『理不尽な。

 確かに私は頑丈でしぶといが、

 断じて無敵ではないのだ。

 よって回避と防御はさせて頂く故、

 悪しからずご了承お願い申し上げる』

「イチイチ断り入れんなッ!

 どーせ俺様が何と言おうと避ける癖にっ!

 だが無敵じゃねーとわかったのは好都合!

 死ねや、クソ虫野郎ぉーっ!

 ウォルラアアアアッ!」


 啖呵を切ると同時、

 ビッグライは即席巻物を発動。

 内包された自己強化魔法を重ねがけし、

 ステータスの上がった状態で突撃する。


『……強烈なれど直線的。

 察するに鍛錬こそすれ現場では突撃一辺倒、

 補助は他者に依存していたな?』

「ああそうだよっ! それがどうしたっ!

 お互いの長所を活かして支え合う!

 それがユーシャーだ!

 てめえらぼっちのモンスターとは違うんだよっ!」


 ビッグライの斬撃は超高速かつ苛烈。

 一分間に十八発のペースで放たれる斬撃は、

 その一発一発が中堅のオークやオーガをも一撃で葬る破壊力。

 なれど如何に苛烈な攻撃も、

 当たらなければ意味を成さぬ。


「さっきはマグレで助かったからって

 イキってんじゃねークソ虫がっ!

 今に見てろ切り刻んでやらァ!」

『騒々しい奴め。

 口では何とでも言えようが、

 実行できるかは別の話であろう……』


 カーネイジ・バグが指摘する通り、

 元来仲間の補助ありきなビッグライの攻撃は、

 その実はやさと激しさこそあれ

 狙いは不正確かつ軌道が読みやすいのもあり

 ただ空を切るばかり。


「ちいっ! 虫けら風情が生意気なっ!

 デカい図体の癖に逃げ回りやがって!

 恥も誇りもねえのかテメー!?

 ユーシャー殺しを名乗るつもりならしっかり戦えゴラァ!」

『なんだ貴様、傷を負いたいのか?

 ユーシャー千人二万色、奇異な性癖も珍しくないとは存じておるが……』

「てめッ……

 俺様ァそーゆーのじゃねェッ!」


 軽口に腹を立てたビッグライは、

 全身の筋肉を総動員して跳躍……

 怒りのまま、騎兵が如き突進にて眼前の毒虫を仕留めにかかる。


「ぬおおおりゃあああっ!

 ナイティック・バンカァァッ!」


 ナイティック・バンカー。

 難攻不落の要塞型ダンジョン『超要塞"罪駕修ザイガス"』、

 その強固な防壁を一撃で打ち破った技として知られる。

 即ち破壊力は絶大であるが……

 当然と言うべきか軌道は直線的、回避も容易い。

 

『……おっ、と。

 照れ隠しにしては聊か乱暴過ぎはせんか?

 もう少し落ち着いたらどうだ』

「クッソ、避けられたッ!」


 事実、カーネイジ・バグはそれを容易く回避した。


『……まあ好かろう。

 此方に利のある申し出、

 受けぬ理由もなし』

「黙れぇーっ!

 ツイスター・ブレードッ!」


 直線的な動きは悪手と悟ったビッグライは

 ならばと剣を横に構え高速で回転し始める。

 これぞツイスター・ブレード。

 自ら刃付きの巨大な独楽と化し、

 不規則で読み辛い軌道で動き回り、

 死角より敵に接近し攻撃する技である。


(真正面からの攻撃が無駄なら

 ランダムに動き回って攪乱してやる!)


 事実この展開はカーネイジ・バグも予想外らしく、

 聊か困惑気味に立ち尽くすばかり。

 程なく全てを諦めたかのように静止したのを見て、

 ビッグライは勝利を確信する。


(勝ったッ、戦闘終了ッ!)


 微動だにしない毒虫目掛けて、剣士は切り掛かる。

 刃には破壊の魔力が満ち、

 ダンジョンボス級モンスターでも深手は免れない。

 如何にレジェンドセイバーを防いだ甲殻とは言え、

 この一撃を受ければ即死する……



(そうだ、くたばれ!

 虫けら野ろー


 『ァッ!』


   ぼぐげっ!?」



 ……ハズ、であった。

 だが事実刃は空を切り、

 剣士は毒虫の掌底打ちにより激しく吹き飛ばされる。


「ぐぶがああっ!?」


 その運動エネルギーたるや、

 ビッグライを背後の塀へ衝突させる程に強烈。

 その飛距離、実に数メートル。

 或いは塀が無くば、その倍は飛んだろうか。


「ぐ、ぉご……!」


 必然、ビッグライは身動きが取れずにいる。


『どうだ、要望通り攻撃したぞ。満足か?』


 カーネイジ・バグは視線も向けず嘲る。

 意識があるだけ大したものだが、

 とは言え長く持つまいと、

 そう考えていたが……


「……クソ、虫がっ……

 やって、くれたな……!」


 ビッグライはしぶとかった。

 交通事故級の重傷を負いながら、

 尚も彼は剣を手に立ち上がったのである。


『やりおるわ。

 七光の名ばかりではないと見える』

「ッたりめェだ、ボケがっ!

 この程度でやられるよーじゃ、

 ブルフィンチの名が泣くってモンよ!」


 啖呵を切りつつ、

 回復と自己強化を済ませ持ち直すビッグライ。

 即席巻物の在庫は尽きたが、

 勝てさえすればそれでいい。


「覚悟しやがれゴミ虫野郎!

 てめぇはモンスターとしてユーシャーに倒されはしねぇ!

 地を這う虫けらとして、

 人間サマに踏み潰されるんだあっ!」


 凄絶なる死闘は

 いよいよ佳境へ突入する!

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