14話 元天才
敗北濃厚…それでも俺は勝たなければいけない。考えろ…近付いて俺という存在に触れられたらアウト、遠距離で何かを操ってもアウト。
(本気で勝つつもりなら教えてやろう…。ベルフェゴールの唯一の弱点は……。)
サタンのその言葉を聞いて、俺は確実な勝利を頭に思い浮かべた…。
…見えなかった。男の体が少し揺れて、来る…そう思った瞬間にはもう遅かった。
僕は殴り飛ばされていた。
…?????
「お前に超能力を使わせる暇は与えない。」
「超能力・怠…。ッッ!」
その言葉を紡ぐ前にまた、殴り飛ばされた。
…バレてる?なんで、なんで。
七つの大罪の悪魔王達は“超能力”と、言葉を紡がずとも超能力を発動出来る…1人の例外を除いて。
それがベルフェゴール、悪魔でありながら悪魔の天敵になりえる超能力を持っているからこそ、ベルフェゴールには縛りがある。
一, 必ず “超能力・怠惰”と言葉を紡がなければならない。
二, 言葉を紡いだとしても数秒の発動時間を要する。
三, 相手に触れなければいけない。
だが、この縛りが適応されるのは第五の力に限る。
そうして…僕は立ち上がった。
「はぁ、はぁ…。」
「もう、ギブアップか。生徒会長。」
「そんな訳…ないだろ!!」
第五の力が使えないなら僕だって肉弾戦を仕掛けるだけだ!
そうして僕は拳を握りながら地を蹴った。
拳が顔面に直撃する…そう思った。でも、既にそこには誰もいなかった。
困惑してる暇もなく、背後から声が響いた。
「その程度か…?」
「うるさい!」
振り返りながらそう叫んだ。…振り返ったのに…僕の視界にその男は映らない…。
また、背後から声が響いた。
「ずっと1人だったのにな…。」
「っな!」
何で知って…。
次の瞬間、蹴り飛ばされてしまった僕は無様に倒れていた。
そんな僕に、男が言った。
「お前、天才だろ?超能力の練度が高過ぎるってサタンが言ってるぞ。」
その言葉に僕は何も返せない…。
戦う気力を失ってしまった。僕は超能力を使えない…、肉弾戦も勝てない…おまけにこんな無様を晒して…。
そんな僕に構わず男は続ける。
「天才っていいよな。」
「そんないいもんじゃないよ…。」
「いいもんだろ。俺自身、天才だったらどれだけ良かったか。」
「……普通の人から見た天才ならそう映るのかもね…。」
「それでも俺は天才になりたかった。お前みたいな…。」
「…煽ってるなら辞めてくれない…?僕は天才って呼ばれるのが嫌なんだ…。」
「そんなに嫌か?生徒会長。」
「嫌に決まってる…。天才だったせいで僕は全てを失ったんだ…!僕は…!」
…物心ついた時から天才と呼ばれてきた。
何でも出来た。教えてもらう前に見れば出来たし…。
他の人達がなんでこんな簡単な事が出来ないのか分からなかった。僕にとっては出来て当たり前だったから…。誰かに負けるなんて事も無かったし…ずっと僕が一番だった…。
…この頃までは、まだ天才と呼ばれて持て囃されていたんだ。
だけど、少し経ってから皆は変わった。
いや、僕が変わらなかったせいで…。
僕は誰からも相手にされなくなった。僕の話についていけないと言われた。
皆が僕から離れていって、孤独になった。
平気だと思ってたけど無理だった。すぐに限界がきた。
それはそうだった。急に1人になって…耐えられる訳が無かった…。
だから僕から歩み寄って行った。皆が離れて行った分、僕から歩み寄って行ったんだ。
天才じゃなくて凡人の皮を被ってまで…それでも皆は僕を相手にしてくれなかった。
凡人になった天才は相手にされなかった。
天才でも相手にされないのに…だから、僕は諦めたんだ。
天才は凡人とは相容れない。
僕から関わる事も無くなったし、あっちから関わる事も無くなった。
天才だから…そう言って、皆僕が欲しいものは必ず手に入れられると勘違いしてるんだ。
だけど違うんだ。一番欲しかったものは全部僕から離れて行く。僕は仲間が欲しかった。自分と対等でいてくれる、そんな仲間が…。
だけど、出来ない。そんな自分を憎んだ。周りを憎んだ。
憎んで、憎んで、憎んで憎んで憎んで…。
僕は何もしなくなった。今までしてた勉強も、スポーツも、何もかも。
馬鹿らしくなったんだ。皆とまた関わる為に勉強し始めた【話の始め方】って本も読むことも。
天才だから皆僕から離れて行く…それなら最初から誰とも関わらなければいい。関係を持たなければいい。
「…話を聞いて分かった?天才だから皆が離れて行く。僕が本当に欲しいものは絶対に手に入らない。誰もが羨む才能を持っていたとしても、宝の持ち腐れなんだよ…僕にとっては…。」
「教えられる前に見れば何でも出来て?誰にも負けない…だからお前は天才って呼ばれてた。
そんなんだから皆が離れて行った…てか?じゃあお前、俺の仲間になれ。」
「は…?聞いてた?天才と!凡人は…相容れないんだよ…。」
「お前に勝った俺を凡人扱いするか?俺は天才だろうが。」
「…ふざけてるの?」
そうして僕はゆっくりと立ち上がって、その男の顔を見た。
男の顔は真剣そのものだった。
「…天才って、なんでそんなに自信に満ちた顔で言えるんだよ……。」
「天才だからだ。お前も…昔は言えてたんだろ?」
「辞めて…。僕に期待させないでよ、希望を抱かせないでよ…。どうせ!離れて行くのに!」
「…何勝手に決めつけてやがる。俺がいつ離れる何て言った?俺は!お前に仲間になれって言ってるんだ!離れて行くつもりなら仲間になれ何て言わねぇよ!」
「…っ。」
「焦ったい!いいから俺の仲間になれ!俺はお前から離れていかない!だからお前も俺から離れるな!俺は…一度言った約束は絶対守る!」
「………。」
「ここまで言って分からないなら次が最後だからな…。お前は!俺に負けた、もう天才なんかじゃないんだ!俺は天才のお前を求めてるんじゃない!今!人との関わりを諦めきれなかった!“元天才”のお前を求めてるんだ!」
「……ははっ。」
不意に笑みが溢れた…。なんでこんなにこの人の言葉を心に響くんだろう…、いや今はこんな事を考えてる暇はない…。この人に言わないといけない…。だから…
言葉を紡ごうとした…でも、頬を伝う涙が多過ぎた…。涙が止まらない、嗚咽も…それでも、今、この瞬間に言わないといけない…。
そうして僕は大量の涙を流しながら言った。
「是非…僕を貴方の仲間にして下さい…。」
と…。
「勿論、大歓迎だ…!」
「というか名前…。…僕の名前は………。」
そうして、涙を拭いながら目の前にいる恩人に対し、僕は久しぶりに名前を言った…。
「一ノ
天才故の孤独で悩んだ少年は、天才の皮を脱ぎ捨てた。
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