金玉獣遊記の感想


2024年10月20日。


猿田夕記子先生の「金玉獣遊記きんぎょくじゅうゆうき」が完結した。

西遊記と同じ全百回構成となっていて、見事な大団円だった。


連載をリアルタイムで読んで来て、語りたい事がたくさんある。

でも、私的な長文でコメント欄を汚してしまうような気がして書けなかった。

しかも書いている人間のペンネームは「パイオ2」。

BLコメディを楽しんでいる女性読者様に混ざっていくのも申し訳無かった。


でも語りたい!という事で長文の感想文を書かせて頂く。


当該作品は自分とは比べ物にならない程文章力が高く、見識も深いため批評なんて恐れ多くて出来ないが、小学生が書く読書感想文の感覚で許してほしい。


ただ、人様が書いた作品の感想を自分の日記に書くという行為が許されるのかわからないのでマナーに反しているようであれば削除します。



金玉獣遊記(きんぎょくじゅうゆうき)

https://kakuyomu.jp/works/16818093082463824652

中華BLギャグ小説(下ネタあり)


あらすじは書かない。読んで。ちょっとネタバレあり。



まず一番にギャグが面白い。色々あるが、結局人に薦めたい理由はこれに尽きる。


当然だが中華ネタが多く、中国の故事成語や神話、伝承に絡めたパロディが多い。


パロディの常だが、元ネタを知っている人ほど楽しめると思う。


また、「これ何が元ネタだろう」と思い検索して出てきた内容に笑ってしまう事もある。


知的な内容なのにやっていることは馬鹿馬鹿しい。


自分がもっとも好きな、「くだらない」、「馬鹿馬鹿しい」、「頭の悪い」笑い。


この作品は頭は悪くないが、「馬鹿馬鹿しい」は多分……登場人物の主張に対するツッコミとしては大きく間違ってないと思う(彼らは大真面目なのだが)。


笑いに関しては好みが大きいとは思うが、空気感が自分のセンスに絶妙に刺さっていた。



次に登場人物について。


ほとんど変態しか登場しないのに書き分けがしっかりしており、性癖もバリエーションが多彩であった。


彼らは本能(呪い?)に振り回され、選択を誤り、それでも理想を求めて行動し続ける。


人間は必ずしも正しい選択が出来るわけではない。


欲望に揺らいだり嫉妬に狂ったりして、道を誤る事はある。


そういったハプニングもコミカルに描き、登場人物を酷い目に遭わせながらも結果として微笑ましい、笑える、平和なところに着地する。


生み出したキャラクターに対する愛情を感じるのだ。


行動力のある登場人物には生命力を感じ、そのバイタリティが作品全体の明るさに繋がっているように思える。


心理描写はわかりやすく丁寧に感じた。


脱線するが、江戸川乱歩先生の小説「孤島の鬼」。


その作品の主人公蓑浦みのうら 金之助きんのすけ(手元に書籍が無いので名前が間違っていたら申し訳ない)という人物が、自分は大好きだった。


この男は非常に恋愛体質で女の事になるとそれしか目に入らず、一直線に行動して危機に遭っては他者に助けてもらうという、ハッキリ言って見た目がいいだけのロクデナシである。


読んでいると主人公の行動に苛立ち、同行者に同情する場面も多々ある。


浅ましく、どうしようもないが情熱的。無策だが行動力がある。


共に行動する相棒は可哀相だったが、自分はこの簑浦という男にたまらない魅力を感じていた。


浅ましさこそが人間らしさ。凡人である自分はそう思い、「金玉獣遊記」に登場するどうしようもない人々に対しても共感を抱いていた。


じゃあお前が好きなキャラは誰だったのかと聞かれると、実はそんな「浅ましい変態」ではなかったりする。


自分が好きだったキャラクターは「香月こうげつ」という主人公の母であった。


先で紹介した「浅ましくどうしようもない人物が好き」と矛盾しているが、「一番好き」となるとこの人である。


この香月がどういう人物かは、読み始めればすぐにわかるので説明を省く。


かなり“アレ”な性格なのだが、最後までブレず、意志が強く、その矜持を貫き通したように思える。


「徹底的に“そう”である」人物。自分はそこに惹かれた。


逆に苦手な人物は「太上老君たいじょうろうくん」である。


単純に性癖がエグいからだ。


肝油かんゆ申陽しんようもドン引きしていたのだからリアクションとしては作者様の思惑通りだと思う。



ストーリー。


テンポよく進行していき、読者を飽きさせず続きを読みたくなるようになっている。


回が進むごとに次々変態が現れるのだが、彼らのエピソードをしっかり畳んで主要人物だけで次へ進む。


旅をするように場面が切り替わり、その土地土地でトラブルが起きるのだがエピソードが丁度いい長さで解決されていく。


全百回の中にあまりにも多くの展開が詰まっている。


過去、近況ノートにも書いたが自分はいちいち話が脱線してしまうので、このストーリーを進める力は見習わなくてはならない。


多くは語らないが、結末も素晴らしい。


先程も言ったが登場人物への愛を感じた。伏線回収もお見事。


金玉きんぎょくと結ばれた人物についても、自分が応援していた者だったので大満足である。



自分が苦手だと感じた部分。


これは作者様は全く悪くなく、自分の問題なのだが性描写が生々しいシーンは苦手であった。


最初から「中華“BL”コメディ」と謳っていたので、文句をつけるつもりは一切無い。


BLを提供し、BLを楽しむお客様の中にずかずか入り込んでいって「濃いBLはちょっと……」なんて失礼千万。


しかも作者様は読者の要望に応えてより濃厚な描写に舵を切ったようにも感じた。


需要に応じる、素晴らしい対応である。


読者としては自分の方が異端であり、BLを好きな人に向けて発信するのが大正解なのだから。


なのでこんな事を言われる筋合いはないとは思うのだが、自分的には序盤くらいの描写が読みやすかったな、と感じてしまった。すみません……(もちろんこんな人間に配慮する必要は無い)。



またこれは連載を追っていた人間だから思った感想だが、更新の頻度が有難かった。


時間が空いた時に、前回の続きを読む事が出来る。先が気になると思っても、翌日には更新されている。こんなに嬉しい事は無い。


……なんか自分でも引くぐらい長文になってしまった。



おすすめしたいのは、とにかくギャグやコメディ小説が好きな方。


最初からフルスロットルで書かれているので、自分に合うかどうかは一話でわかる。


まずは読んでみてほしい。


BLに興味が無い方であっても是非読んでほしいが、合うかどうかはわからない。自分は興味が無かったがハマった。


「BL無理!」な方には薦められないが、拒絶レベルでなければとりあえず試しに読んでくれ!とは言いたい。



最後に、作者様へ(この感想を読んで下さっていたら)。


作中に「勇者フェラクリウス」や「ケバブ屋のオヤジ」などのワードが登場し、読んでいて「これ笑ってるの俺だけじゃない?」とやや罪悪感を覚えつつ笑わせて頂きました。


BLを読んだことの無かった一人の大人がここまで熱狂してしまう作品を書いてくださり、本当に感謝しております。


ありがとうございます、そしてお疲れ様でした。

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