熱量


自分は良くも悪くも普通の青春を過ごしてきた人間だと思っている。


ぴったり50点の青春とは言わない。


30点でも60点でも、“普通”の青春。


普通の人間、凡人。


「好き」なものは多々あれど、誰にも負けない程の熱量を持った趣味などは無い。



友人は映画観賞が趣味だ。


洋画、邦画問わずノンフィクションからSFまで観ている。


そいつにとって“好きな映画”なんて、それこそ幾つかになんて絞れないくらい多数あるのだろう。


そんな彼の大好きな映画の一つ、黒澤明監督の「椿三十郎」を、そいつの家で飲んだ時一緒に観た。


名作だけあって俺も何度か視聴した事があったが、そいつはもう数えきれない程観ていたようだ。


その証拠に、登場人物がしゃべる前に全部台詞を言っちゃった(感情込めて)。


初見の人間がいたらふざけんな、と感じるかもしれないが俺は物凄く楽しかった。


酒が入っていた事もあってかゲラゲラ笑った。


映画の登場人物の台詞を全部そらで言える人間の、情熱。愛。


素晴らしいなと思った。


別に、「本当にその映画が好きなら台詞くらい全部覚えてるよね?」などと言うつもりはない。


人それぞれ愛の注ぎ方は違う。彼も意識して覚えようとした訳では無く、観ているうちに勝手に覚えちゃっただけだろうし。


観ている回数、思い入れ、関連する記憶。どれも一つのわかりやすくした指標でしかなく、そんなものなくても本人の中で「大好き」!という想いがあればそれでいい。


たまたま今回「好きすぎて台詞丸暗記しちゃった」というわかりやすい形で情熱が伝わっただけだ。友人もそのことを誇ったりしない。むしろ恥ずかしそうにしていた(じゃあ言うなよ、芝居まで入れやがって)。


この熱量は見習いたいと感じた。


熱量はひとつの魅力だ。と、自分は思う。



自分にも親友を笑わせる事に躍起になっていた時期があった。


とりあえず面白い物が作れそうだと思った事は全部やってきた。


子供の頃のRPGツクールから始まり、漫画、小説、イラスト、動画。


その頃は明確に「こいつを笑わせたい」という目的があった。ターゲットがいた。


今は明確な目的も無くて、「どーしよーかなー」と宙ぶらりんではある。



カクヨムで人様の作品を読むと、みんな凄いちゃんとした文章を書いている。


世の中に公開するには本来これくらいちゃんと書けなきゃダメなんだろう。


きっと自分が一番まともな文章を書けてないんだろうな、と痛感する。


正直、作品の文章力が凄いとレビューを書く事すら憚られる。


自分の拙い文章でどう書いていいのか……。


能力が無い分、せめて何か、もっと熱量で補えればいいんだけどなぁ…と無い物を望む日々である。


その前に本読んで能力上げろって感じなんだろうけど。



ちなみに熱量は魅力だと言ったが、熱量が低い人間には魅力がない、というわけでもない。


物事に対して決して熱くならない冷めた生き方をしている友人の事も、自分はとても面白い人間だと感じている。

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