五話目 暴食と傲慢

サタンの声が脳に響いた瞬間、俺は跳躍してその場から離れていた。


そうしてビルに着地するまでの間に俺は疑問を抱き、サタンに問いかけた。


(なんで、あの女がベルゼブブの器だって気付いたんだよ。俺には何も分からなかったぞ。)


(貴様は悪魔が纏っているオーラを見て寄生されているか判断しているのだろう?)


(そうだ。)


(ならば見えないに決まっているだろう。)


(は?)


(そこらの雑魚悪魔のオーラは貴様にも見える程小さいかもしれんが、我等七つの大罪が纏っているオーラはこの街を包む程度のデカさだ。貴様程度に見えるわけないだろう。)


(桁違いって事かよ。)


(当たり前だ、王なのだからな。)


…次の瞬間、先刻助けてやった女が跳躍して、俺の目の前に着地してきた。


その着地の瞬間を狙い、拳を放った。


当たった…そう思ったが。その拳は…大量の蝿によって防御されていた。


「っな!」


すぐに後方へ下がり、俺の頭が一つの思考に犯された。


…きめぇ。とにかくきめぇ。数百匹とかじゃねぇ。数万規模の蝿がそこにいた。


キモ過ぎる。


俺はすぐさま逃げ出した。


勝てる勝てないじゃない。戦いたくない。キモ過ぎる。さっきから拳がムズムズするし最悪だ。


だが、そんな考えはすぐに壊された。



……追いかけて来やがった!


瞬間、全ての力を足に込めて前方に跳躍した。


…一気に数㎞は進んだだろうか、振り向くと、蝿の羽を生やした女が飛んで来た。


その光景に呆然としていると、女が叫んだ。


「すいません!話聞いて下さい!!」


「は…?」


正直もう近づきたくも無かったが戦意が感じられなかったから話だけは聞いてやる事にした。



そうして降りて来た女が話した内容は衝撃的なものだった。



要約すると、魔界とこの世界を繋ぐゲートが何者かによって強制的に閉じられたらしい。だから協力してその何者をぶっ殺して、さっさと魔界帰ろー、と言うものだった。



「すいません…。急に追いかけて。」


「いや、こっちも色々勘違いしていた。」


そこから沈黙が続いた…がサタンが口を開いた。


(小僧、少し変われ。)


(は?嫌に決まってんだろ?なんで俺の体を一瞬でもお前に貸さなきゃいけないんだよ。)


(ベルゼブブと話がしたい。)


(…少し変わってやるだけだ。変な事してみろ。俺が自分で頭を握り潰すからな。)


(そんな姑息な真似はせん。我は王だぞ?)


(傲慢のな。)



唐突に…目の前の男性の姿が少し変わった。


黒髪から白髪に…、黒の瞳から白と黒のオッドアイに。


「貴方…誰?」


「小娘、ベルゼブブと変われ。」


「む、無理です。」


「二度は言わんぞ。」



(器、変わって。)


(大丈夫なの?本当に体を返してくれるの?)


(返すよ。これは王としての言葉だ。王は嘘をつかないんだよ。)


(絶対…返してよね…。)


(分かってるよ、器…。)



瞬間、目の前の小娘の姿が変貌した。


腰まで伸びた茶髪は赤く変色して、黒の瞳は翠とピンクのオッドアイに。


「久しぶりだね、一万年ぶりの再会じゃない?サタン。」


「世間話をしたくて変わった訳じゃない。」


「そうだろうね。本題はなに?」


「魔界とこの世界を繋ぐゲートを閉じた愚か者の処罰を決めたくてな。」


「誰かも分かっていないのに?流石傲慢。」


「貴様もな。今にも食ってやりたそうな顔だぞ。」


「食欲はやっぱり抑え切れないね。まぁでも、そんな愚か者の処罰は会ってからで良いんじゃない?…そんな事より、この世界には美味しいものが多くてさ、僕はそっちの方が興味あるかな。」


「…結局は関係のない話…か、まぁいい。貴様も気付いているだろう?我等含めた七つの大罪全員がこの世界に来ていることに。」


「そうだね…。ベルフェゴールもアスモデウスもレビィアタンもマモンもね。いつ全員が集結できるかお得意の賭けでもする?」


「いい、どうせすぐ集まることになる。貴様は自身の眷属を増やしておけ。近いうち戦争が起こるまでにな。」


「分かったよ。」



(小僧、話は終わった。約束通り体は返してやる。)



(器、話は終わったから体返すねー)



そうして、俺達は体を取り戻した。


「一体…何話してたんでしょうね?」


「そうだな…。」


…サタンとベルゼブブの会話は殆ど聞こえなかった。だが…最後に一言だけ…聞こえてしまった。



…近いうちに戦争が起こる。


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