第29話 パンドラの箱
【ハーモニー社・社長室】
朝、自分のデスクで、就業時間より随分早い時間から、PCでLINEスタンプを作っている真彩。
優衣は、真彩が作ったキャラクターを早く見たくて、出社していた。
優衣「わぁー可愛い。よく色々と思い付きますねー。感心しますわ」
真彩「会社のキャラクター作って、グッズも販売するの」
優衣「良いですねー……」
真彩、スタンプが完成して満足気な顔をする。
真彩「よし。これで良いとしますかー」
優衣「うんうん、良いと思います」
すると、
優衣「あのー、ところで、スティーブとはどうなったんですか???」
と、探る様に聞く優衣。
真彩「あぁ、Route72 で飲んで、その後、ウチに泊まった」
優衣「えぇー?……」
優衣(心の声)「という事は???」
真彩、優衣の心の声が聞こえる。
真彩「あぁ、ご想像にお任せします」
優衣「あっちゃー‥‥‥」
真彩「だって、スティーブ、めちゃ元気で、凄い求めて来るんだもん‥‥‥」
優衣「はぁ‥‥‥あの、ちゃんと避妊したんでしょうね?」
真彩「あぁ、それはぬかりありません。出来ちゃったら偉い事だもんね‥‥‥あぁ、でも、スティーブとの子だったら、間違いなく可愛いハーフの子が生まれるなぁー、それも良いか‥‥‥なーんてね」
優衣「全くー‥‥‥あぁ、でも、それも有りかも? 間違いなく可愛い子が生まれますね」
真彩「おいおい!」
優衣が納得したのが意外だったので、突っ込み入れた真彩。
真彩「何かね、スティーブとは、この世でもう二度と会えない気がして……」
優衣「えっ? 予知したんだ……」
真彩「うん……」
優衣「えぇ?……」
真彩「……知らんけど……」
と言って微笑む真彩。
優衣「えっ、でも、社長の予知って、外れた事ないですからね……」
真彩「……」
優衣「でも、運命って変えられないのかな?」
真彩「変えれるよ?!」
優衣「でも因果応報でしょ?」
真彩「他人様の為に沢山良い事したり、喜ばれる事して徳積んで、不平不満言わずに、日々、感謝で過ごしたら運命変えれるよ?!」
優衣「あぁ、でもスティーブは手遅れって事ですよね?……」
真彩「あぁ……うん。スティーブの家の因縁、結構キツイからね……半端ないんだよね……」
優衣「そうなんだ……」
真彩「うん。だからもう最後だと思って、スティーブの喜ぶ事、してあげたの」
優衣「えっ、喜ぶ事?‥‥‥」
真彩「男なんて、セックスで快楽与えたら、掌で転がせるからね。セックスは女の最大の武器だよ」
優衣「武器? いや、言葉にすると、その考えって、どうなんだろうね? 武器に使うなんて‥‥‥」
真彩「女って、男からすると快楽の道具に過ぎないから‥‥‥」
優衣「えっ? どうしたマーちゃん‥‥‥今、憑依されてる? マーちゃんの口からそんな言葉を聞くなんて‥‥‥大丈夫???」
真彩「えっ? 私、どうかしてる???」
優衣「うん。おかしいよ。間違いなく‥‥‥マーちゃんじゃない……」
真彩、思わず頭を振り、両手で頭を揉む。
真彩「あぁ、そう言えば、一昨日、大学時代の友達と喋ってて、その影響か???」
優衣「どんな事、喋ったの???」
真彩「口外しない?」
優衣「勿論」
真彩「友達のお姉さんの事なんだけど、そのお姉さん、関東で結構、名の知れたバンドのボーカルやってて、バンドのリーダーと恋人関係にあったんだよね」
優衣「へーぇ」
真彩「で、そのリーダー、友達のお姉さんにプロポーズしたんよ」
優衣「わぁ、良いですね……」
真彩「でも、そのお姉さん、プロポーズを断ったんだって。まだ結婚は早いからって‥‥‥」
優衣「あらっ……」
真彩「そしたら、それから関係がぎくしゃくして、結局、別れる事になって、別れたら、そのお姉さん、バンドに居づらくなって、バンド、辞めたんだって‥‥‥」
優衣「あぁ、やっぱりバンド内の恋愛って、他の人達にも影響するからなぁー‥‥‥」
真彩、優衣の言葉に苦笑いする。
真彩「それでね、新しい女の子をボーカルに迎えて、一年も経たない内に、その女の子と元カレが結婚したんだってさぁー」
優衣「うわっ‥‥‥酷っ‥‥‥」
真彩「ねぇー、酷いと思うでしょ?」
優衣「うん。あんまりだわ‥‥‥結局、そのお姉さんは、恋人とボーカルの地位を失って、二重苦だね。で、元カレは、新しい彼女とゴールインして、バンド活動も続けられて、幸せなんて‥‥‥これって、男が得して女は大損じゃないの?!」
真彩「だからその話聞いて、メチャ腹立ってさー、あぁ、その時の感情、まだ引き摺ってた訳か‥‥‥有難う。以後、気を付けます」
優衣「そのお姉さん、大丈夫かなぁ?‥‥‥可哀想‥‥‥」
真彩「んん?」
優衣「めちゃ、腹立ってます。そのお姉さんが気の毒過ぎて‥‥‥」
真彩「でもさっ、真逆の人も沢山いるよね。男を利用してのし上る女」
優衣「えぇ?」
真彩「芸能界って、特にそうジャン」
優衣「あぁ‥‥‥」
真彩「ほら、プロデューサーと寝て、仕事取った人、いるジャン!」
優衣「あぁ、彼女ね‥‥‥可愛い顔して、したたかだよね‥‥‥」
真彩「女優さん、アイドルでも、売れる為に上の人に媚びうって肉体関係持って売れてる人、結構山いるし‥‥‥」
優衣「あぁ、芸能界は特に多いでしょうね‥‥‥私も聞いた事あるし、現に知ってるし‥‥‥でも、芸能界じゃなくても、女の武器を使って生きてる人、世の中に結構要るからねぇー」
真彩「実際、ママの友達も、大手企業勤めだけど、上のお偉いさんと関係もって、今、課長して、高給取りだって言ってた。それに、テレビ関係の仕事してるママの友達も、旦那さんと子どもがいるにも拘わらず、自分がのし上がる為に身体使ったって言ってた」
優衣「実際にあるんだね‥‥‥」
真彩「でもまぁー、そういう野望のある女の場合は、逆に男を利用してのし上るって、凄いなぁって思う。容姿が良いと、易々とやってのけれるよね」
優衣「いやいや、容姿、そんなに良くなくても、甘え上手だとか、男心を掴む人って、もてるからさぁー‥‥‥あと、しれっとあざとい女も……」
真彩「でも、お互いにウィンウィンなら良いんじゃないかな?‥‥‥って安易に思ったりするけど、モラル的にはダメだよね。仏教的には勿論、ダメだし‥‥‥」
優衣「そりゃそうでしょ。だって、相手に家族がいたら不貞行為だもん‥‥‥周りを不幸にするからね……」
真彩「ですね。でも、人間、切羽詰まると何をしでかすか分からないからね‥‥‥周りが見えなくなっちゃうから……」
優衣「まぁ、貴女もね‥‥‥猪突猛進だから‥‥‥」
真彩「あぁ、それを止めてくれるのは貴女ですから、宜しくね!」
と言って、優衣に微笑む真彩。
優衣「ホントにもうー。だったら、ちゃんと私の言う事、聞きなさい!」
真彩「はーい」
と、不貞腐れた様な返事をする真彩。
真彩「あぁ、スティーブの事と、今話した事、内緒ね! と言っても、あいつに見られたけどね……ママに知られたらまた、『何やってんの?!』って怒られるし……」
優衣「えぇー……悠ちゃん、お店に居たの?」
真彩「うん……営業部の二人も居た」
優衣「あっちゃー……」
真彩「でも、良いの。見られても……」
優衣「あーあ、開き直ってる……」
真彩、苦笑い。
優衣「でも、一応、スティーブとの事は秘密という事で処理しますね」
真彩「……」
優衣「しかしねー、私の頭の中の社長の秘密の箱がもうパンパン状態で、これ以上増えると破裂しそうですよ」
真彩「秘書さん、上手いこと言うね」
真彩、PC操作している手を止め、優衣の顔を見て笑顔で拍手する。
優衣、呆れ顔。
真彩「秘書さんの頭の中、大変だね。私のパンドラの箱の容量、凄いと思うから… …」
優衣「ホントですわ。いっその事、クラウド利用して、そっちに保存して、私の脳の海馬のデータを一括削除して、空にしたい位ですよ」
真彩「あぁ、そうなるとハッカーに簡単に見られちゃうね、きっと。それは困るなぁ……」
優衣「(笑)そんな事しませんよ! 安心して下さい」
真彩「秘書さんにはあんまり隠し事したくないから話してたんだけど、負担になってたんだね。もう、言わない様にするね……」
すると、優衣、慌てて、
優衣「いやいや大丈夫だから。社長の事は何でも知っておきたいから……」
と、真彩の目を見て言う。
真彩「えぇー、パンドラの箱、容量オーバーで爆発したら偉い事になりますよ?」
優衣「大丈夫。また別のパンドラの箱作るから。ほら、お腹一杯でも別腹ってあるでしょ? 別脳に入れるから!」
必死になって言う優衣に、可笑しくなって笑う真彩。
真彩「素晴らしい発想! 有難う……」
【高槻レオマンション・806号室】
真彩、経机の前に座り、袈裟を着け、読経している。
真彩「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色……」
最後まで読経し、しばらく目を瞑り、祈っている。
そして、祈りから覚め、目が開く。
真彩「生あるものは老病死の苦しみに喘ぐ。必ず終わりがあって別れがある。煩悩に執われるな、真彩! 身は苦しみの集まる所だ。修行、修行! でも……Steve, why are you gone?」
真彩の目から涙が零れ、頬を伝わる。
真彩(心の声)「スティーブ、救けてあげれなくてゴメン……私の事、愛してくれて有難うね……」
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