ユニーク武器持ち最強のスナイパーの少年と出会ったので、超高難度のVRMMOで楽しくトップの椅子をもぎ取ろうと思います〜いろんな企業が私と少年を狙うけど誰も敵いません〜

ドアノブ半ひねり

第1話 荒野にて

 そこは砂で埋め尽くされていた。周囲には、枯れた草木、かなり前に墜落したであろう、古いプロペラ式の飛行機がこれまた砂に覆われて地面に刺さっていた。

 その周りを囲むようにして、緑色のテントが建てられている。とても荒野の景色にそぐわない、現代的な装備に身を包んだ人影がいくつか、右は左へと慌ただしくうろついている。そのほとんどが銃を握っていた。



ザザッ。

「リーダー。こちらA班。探知レーダー、対空武器の配置、そして通信機の準備、全て滞りなく完了しました。」

 その影の一つが、耳に装着されたヘッドホン型の通信機に手をやる。

 「わかった。周囲の警戒を続けろ。探知機があるとはいえ、油断はできん。」

リーダーと呼ばれた男は、眉間に皺を寄せながらそう答えた。

 ザザッ─とノイズ音がし、通信が切れる。


───そろそろか。

男は空を見上げる。そこには小さく、黒い点が見えた。それが、どんどんと大きくなっていく。そして、ヒュゥ───ドスンと音を立てて男の目の前に落下してきた。

 それは硬そうな金属で包まれた立方体だった。その傷一つない黒光りした姿が、中身の物品の希少性を物語っている。

 すぐさまそこに二人の人影が寄る。そして、手にした機器からコードを伸ばし、立方体に素早く接続した。一人がタブレット型の機器に写っている情報を小声で読み上げ、もう一人がそれを打ち込んでいく。それが終わると、

 「リーダー。ロック解除コード解析まで、あと十五分ほどです。」と、男に話しかけた。

 そうか、と男は返事をし、ほっと手にした銃を下げた、そのとき。

 「ナイトウさーん」

と、男がもう一人、笑顔で手を振りながら近づいてきた。

 

慌てて、男が再び銃を胸の高さまで上げる。

「おい。トロ。お前……まだ任務は終わってないぞ。最後まで気を抜くんじゃない。それに、なんだ銃も持ってないじゃないか!おい、いいか戦場じゃあな、いつ襲われるのか分からんのだぞ。目の前で談笑していた奴の頭がいきなり吹っ飛ばされるかも知れんのだ!あと、今の俺はリーダーと呼べ。いいか次ナイトウと呼んでみろ。その腑抜けた笑顔をぶち抜いてやる」


「へいへい。わかりましたようるさいな全くベラベラ───しっかし、リーダー。一体何入ってるんですか。これ。こんな気味悪いもの初めて見ましたよ……。え、ていうか空から落ちてきましたよね?なんなんすかこれ」

 男──ナイトウは無礼な部下に対する苛立ちを顔に滲ませながら、もう一人の男──トロに向かって答えた。


 「お前な、朝何度も説明しただろ?ちゃんと聞いとけまったく。───最近、が開発した新兵器だよ。どうやら、らしい」


「えっーーっ!こっわなんすかそれ!気持ち悪りぃ!そんなの本当に使いたいやついるんですか?」

 

 「いるから、そういった輩に奪われんように私たちが雇われたのだ。中身を取り出して、それを車で運ぶ。それが今回の仕事だ」


 「ふーん……え、じゃあ普通にヘリとかで運べば良くないすか。いくら企業コーポの拠点がめちゃくちゃ上空に飛んでるからって、わざわざ落っことしたやつ拾わせるなんて遠回りなやり方しなくても」


 「さぁな、曰く“これが一番効率的な方法”とかなんとか言っていたが──詳しいことは分からんよ。しかし……落下に耐えられるよう開発されたこの収納箱にすら、とんでもない額の金がかかっているだろうに……。やはり上の感覚は我々とは違うな……」


「まぁそうでしょうね。少ない給料で汗水垂らして働かされてるナイトウさんと、上のエリート達とじゃ、やっぱ金銭感覚から匂いから何から何まで全然違うんでしょうね。」


バン。

ナイトウが、ヘラヘラと笑うトロの足先から数センチ先の地面に向けて、発砲した。

 「うおーーーっ!!」

 「次は本当に頭撃つからな。そのよく喋る口を2つに増やしてやる。」

「じ、冗談じゃないすかリーダー!」

周囲から笑いが漏れる。

 「おいお前ら!笑っとる場合か!さっさと仕事に戻れ!」

へいへい、ほーいと軽い返事がぽつぽつと返ってくる。


  全く、気の抜けたガキどもだ。

 

仕事をしているという自覚がないのだ。

 もっと私のように、真面目に気を抜かずきちっと働いてこそ──

ふと、ナイトウの脳裏に過去の記憶がよぎる。


 事務的な会話以外はほとんど話もせず、ただひたすらパソコンに向かう日々。家に帰っても、妻の尻に敷かれてストレスを貯める日々。

 楽しみもなく、ただゴロゴロして過ごす休日。それが、このゲームを始める前のナイトウの生活だった。


 ふと、ナイトウは周囲を見回してみる。

そこには、充分に揃った機器たちに銃器。そして、自分をリーダーと呼んでくれる、信頼のできる仲間たちがいた。皆、辛い任務や強敵を共に乗り越えてきた。そして今も、皆チームの為に働いてくれている──態度は悪いが。

 トロだってそうだ。あいつはあいつなりに、緊張した空気を和まそうとしたのだろう。あいつはそういう男だ。

……このゲームがなければ、こんな、仲間との楽しげな会話もできなかったのだろうな。

 ───息子に勧められて始めたばかりの頃は、右も左も分からず、ただ殺されては奪われるだけの日々に何度も心が折れそうになったが……今となっては、それも良い思い出だ。

 


 これが終わったら、働いてくれたメンバーに何かプレゼントでもしなければならんだろう。


 そう思いながらふと、仲間たちと仲良く会話しているトロに目をやると、


 突然、トロの頭が破裂した。


遅れて、ダァンと空気が割れる音がする。

 

 突然の出来事に思考がフリーズする。時間がゆっくりになったように感じた。

 しかしはっと気がつき声を上げる。

 「──スナイパーだッ!狙撃されている!」

慌てて仲間たちは銃を構える。しかし、遅かった。

 ダァンダァンと続けて仲間たちの頭が破裂していく。ナイトウは通信機に手をやった。

 

 「おいA班!レーダーはどうなってるっ!」

ザザッ、ザザザッ。

 強いノイズの後に、声が聞こえてくる。

 

 「リ、リーダー!」

「写ってるだろ!おい!何処にいる!」


「そ、それがリーダー!ずっと……ずっと最大範囲で探知しています!でも、その、!!探知範囲の外から狙撃されてますッ!」

 

 「馬鹿な……。探知範囲半径3キロは軽く超えてるはずだ!」


「リーダー!!撤退しましょう!命令を──」

ダァン!

 銃声の後、通信機は強いノイズに包まれ聞こえなくなった。

 「クソッ!」

 

 ナイトウは思考を巡らせた。車で逃げるか?……ダメだ。乗り込もうとした瞬間撃たれて終わりだ。なにより、仲間たちを置いて逃げるなんてできない。

 撃ち返すか?……できるわけがないだろう!

3キロは離れてるんだぞ!


 どうしたらいい?ここでリーダーである私が死ねば全て───武器や防具、最新の機器たち、そして何より部下たちが必死に積み上げてきた企業コーポからの信頼───自分の持っている

 どうしたらいい。どうしたら───

 コツ。

ナイトウの手に、ポケット越しに

───もう、これしかない。

 周りを見渡す。何処か安全な場所は。

一時的にでいい。自分の身を守れる場所は。

───あった。


 ナイトウは走った。

周囲から舐められているナイトウだが、腐っても企業の傭兵。今までの射撃によって、なんとなくの場所は掴めている。

 周囲の者はみな、軒並み頭を吹き飛ばされて死んでいる。もう、自分以外は残っていないだろう……。

背後で弾丸がヒュッと空を切る音がして、ナイトウの腕を掠めた。

 「クソッ!!」

 相手は狙撃銃。しかも人間の頭を軽々飛ばす高威力のもの。貫通力も相当だろう。

 よって、銃撃戦で最もシンプルかつ、最も

大切な行為──物陰に隠れるというのも、効果はない。

 

 ナイトウは、空から落ちてきたあの立方体の影に滑り込む。そして、それを背にして、ポケットから携帯端末をとりだした。ある番号を打ち込む。

───もうこれしか方法がない。

 プルルルッ。コール音がなる。

電話をかけようとしている先は、他でもない。

 自分達を雇った企業コーポである【スピリット】に所属している傭兵たち、つまり自分たちのライバルに、自らの名前を使い依頼する。

 幸い【スピリット】の傭兵は皆自信過剰で、そして金に飢えている。金さえ積めばすぐに来てくれるだろう。──屈辱的だが、背に腹は変えられない。

 プルルルッ。プルルルッ。プルルルッ。


 「早くしてくれ!」

 ダァン!ダァン!ダァン!

ナイトウの背中に、立方体ごしの衝撃が伝わる。落下の衝撃にも耐える金属でできているはずの立方体が、銃撃によって

のだ。

そこまで長くはもたない。

 ダァン!ダァン!ダァン!


………

突然、銃撃が止んだ。

 「……?」

──諦めたのか?


 プルルルッ。プルルルッ。プルルルッ。

機械的な音と、ナイトウの呼吸音だけが荒野に響く。

 そして、

「おいナイトウさん。急に電話かけてどうしたんだよ?」

繋がった。


喜びをこらえつつ、答えようとしたその時。


ダァン!

 一発の弾丸が、ナイトウの腹を貫いた。

強い衝撃が身体に走る。徐々に視界が暗く狭まっていく。

 なぜだ。あの立方体を盾にしていたはず。貫通したのか?いやそれはない。

いくらなんでも早すぎる。でもそれ以外にあの位置から当てる方法なんて……


───まさか。

 立方体の近く。遠い昔に墜落したであろう、砂まみれの飛行機。

 

 その体に、がついていた。


───跳弾。横の飛行機に反射させて当てた。しかも三キロ先から、狙って。


 「バケモノめ…………」

そうして、ナイトウの視界は暗く暗転する。


 しばらくして、ナイトウの視界の中心にウィンドウが表示される。


『あなたは死亡しました。所持品の全てが排出ドロップされます。』



 ナイトウ───内藤広人ないとうひろと43歳は、一人、自室で悲しみの声を上げた。





--------

そこから、3300メートル離れた、丘。

 「終わりました。」

一人の少年が、銃を構えていた。手には、携帯端末が握られている。

 「そうか。案外早かったじゃないか。」

ぬめぬめとしたねばっこい男の声が、携帯から聞こえてきた。

 「は、どうしますか。」

「いい、いいよ、そんなもの下っ端にやらせたらいい。君のやる仕事じゃない。

 しかし、いやよくやってくれたよ。君は本当に可愛くていい犬だ。

可愛くって無慈悲かわいくってかわいい僕の大切な犬だよ」

 「ありがとうございます。で、次は何ですか」

一瞬の間のあと、電話先で男が笑った。

 「ハハハ……いいね本当にいい犬に育った。ハハ……本当にお前はかわいい犬だ」


男は息を吸い込み、声をさらにねばつかせて言った。

 

 「消して欲しいやつがいるんだ。

 いつも通りね……」



普段と何も変わらない。ただ上からの命令を聞いて、ただひたすら銃を撃つ。

 何も変わらない。自分の才能を売って、他人を殺して奪って金をもらう。


 何も変わらない。

今までと。そして、これからも。ずっと。


--------

 


 



 


 


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