第15話 ストーカー

【ハーモニー社・茨木店カフェ】


ハーモニー社・茨木店カフェは、高槻店カフェと同様の造りとなっている。

ここも人が多く利用していて、繁盛している店舗だ。

夜も、若い人達が一人席で、PCやスマホを見ながらドリンクを飲んでいる。


夕方、真彩と優衣が、店に入って来る。

優衣、店内の端のテーブル席を確保する。

真彩は注文カウンターに向かう。


アルバイト大学生・青木香奈(20歳)は、目がクリッとして、可愛い笑顔でテキパキ動いている。


真彩がカウンターの所でメニューを見ていると、

香奈「いらっしゃいませ!」

と、明るい声で真彩に笑顔を振り撒く。


真彩「アメリカン二つ下さい。それと、紅茶のマフィンも二つ」


香奈「アメリカン二つと紅茶のマフィン二つですね」


真彩「はい」


香奈「では、お会計はこちらの方で……」

と言って、真彩をレジに進む様に促す香奈。


     ×  ×  ×


香奈「お待たせしました!」  

  

真彩「有難う」


トレイの上に乗った商品を受け取り、優衣の居る席へと歩いている真彩。


真彩(心の声)「あの子、笑顔でテキパキ動いて、素晴らしい! 笑顔はやっぱり人を幸せにするよなぁー。気持ち良くさせてくれるもんね……」


真彩、優衣の所に行く途中、一人席の鈴木勇太(27歳)に目が留まる。



真彩、優衣の居るテーブル席に着く。

そして、優衣の耳元で、


真彩「あそこの若い男、ストーカーだわ。バイトの子、狙ってる」

と、小声で優衣に言う。


すると優衣、小声で、

優衣「えっ? ホント? 何で分かるの?」

と、真彩に驚いた顔で言う。


真彩「直感。ロックオンした。負を感じる」


優衣「あぁー、ロックオンしちゃいましたかー。で、どうします? 警察に電話します?」


真彩「いや、別に犯行に及んだ訳でもないからなぁー……かと言って、放っておけないし……」


事務所で仕事をしていた店長・山下祥太(35歳)が、売場の方にやって来る。

店内を見渡す山下。

客の状況を見ている。


すると、

山下「あっ……えっ?……」


山下、真彩と優衣を見て、驚く。

そして、慌てて真彩と優衣の所にやって来る。


山下「お疲れ様です。来られるのが一時間後だって聞いてたんですけど?」


真彩「あぁ、用事が一つキャンセルになったから、早く着いちゃった。今、おやつタイムしてんの。あぁ、ねぇ……」    

と言うと、山下に手招きする真彩。


直ぐに山下、真彩の顔に自分の耳を近付ける。


真彩、小声で山下に、ストーカー男の事を伝える。


山下「えっ?……そうなんですか?!」   

 

真彩「一応お客様だからね。それに、下手に疑いの目向けると名誉棄損で訴えられる可能性あるし……」


山下「そう……ですよね……」


真彩「彼女、仕事、何時迄ですか?」


山下「あぁ、今日は八時迄です」


真彩「分かった」


山下「?……」



それから、真彩と優衣、おやつタイムを終え、一旦、本社に帰る事となる。


本来なら、山下店長と店の経営状況や店舗レイアウトについて話す予定が、ストーカーらしき男の存在によって、その計画が狂ってしまった。


     ×  ×  ×


夜、八時前、茨木店カフェの外のテーブル席に座り、珈琲を飲んでいる真彩と優衣。

優衣、目配りしながら真彩に話し掛ける。


優衣「あの男、いないですね……あの女の子、可愛いから、ちらちら見てただけじゃないですか?」

と、真彩の顔を見て言う優衣。


すると、真彩、真剣な顔で、

真彩「秘書さんは楽観的ですね……」

と冷めた感じで言う。


優衣「えっ?……」

優衣、真彩を見ると、一点をじっと見詰めている。


真彩「現実逃避したい気持ちは分かりますが、あの子の人生が掛かってるんで、対処します」 

 

真彩は、大きな木を注視している。

  

真彩「あの木の裏にいます」


真彩の言葉にドキッとする優衣。


優衣「えっ?……怖いんですけど……」


優衣、自分の腕を見る。


優衣「鳥肌立ってる……」  


その腕を摩る優衣。

     

香奈が仕事を終え、着替えて、店から出て行こうとしている。


すると、

山下「お疲れ様! 気を付けて!」

と言って、作り笑顔で香奈に言う山下。


山下、不安な気持ちで一杯だ。


その様子をガラス越しに見ている真彩。


真彩(心の声)「あー、顔、引き攣ってるジャン。店長、かなり心配してるなぁー……」


しかし、山下の心配をよそに、

香奈「お疲れ様です」

と、可愛い笑顔で山下に挨拶する香奈。


真彩、サッと立ち上がり、リュックバックを背中に背負う。


そして優衣に、

真彩「跡つけます!」

と、精悍な顔で言う真彩。


すると、優衣、驚いた顔で、

優衣「えっ? 警察に連絡しましょ?」

と言って、優衣、スマホを取り出す。


真彩「大丈夫。ダチに伝えてるから。秘書さんは危ないからここに居て下さい。それと、このカップ、ゴメンだけど、ゴミ箱にお願いします」

と言うと、真彩、歩き出す。


優衣「?!……」


香奈の後をつける鈴木。


鈴木は、ひょろっとした感じで、見た目、悪人には見えないからややっこしい。


一般人に隠れて、犯罪者が紛れて生活しているこの世の中。


善人と悪人の区別がつかないのが現状。


しかし、善と悪を見分ける能力が、真彩は人一倍長けている。


真彩、鈴木の後を、気付かれない様に距離を結構空けて、つけている。


優衣は、真彩が行ってから直ぐに、自分の鞄を持ち、紙コップをゴミ箱に入れ、急いで真彩の後を追っている。


そして真彩に追いつき、黙って真彩の横に並ぶと、真彩が優衣を見る。


真彩「えっ? 来なくて良いのに……危ないよ?!」


優衣「社長を守るのも秘書の役目ですから!」


真彩「(笑)いや、秘書はSPじゃないし……命張る事ないよ」

 

優衣「大丈夫です。社長の為なら命張ります」

と言って、眉間に皺を寄せ、戦闘モードの優衣。


真彩(心の声)「(笑)いや、武道・格闘技の経験もない弱っちい貴女が? 気持ちだけ受け取るわ」


真彩、ちらっと優衣を見る。  

優衣、真剣な表情。


塀で囲まれた大企業の横道は、薄暗い。

そこを歩く香奈。


真彩、直感でここだと思い、歩くスピードを速め、鈴木との距離を縮める。


案の定、鈴木、行動に移し、香奈の真後ろにつく。

そして、香奈に話し掛ける鈴木。


鈴木「青木さん?!」

と、優しい口調で言う鈴木。


鈴木の声で、香奈、振り向く。


香奈「えっ?」

と、驚く香奈。


香奈は、鈴木が常連の客だと認識している。


鈴木「ねぇ、ちょっとお茶しない?」


香奈「……あぁ、早く帰らないとダメなんで……」

   

香奈、少し足がすくむ。


鈴木「そんな事、言わないで、ちょっとだけだから。コーヒーおごるから。あぁ、美味しいパフェの店、知ってるから、パフェ食べる?」


香奈「あぁ……いえ、もう遅いし、結構です……」

と言って、鈴木から離れようとする。


しかし、

鈴木「ねぇ、行こうよ。青木さんと話したくてさぁ―……ちょっと話するだけだから……」

と言って、鈴木、香奈の腕を掴む。


鈴木「ねっ、行こ、行こ?!」


香奈「えっ?……嫌です。止めて下さい!」  

  

香奈、鈴木の手を振り払おうと、抵抗する。


しかし、鈴木に強い力で握られ、逃げる事が出来ない香奈。


香奈「嫌! 止めて下さい!」


香奈、必死で抵抗する。


鈴木「しょーがねぇーなぁー」

と言うと、鈴木、小型ナイフをポケットから取り出す。


鈴木「ちょっと話するだけだから。ねっ!」

と言うと、小型ナイフを香奈の首に向けようとする。 

  

そこに真彩が駆け付け、鈴木の手首を掴み、サッと小型ナイフを取り上げて、手の届かない所に放り投げる。


そして、掴んだ手首をねじって、関節技を掛ける。


鈴木「いてー! 何すんだよ!」


真彩「あんたのしてる事って、犯罪だよ?!」


鈴木「うっせぇー」


真彩「しょうがないなぁー」  

  

真彩、ねじった鈴木の手を締め上げ、素早く地面に鈴木を押し倒す。


鈴木「いてー、やめろ!」

   

真彩「お前、これが初めてじゃないな?」


鈴木「?……」


鈴木、何も言わず、痛そうな顔をしている。


真彩「何回目だ?」


鈴木「初めてだよ」


真彩「嘘つけ! もっと痛くするよ?」   


真彩、鈴木の手首をもっとぐねり、持ち上げ、強く締め上げる。 


鈴木「いてぇぇぇ―……三回目です……」


真彩「呆れた野郎だ。今度またこんな事したら、お前の大事な所、ナイフでちょん切るからな!」


鈴木「……クソッ……」


真彩「えぇ? 何て?」


鈴木「……すいません……」


そこに、警察官の近藤が駆け付ける。


真彩「はい。二十時三十分、現行犯逮捕」    

と、真彩、近藤の代わりに言う。


そして、もう一人、警察官が駆け付け、鈴木を連行する。


真彩、近藤に、

真彩「ねぇ、来るの、ちょっと遅くない?」

と文句を言う。


近藤「あぁ、ボスの格闘するとこ見たくて、見惚れてた。ゴメン、ゴメン」


すると、真彩、呆れ顔で、

真彩「……ったく……」

と言って、口を尖らす。


近藤は、笑顔で真彩に、

近藤「いやー、いつも有難うね!」

と言って、真彩の背中をポンポンする。


真彩「あいつ、ストーカー三回目だって。余罪、全部吐かせてよ?!」


すると近藤、真面目な顔で、

近藤「はい、ボス!」   

と言って、真彩に敬礼する。


香奈は、呆然としている。

何が何だか分からない状況。

香奈の横には、優衣が寄り添っている。

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