第2話 ②踊る第六感

 「もう死んでしまいたい」

 手に持っているイヤリングを見つめる。あの人が誕生日に買ってくれた赤いイヤリングだ。

 「どうして。私はもっと一緒にいたかったのに」

 涙が止まらない。もうこのまま消えてしまおうか。目の前には川が流れている。誰にも会いたくなくて、人気のない河川敷まで来てしまった。ここの河川敷もあの人と一緒に来た思い出の場所だ。私の周りにはあの人との思い出が詰まっている。何を見ても、何を聞いてもあの人を思い出してしまう。耳を澄ますとパラパラの音楽が聞こえる。

パラパラ!?

さすがにパラパラの思い出はない。というか、今時河川敷でパラパラを踊るか?隣を見ると、黒ギャルが踊っている。

「あの、すいません。今、一人になりたいので別のところで踊ってもらっていいですか?」

黒ギャルは無視して踊り続けている。

「あのー。」

黒ギャルはこちらに気づいて驚いた顔をしている。

「もしかして私ですか?ちょっと動くことができないっすね。」

「私は今すごく落ち込んでいるんですよ。一人になりたいのに。というか、泣いている人の隣でパラパラ踊りますか?」

「いや、泣いている隣でパラパラを踊りだしたわけじゃないっす。パラパラを踊っている隣にあんたが来て泣き出したんすよ。順番でいううとそっちがどっか行くべきじゃないっすか。」

なぜか、黒ギャルは動こうとしない。

「順番どうこうではなく事の深刻さで決めましょうよ。私は結婚を考えていた人に振られてしまったんですよ。この事情よりパラパラを踊る重要性はありますか?」

「深刻さは人それぞれっしょ。私だってすごくパラパラ踊りたいし。というか、パラパラ踊ること以外ですることもないし。」

「パラパラ以外にも面白いことはあるよ。駅前でショッピングでも行って来たら。」

「いやーそれが無理なんすよね。私地縛霊だから。ここから離れられないんすよ。」

「あー幽霊なのか。じゅあいいや。」

黒ギャルはぽかんとした顔でこちらを見つめている。

「え、リアクション薄くないっすか。こっち死んでんすよ。」

「まあ、人はいずれ死ぬものだから。」

私は、小さいころから霊感が強かった。それこそ、幽霊と生きている人間を見間違えるほどの霊感だ。この黒ギャルが死んでいるのであれば、別に泣いている姿を見られてもいいか。幽霊は他人に言いふらしたりできないし。

「そうだ、これもなんかの縁なんで、私の話も聞いてもらっていいっすか。私、星野桜っていうんですけど、こう見えて今まで友達とかいたことないんすよ。」

星野は隣に座って話をしだした。

「だから高校に入ったら友達作るぞって思って。思い切って日サロに行って黒くなって、パラパラも踊れる完璧な高校生デビューをする予定だったんすよ。それが、いきなり殺されて。まだ誰かと一緒にパラパラも踊ってないんすよ。」

星野は泣きそうな顔をしている。幽霊には水分がないので涙を流すことはできていないようだ。

「だから、私を殺した犯人を捜してください。このままだと成仏できないです。」

星野は私に向かって頭を下げた。

「うん、分かった。でもその前に、私の話を聞いてくれない。私にはめちゃくちゃかっこいい彼氏がいたんだけど・・・」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。私殺されてるんっすよ。普通こっちが先っしょ。」

「深刻さは人それぞれってそっちが言い出したことでしょう。私の価値観でいうと死んだ人間より、生きてる人間のが優先。つまり、殺人より失恋が優先。」

星野はあきれた顔をして、

「分かりました。どうせ、パラパラ以外することないんで。ただ、そっちの気が済んだらこっちの問題も解決してくださいよ。」

「よし、決まり。今日はもう遅いから明日話すね。また明日。」

「えー!!自由過ぎないいっすか。」

 驚く星野を置いて私は家に帰った。なんだか足取りも軽くなった気がする。

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サイコちゃんは変わりたい @kurokiG

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