第8話
移動速度の関係でフェレンとは別れ、メケレットに魔王城まで案内してもらうことになった。メケレットが何か行動を起こすのかと思ったら、思っていたより素直な子らしい。
「ここだ」
「なるほど。何というか、個性的な」
「ボロ屋敷だ」
「王の城なのに」
「ボロ屋敷だ」
ノリが良いですね。これはかなり優秀だとみて良いでしょう。
「入るか?」
「ええ。ですが、耐久性は大丈夫でしょうか」
「ああ、まあ」
「分からないと」
「そういうことだな」
メケレットと顔を見合わせて、二人でぼーっと魔王城を見上げます。確かに初期のデザイン案はボロボロにしましたが、まさかこのレベルだとは思いませんでした。過去の自分を呪いたい気分です。
「魔法でどうにかしますか」
「は? この規模だぞ?」
メケレットが何か言った気がしましたが、右から左へ抜けてしまったので今回はスルーしましょう。仕方がないことですね。
私は魔王城の最終的なまがまがしくも耐久性に優れた姿をイメージします。そしてパチンと指を鳴らすと、なんということでしょう。イメージ通りの魔王城ができあがったではありませんか。
「う、嘘だろ」
「よし、入りましょうか」
呆然としているメケレットに声を掛けて中に入ります。内装までしっかりイメージ通りに作られているので、これはなかなか良い魔法を使うことができましたね。
「ですが……」
そっと触れてみれば物が壊れてしまうところもちらほらと。物質を形成する魔法と幻影魔法が複合的に発動したと考えるのが正解でしょう。流石に全てを新しく直すような魔法はまだまだ使えないということでしょうか。
「いや、これだけできれば十分だろう」
メケレットが褒めてくれたので少々気分は良くなりました。
「玉座へ向かいましょうかね」
「ああ、それならこっちだ」
メケレットが案内してくれた場所は、広いホールのような場所。その最奥に骨や蔦でまがまがしく彩られつつも、ふかふかな紫色のクッションが乗った玉座がありました。座ってみると、かなりふかふかで腰への負担が少ないです。
そしてそこから見渡す景色の、なんと寂しいこと。私とメケレット以外いない状態で小学校の体育館規模のホールは広すぎて物寂しいものです。
「さてと。そろそろやりましょうか」
「やるって、何をだ?」
私はメケレットにニヤリと笑ってみせます。そして玉座の裏手にある壁に手を着きました。
そして日本人であれば誰もが憧れたあれと、古来から使われてきたあれをイメージしてパチンと指を鳴らします。するとそこには、周囲の壁に同化した新たな物質が現れました。
「これは一体……」
メケレットが呟きました。これは忍者屋敷などで使われる回転扉をイメージしたもの。装飾もしっかり偽装済み。そしてこの回転扉を押すと、摩訶不思議。プルーシュプ家の私室へ繋がっているではありませんか。
「お、おい、ここ、人間のテリトリーの匂いがするぞ」
「その通り。私が人間として暮らしている屋敷の私室です」
「は?」
私室へ足を踏み入れたメケレットはポカンと口を開いています。分からなくても当然でしょう。誰もが気が付く通り、この扉のイメージはどこでもドアです。あの心の中でいつもいつも描いていた夢も魔法でちちんぷいぷい。
「上手く接続できていることも確認できましたし、帰りましょうか」
「あ、ああ」
困惑しているメケレットを連れて魔王城へ戻ります。長居しているとリオンがすっ飛んできますからね。
玉座があるホール、面倒だからこれからは玉座の間と呼びましょうかね。玉座の間に立つと私はメケレットに向き直りました。
「どうでしょう、メケレット。私の側近の一人となりませんか?」
「側近?」
「はい。私の側に仕え、私のことを支えてくださいませんか? メケレットさんほどの腕力があれば、心強いのですが」
メケレットはふむ、と考え始めました。そのまま微動だにせず考え込んでいたメケレット。五分ほど経過して飽きてきた私はその周りをぐるぐる回ってみたり、飛び跳ねてみたり。
「よし、決めた……お前は何をしている」
ようやく意識がこちらに戻ってきたメケレットに白い目で見られてしまいました。あらまあ。
「いえ、なんでも。それで、お答えは?」
「今ので少し気が変わりかけたが……良いだろう。お前の側近とやらになってやる。お前の強さは本物だ。それに、お前の傍にいればお前の首を狙う強者と出会うこともできよう。よろしく頼むぞ、主」
純粋に強さを求め、鍛錬に励む者のセリフなのでしょう。メケレットの瞳はキラキラと輝いていました。
「ありがとうございます。では、今夜少々お時間良いですか?」
「ん? ああ、構わん」
承諾を得ると、私は少し考えました。彼の角や翼を隠すために何か、私でいえば眼鏡なのですが、そういったものを作って差し上げたいと思います。ですが、戦闘に長けている彼に眼鏡を渡すというのも邪魔になってしまいそうです。
「メケレットさん」
「メケで良いぞ、主」
「じゃあ、メケ。何か欲しいアクセサリーはありませんか?」
「アクセサリー?」
「ええ。できれば常時身に着けていただきたいのですが」
「ふむ」
メケは再び考え込んでしまいました。これはまた長くなりそうですね。私は今度はジッとしていようと頑張ったのですが、八分ほど経過した辺りで我慢ができなくなりました。
屈伸、前屈、アキレス腱。肩回りのストレッチもしておきましょうかね。グイグイ身体を伸ばしていると、メケが顔を上げました。また渋い顔をされてしまったので、私は適当に笑って誤魔化しました。
「それで? 決まりましたか?」
「ああ。常に持っていても問題がない武器はないか?」
「武器ですか。なるほど」
それだけ長く熟考した割に、単体の名前は出てこないのですね。今度は私が熟考する番です。彼の戦闘スタイルやこれからついて来て欲しい場所を考えると、目立つものや大きなものは好ましくありません。
そう考えると、他に考えられる武器というとなんでしょう。メリケンサックみたいな感じになるのでしょうか。それなら、手袋とかどうですかね。殴っても痛くない感じの緩衝材を入れたら、防具として使えるかもしれません。
「メケ、手袋はどうでしょうか」
「手袋? それなら付けていられるぞ」
「では、そうしましょうかね」
私は手袋をイメージして、眼鏡を作ったときのように隠蔽のイメージも付与しました。見た目だけでなく魔力の流れまで感知できなくなるように。イメージを明確にしてからパチンと指を鳴らすと、手元に指なし手袋が現れました。
「これは……なんだ?」
「指なし手袋、で良いんだと思います。これを嵌めている間は悪魔族だとバレない代わりに、魔法が使えなくなります」
「は? それは何の意味があるんだ?」
メケはポカンとしています。それもそのはずです。魔物に対して魔法を使うなと言うのは、人間に武器を捨てろと言っているのも同然ですから。
「メケほどのパワーがあれば、魔力なしでも人間を圧倒することは可能かと思いますよ」
「いや、そうじゃなくて。魔力を隠して、どうしろってんだ?」
「基本的には私の不在時の代官をお任せしたいのですが、人間のテリトリーへ来ていただくこともありますので」
「は?」
メケはあんぐりと口を開けました。それはそうですよね。不可侵条約が結ばれていますし。でも、私はどちらにも属していますから。両方に私の側近となる人物を配し、さらに行き来ができればこれ以上心強いことはありません。
「とりあえず今夜、もう一人の側近と顔合わせをしていただきたいのでそれを付けて私の私室へ来てください」
「お、おう。分かった」
メケは戸惑いながら手袋を観察し始めました。さて、これでこちらの整備も始まりました。次は、そうですね。リオンに側近として働いてもらえるように正式に頼みに行きましょうか。私は玉座の後ろの扉から私室に戻りました。
これは本当に良いですね。移動に使っている魔法とは違って次元の操作をしているようなので、ぐぇっとなりません。それ、凄く大事。
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