23話 絶望

俺は観覧車から2人の元に飛び降りた。


そうして、ため息混じりの言葉を零した。



「終わった…。」


「勝ったの…?」


「僕達…勝てたんだ。」



「……疲れた。なんだったんだあいつは…。」


「尋常じゃない強さだった…。怠惰の力も殆ど効かなかったし…。」


「殆ど運だ…勝てたのは。あいつが俺の全力を見誤っていた…だから勝てた。」


「それは、そうとして…此処から離れよ…注目され過ぎてるよ…。」


そう言って、俺達は跳躍した。


殆ど余力は残っていなかったが建物の屋上に跳躍してやっと、落ち着いて話が出来た…。



_______。


「気になってるんだけどさ、業魔のあの力ってなんなの?私達の目にも追えない速度で動いてたやつ。」


「あぁ、あれはな…。驕れば驕るほど、慢心すれば慢心する程…身体能力が強化されて、最終的には物理法則を無視した動きが出来る…そんな力だ。」


「聞いただけじゃ…強い力だけど…。」


「驕らないと駄目だし…慢心もしないと…、使いづらい力なんだね…。」


「俺にとっては使い易いけどな…。要するに、絶対的な自身持っとけばいいだけだろ?それなら簡単だ。」


「それを簡単って言えるのは業魔くらいだよ。」


「それにしても…疲れたな。遊園地…少し壊したけど、まぁいいだろ。爆発されるより随分マシだろ。」


そうして大の字に倒れ込み…俺は言った。



「少し…寝る。」



_______。


「業魔、寝ちゃったね…。」


「一番頑張ってくれたんだし…仕方ないよ。」


「ごめんね…途中任せっきりにして、私も協力してたら霞君が腕を折られること無かったのに。」


「僕も、1人で先行してごめん。でも…僕の腕を治してくれたのは由梨じゃないか…。ありがとう。」


そうして辺りを沈黙が包む。




瞬間、ベルゼブブの声が響いた。



(器…ごめん。無理だ…!)


(え?どうしたの!?ベルゼブブ!)


(逃げられた…!)


_______。


「…ん、ふぁぁ。霞、俺どれくらい寝てた。」


「5分位だよ?もう少し寝てても良かったのに。」



「2人とも!ベルゼブブが…!」


_______。



「落ち着け!詳しく説明しろ由梨!」


「早く逃げないと…!」


「由梨、落ち着いて…?」


「落ち着いてたら間に合わない!早く逃げないと…!!」


そう由梨が声を荒げた瞬間だった。



_______。


「初めまして…器さん達。」



「は…?」


振り向くと、そこには倒した筈の男がいた。


いや、違う。見ただけで分かる、姿形が同じなだけでこいつはまったくの別人だと…。本能が警告している…早く逃げろと、一刻も早く命乞いをしろ…と。



「てめぇ…誰、ッ!!」


次の瞬間、俺達は蹴り飛ばされていた。



数百mは吹き飛んだだろうか…、建物にめり込んで、やっと止まっていた。


「グッ…、誰だ…あいつ。」


「そんな事言ってる場合じゃないよ、早く隠れよう…。」



そうして俺達は瓦礫の山に身を潜めた。



身を潜めて数秒後、あの男が優雅にこちらに歩いてきた。


「何処ですか?隠れないで出てきて下さい。私は無駄な時間が嫌いなんですよ…。」


一拍を置いてそいつは告げた。


_______。


「私の超能力は防御壁です。効果は反発…受け付けない力ですが、そのまま力を相手に反射などの事も出来ます。では問題です…。遊園地を私の防御壁で埋め尽くします。そして一枚の防御壁に衝撃を与えるとどうなりますか?」



……その衝撃がどれくらいか分からない…が、もし、今俺達に与えた以上の衝撃なら…防御壁同士で衝撃を反発しあって…遊園地なんて無かったかのように更地になる…。



「もう、分かりましたね?では3秒数えます。3秒以内に出てこなかったら今言ったことを実行します。3。」



_______。


「お前ら…逃げろ。」


「無理だよ…業魔。」


「時間なら稼いでやる。」



【残り、2秒】



「俺は大丈夫だ。だから逃げろ。」


「そんな事出来ないよ、業魔…。」


「そうよ…、私達も一緒に戦うわ。」



【残り、1秒】



「物分かりが悪い奴らだ。約束しただろ霞。俺は絶対お前から離れない。だから、逃げろ。」


「……分かった。行こう由梨。」


「業魔…絶対帰ってきてね…?」



_______。


「ぜぇー…。」


「出てきてやったぞ…。」


「…ん?1人…だけ?後の2人はどうしたんですか?」


「足手纏いなんだ…逃したさ。」


「私相手に1人…ですか。舐めてるんですか?」


「俺は勝てる勝負しかしないんだ。お前には負ける気がしないんだよ…。」


「そうですか…では死んで下さい。」



……俺、此処で死ぬな。ごめんな霞、約束守れそうにない…。いや、由梨がいるな…あいつなら俺の代わりに約束守ってくれるだろ…。


そこで俺の意識は堕ちた。


近付く“敵”の拳を眺めながら…。







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