Dungeon1 ユーシャー・マスト・ダイ
Floor1-1/3[ユーシャー・クライシス・イン・ザ・ヘリッシュ・ダンジョン]
──西暦3269年某日 地下型ダンジョン『超古代都市ロスト・シャンバラ』内──
「ファアック! ファックファックファック!
ファッキンサノバビッ!
どうなってやがるデァム!?
一体何がどうしてこうなっちまってんだッ、シィーット!」
舞台はいつの時代、どこの地域ともつかぬ
大都市が如き石造りのダンジョン。
その薄暗い闇を裂くように響く、足音と怒声。
「わけがわからねぇッ!
全くもって
俺様がッ!
最強のユーシャーたるこのビッグライ・ブルフィンチ様がッ!
よもや敵前逃亡を強いられるなどッッ!」
声を荒げ石畳の床を駆ける彼こそ、怒声の主。
ダンジョン探索を生業とする『ユーシャー』の青年……
名をビッグライ・ブルフィンチ。
「あり得ねえ、こんな馬鹿げたことッ!
俺様に限ってっ! こんなっ!
俺はっっ、ユーシャーなのにっっ!」
ビッグライはまさしく天才、英傑たる逸材であった。
偉大なるブルフィンチ家に生を受けた彼は、
文武両道かつ容姿端麗、意気軒高にして少壮気鋭……
まさに非の打ち所無き完璧超人、珠玉の戦士に他ならぬ。
「どういうことだっ! 何が起こってんだっ!
ユーシャーである俺様がっ!
本来追うべき立場の俺様がっ!
こんな惨めな、敵前逃亡なんて真似をっっ!」
或いは世界最強格のユーシャーにもなり得たであろう彼は、
然し事実として今現在、
生涯初となる絶体絶命の窮地に立たされつつあった。
「なんなんだっ! なんなんだよアイツはっ!
有り得ねえっ! 有り得ねえだろうがっ!
なんでユーシャーをっ、俺様の仲間をああも容易くっ!」
必死で逃げ続けること暫し……
ダンジョンの出入り口付近へ辿り着いたビッグライは、
一旦足を止めこれまでの惨劇を改めて回想する。
(待て、一旦落ち着け……
状況を、整理するんだっ……!
まずそもそも、どうしてこうなったか思い出せ……!)
その日、彼はダンジョン探索へ赴いていた。
親しい仲間たちと共に、
数多のトラップを乗り越え、
強大なモンスターと戦い、
希少なトレジャーを手に入れ、
華やかに活躍する様を中継配信し
大勢のファンを魅力する……
人気大物ユーシャーとしての、
いつも通りの日常を過ごす……ハズであった。
(そうだ……俺様は今日も、
いつも通り仲間たちと
ダンジョンでカッコよく無双して、
配信で使い切れないぐらい稼いで、
面白おかしく派手に暮らすつもりだったんだ!)
体制を整えながら、
ビッグライは嘗ての日々に思いを馳せる。
彼の日常は常に煌めいていた。
彼の周りにはいつも仲間がいた。
彼にとって金儲けとは呼吸に等しかった。
ビッグライ・ブルフィンチは、
まさに栄華を極めし成功者であったのだ。
だが、そんな彼の輝かしい日々はつい先程、
一瞬の内に崩壊した。
全てを喪った彼に残されたのは、
事実上、己自身のみに等しい。
(ファック、ふざけやがってっ……!
こんな馬鹿げたことがあるかよっ!
本当なら今頃は、
あのスカしたインテリ野郎に大恥かかせて
二度と表を歩けなくしてるとこだったのにっ!)
建造物の陰に身を潜め、
ビッグライは件の惨劇を回想する。
脳裏に浮かぶのは、
己から全てを奪ったあの憎き『敵』の姿。
(クソッタレ、
ファッキンサノバビッ!
あのバスタードが!
よくも俺様の仲間をやりやがったな!
今に見てやがれ、
刺し違えてでもブッ殺してやるっ!)
ビッグライは憎悪を滾らせ、
手元に残った装備を確認する。
愛用の長剣"伝説剣レジェンドセイバー"の他は、
治癒や自己強化の即席巻物が幾つかと、
スキル用の魔力水晶が三つ。
華美な高級腕時計、
メンズ・ゴールドアクセサリー数点。
プラチナドラゴンの革で作られた財布と
バッテリ切れ寸前で圏外の携帯端末。
……ダンジョン探索に臨むユーシャーの持ち物としては、
必要最低限のラインにすら届いていない。
「シット! たったのこれっぽっちかよ!
こんなんじゃレベル二桁台のロードデーモンにすら勝てやしねぇ!」
ビッグライは思わず声に出して悪態をつく。
カメラの前で見栄え良く派手に動き回らんとする余り、
多くの荷物を仲間やスタッフに預けてしまったが故、
彼はすこぶる物持ちが悪かったのである。
(オーマイ・アマテラス……!)
絶望的状況に歯噛みするビッグライだが、
如何に悔いても後の祭り。
仲間やスタッフは件の『敵』により
必然、持ち物とてダンジョン深奥に放逐されている。
(サノバビッ! マジありえねー!
モンスター避けが切れちまった以上
こっから奥へ戻るなんざ想像したくもねぇ!
そもそもあのクソッタレ野郎が俺様を追って来てる以上、
通路の角やらで襲われたら即アウトだ!)
ビッグライを追う『敵』は、
百戦錬磨の彼をして未知の存在であった。
明らかに人間等の知覚種族ではないが、
かと言って単なる強大な高レベルモンスターとも言い難い。
しかもその上件の『敵』は
彼らに明確な殺意を向け、
口頭での殺害予告までしてきたのである。
まさに常軌を逸した相手……
並みの対処が通ずるとは思い難い。
(つまり俺様が生き残るには、
こいつをブッ殺すしかねーってこった)
それこそ、ビッグライの出した結論であった。
(俺様のジョブはグレート・パラディン……
広い場所で強え奴と、
真正面からサシでやり合ってこそ強い!
スキルを使えばその限りじゃねーが、
それでも結局本領発揮は広い場所でのタイマンよ!
となりゃこの開けたフィールドで
野郎を迎撃すんのが大正解ってなァ!)
覚悟を決めたビッグライは剣を構え、
来たるべき敵を迎撃せんと待ち構える。
そして……
『……』
(……!)
程なく『それ』は姿を現し、
来たるべくして"その時"が到来する。
『…………フンッ』
嘲笑が如く微かに鼻を鳴らし、
両の足にて石畳を踏み締める『それ』は、
一歩、また一歩と前進する……
ゆっくりと、威圧的に……
(とうとう来やがったか……!)
ビッグライと対面する『それ』の風貌たるや
不可解にして不気味かつ、
目を背けずに居られぬほど恐ろしく、
何より極めて怪物的……
(この野郎、ブッ殺してやるっ……!)
凡人ならば恐怖に泣き叫ぶか、
不快感に目を背けそうな『敵』と対面して
ビッグライは微塵も怯まない。
「よぉ、ゴミ虫野郎!
こんなとこまで追っ掛けて来るとは
わざわざご苦労なことだな!」
『……それは貴様もだろう、ユーシャー。
ダンジョンを脱し都市にでも隠れておれば
多少の延命は出来たであろうに……』
苛烈にまくし立てるビッグライに対し、
『敵』は不気味なほど冷静沈着であった。
「黙りやがれッ!
どうせ逃げた所で殺されるじゃねーか!
つかてめー、
よくも俺様の仲間を
ぜってー許さねぇ!」
『……ユーシャーは殺す。
一匹残らず殺す。
貴様の仲間から貴様自身、
その他何れの個体迄すべて……
有象無象の区別なく、
我が総ては何に対しても容赦せぬ』
「……!」
淡々と人工知能めいて紡がれる『敵』の言葉……
それを耳にした刹那、ビッグライは悟る。
(……ザッライ! 間違いねぇ、
この野郎は全ユーシャーの敵だ!
ここでブッ殺さなきゃ
後々とんでもねぇコトになるっ!)
覚悟は決まった。
最早退く理由はなく、
進む以外の選択肢もない。
『……』
(行くぜクソ虫野郎!
この俺様が相手だっ!)
超古代都市ロスト・シャンバラは今、
壮絶な果し合いの開始点と化すのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます