重い食堂の扉を開けると、酢の匂いが鼻をついた。

辺りを見渡しても、エイベル先生の姿が認められないことに安堵して、僕はアルマイトのお盆に手を伸ばす。食欲というのがあまり旺盛な方ではないため、意味もなく食べ物の並べられた長テーブルを周回した。平生の品を盆に取るのは不満なのだが、何も口にしないとまた叱られてしまうので、見慣れた硬いパンと野菜の酢漬け、最後に甘ったるい砂糖がけの菓子をのせた。そうして普段通りの席に浅く腰をおろす。しかし食べる気は相変わらずに起きないので、カトラリーで品々をつついたり嬲ったりしながら、次の鐘が鳴るのを待った。四角いお盆の中で転がるそれらは、ちっとも美味しそうではない。僕の舌の上に着地したとて、それは僕の口を冷ましたり乾かせるだけで、たまらぬ何かを持たらすようなことはないのである。そのために、食の時間というのは僕を苦痛に陥れた。

 鐘が鳴ると、僕はを合口を呑むような手つきで食べ物を懐に入れ、席を立った。熱を持った群衆の中にたった一人、僕だけが冷めた気を持っている。そうして皆が昇っていくから、僕は底に落ちるのだ。周知の事実であるこの現状に違和感を覚える者はなく、それは教会という世界で横たえる不文律の一つに過ぎなかった。雑踏の中で押し退けられながらも、僕は日課をこなしに裏庭へ向かった。

 外は冷えており、前髪が冷風に吹かれ、眼前の景色を映し出した。褪せた空だった。灌木のそばに腰を下ろす。湿った土に浮かぶ小さな穴の数々を指で突くと、黒光したものらの蠢然が窺えた。僕はその蠢く渦中に、先ほどの甘い砂糖菓子を落とした。途端、均衡が崩れたように動向が一変し、暫く待つとまた彼らの目的が一部に集中するのである。これは僕にとってとても興味深い現象であった。寄る辺なき虫たちの変動が及ぼす一興は、僕の心を靡かせる効力があるのだ。こうして見蕩れている時間は、僕にとって僅かながらの道楽であった。

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