アイドルを推すのがオシゴトです!~終末世界を救うため、推官《すいかん》になれってどういうこと!?~
長月そら葉
第1章 推しのアイドル
ライブの奇跡(幻想)
第1話 ライブ現地参戦
「きゃあぁぁぁぁぁぁーーー!!!」
最早悲鳴か怒号にも近い、ドームを揺るがす歓声が上がった。実際、ライブの時は軽い地鳴りがするという話もあったりなかったり。
ここは、
かく言うわたし―
あ。現地参戦とは、ライブやイベントの現地に行ってそれに参加、観覧することを言います。念の為。
(ヤバイヤバイやばばばば……。
わたしの前の花道を、Destirutaの天真さんが歩いて行く。ただ歩くんじゃないよ。ファンサ(ファンサービス)しながら、歌いながら、中央ステージへと向かって行くの。ヤバくない?
たくさんのファンが、悲鳴を上げてペンライトやデコレーションしたうちわを振っている。わたしもその中の一人なんだけど、きっとステージから見たらライトの光って綺麗なんだろうな。
「やばいしか出てこない……」
「わかる!」
もう語彙力なんてものは、何処かに置いてきてしまった。隣でペンライトを所定の位置で振れるだけ振っている親友と小声で言い合い、わたしはかき消されて自分が叫んでいるのかもわからないけれど声を上げる。
「みんな、声援ありがとう!」
「ちゃんと見えてるぞ」
「みんなのペンラもうちわも、愛情こもってるよな、天真!」
「ああ。凄く力になるよ、
歌と歌の間のMCタイム。Destirutaの二人の掛け合いを聞いて、ファンはまた声を送る。少し前まで声を出すことは出来なかったから、新鮮味があるよ。
まだ最初の三曲が終わったところなんだけど、益々ライブはヒートアップしてる。
「じゃあ、改めて自己紹介しようかな。ボクはDestirutaの陸明。みんな、今日は来てくれて本当にありがとう! すっごく魅力的なコばかりで、お兄さん張り切っちゃう!」
Destirutaの陸明さん。天真さんの実兄で、一緒にアイドルをしているんだ。中性的な面差しが女性ファンだけでなく男性ファンも取り込んで、何処かの雑誌の美人アイドルランキングで一位を取ったこともある。つまり、超美形。ふんわりとしたブラウンの髪が、彼の柔らかな印象を引き立たせる。わたしの親友は、微笑みが素敵な陸明さん推し。
「陸明様ーーー!」
客席からの声に、陸明は嬉しそうに手を振る。すると、ギャーッという悲鳴がそこかしこから聞こえて来た。
「じゃ、次は弟よろしく」
「よろしくされます。さあ、Destirutaの天真だ! 俺たちのために時間を作ってくれて、ありがとう。最高のライブにするから、楽しんでいってくれよ!」
天真さんの挨拶に、わたしも周りに負けないくらいの悲鳴を上げた。何を隠そう、わたしの最推しは天真さん。
推しっていうのは、応援している人や物、キャラクターとか何にでも使える言葉だよ。その何かが大好きって意味なんだ。
天真さんは、陸明さんの実弟。中性的で優美な印象の強い陸亜さんに対し、天真さんは正統派なクール系イケメン。藍色に近い黒色の短髪で、カラコンを入れているのか瞳が赤い。ちょっと近寄りがたいような雰囲気があるけれど、ライブではこうやって爽やかなファンサをくれる大好きな推しです。
「さあ、次の曲だよ」
「ああ、聴いてくれ。新曲『この世界の何処かに』……っ!」
一瞬だけど、天真さんがわたしを見て瞠目した……気がした。うん、よくあるオタクの幻想だ。絶対そうだ。何万人もいる中からわたしと目が合うなんて、天地がひっくり返らない限りあり得ない。
それに、天真さんが息を詰まらせたのは一瞬のこと。それに気付いた人はほとんどいないと思う。現にもう、天真さんは歌い始めている。陸明さんもわずかに怪訝な顔をした気がするけど、もういつも通りだ。
(うん、気の所為。幻想だ。それにわたしと目が合ったなら、きっと周りの人もそう思っているはずだし)
何せ、わたしの席はアリーナの中央ステージから三列目真ん中。神席だと思う。こんなに近くで、推しを拝めるなんて。
当然わたしの隣には親友、そして周りにもファンがいっぱいいる。案の定、後ろの席から「天真と目が合ったかも!」という女の子のヒソヒソ声が聞こえて来た。やっぱりそうだ。
浅く何度も頷いて、わたしは改めてライブに集中した。現地参戦なんて、次はいつ出来るかわからないんだから。
☆☆☆
ライブ最終日が終わり、俺は楽屋で息をついていた。三日間のライブは大成功で、来てくれたファンは喜んでくれたと思う。確か全国の映画館でも中継していたはずだ。
(いつか何処かでと思っていたけど、もしかしたら……)
俺が水の入ったペットボトルを弄びながら考え事をしていると、ガラッと音がして目の前の椅子に誰かが座る。顔を上げてみると、メンバーの陸明が俺を頬杖ついて眺めていた。
「お帰り、陸明。もう打ち合わせは終わったのか?」
「終わったよ。後は、着替えて帰って良いってさ」
「そっか」
陸明の言葉に頷いた俺は、ペットボトルを机に置く。打ち合わせが終わったのなら、今日は解散だろう。お疲れ様会はおそらく後日行われる。
「じゃあ、帰ろう」
「着替えてくるから、少し待っていて。それに」
「それに?」
まだ何かあっただろうか。俺が首を傾げると、陸明は声量を落として囁いた。
「今日のライブで、一度息を詰まらせただろう? そのことについてもう少し聞きたいしね」
「気付いてたのか。了解。帰りは一緒に」
「待っていてね」
着替えるために控室を出て行った陸明を見送り、天真はペットボトルの蓋を開いた。
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