第14話 駅
【ハーモニー社・営業部2課】
ハーモニー社・営業部2課では、派遣社員の柴田茜が、PC画面を見ながら戸惑っている。
茜(心の声)「えっ、グーグルの検索画面、無くなってる……あれが使い易いのになぁ……」
茜が考え込んでいると、背後から真彩が、
真彩「右上の×あるでしょ? その下の点三つの所をクリック」
と指示する。
茜「あっ、はい……」
真彩「設定をクリック。そして、検索エンジンをクリック。そこで、好きなのに替えれるよ?!」
茜「あぁ……有難うございます」
と言って、茜が後ろを振り向くと、誰もいない。
茜(心の声)「社長、いつもすいません……きっと、こんな簡単な事が分からないの?……って思っておられますよね?……あぁ、頑張らないと……頑張れ、私!」
廊下をさっさと歩く後ろ姿の真彩に、心の中で礼を言う茜。
【ハーモニー社・梅田店カフェ】
ハーモニー社・梅田店カフェに来ている真彩と優衣。
店には、観葉植物があちこちに置かれてあり、オシャレな感じの店舗となっている。
梅北とあって、人が多く、賑わっている。
店長と話をしている真彩と優衣。
近くに居る従業員達、ちらちらと真彩を見ている。
そして、離れた所でヒソヒソ話をする従業員達。
店員①「新しい社長、若っ……俺より絶対若いわ」
店員②「しっかし、赤字から黒字になんて、出来るのかねぇ?」
店員①「バーカ、無理に決まってるだろ!」
店員②「だよな。三年連続赤字だった分のツケがあるしなぁ。一年で黒字になる訳ないよな。無理に決まってるわな……」
店員①「あの遣り手の前社長が無理なのに、出来る訳ないやろ?! でも、倒産だけはせんどって欲しいわ……」
店員②「俺もそう願うわ。転職したくないし……」
店員①「でも、そろそろ転職先、探さんとな……」
店員②「あぁ、そうやな……」
【JR大阪駅】
夕方、JR大阪駅の構内を歩く真彩と優衣。
大阪駅は、相変わらず海外からの観光客が多い。
歩いていると、色んな国の言葉が耳に入って来る。
以前の様に団体の観光客ではなく、個人の家族連れが目立つ。
JR京都線の電車に乗り、大阪駅から高槻駅に向かっている真彩と優衣。
電車の車両の端に座っている。
真彩と向かい合って座っている一人の若い女性が、隣の車両を時々、見て、悲し気な表情をする。
若い女性、泣きそうになるのをグッと堪えている様子。
真彩、その女性の目線の先を、目で追う。
一人の若い男性が、椅子に座って目を閉じている。
しばらくすると、真彩の目から涙が零れ落ちる。
真彩の横に座っている優衣、真彩の異変に気付き、ちらっと真彩を見る。
優衣「ダメですよ!」
と、眉間に皺を寄せて、真彩に小声で言う優衣。
真彩「?!……」
真彩、ハッと我に返り、指で涙を拭う。
× × ×
JR高槻駅に着き、電車を降り、プラットホームを歩く真彩と優衣。
改札に上がる為のエスカレーターに向かってゆっくりと歩いている。
真彩「あの女性、元カレ見てたんだよね。親に反対されて別れたみたい。可哀想……」
優衣「えぇ? ダメですよ! 人の心に入り込まない! 相手の因縁受けて身体ダメにしますよ?! もうー、憑依体質なんだから、気を付けて下さいよ!」
真彩「あぁ、いや、さっきのは、心に入り込んだんじゃなくて、勝手に前頭葉に映像が浮かんだの。だから、ホントかどうか分かんない……」
優衣「そうなんだ……」
真彩「彼女、お嬢様でね、父親は財力あって、地位、名誉を気にする人みたい。元カレは、母子家庭で、貧乏暇なし安月給だから、彼女の父親に大反対されたみたい。可哀想……」
優衣「いや、人の心に入り込んでるじゃないですか!」
真彩「きっとお金目当てだと思われたんだろうね……父親の立場から娘の幸せ考えると、そうなっちゃうだろうけど……でも、愛し合ってるのに、可哀想……」
優衣「で、涙が出たと……」
真彩「何か、元カレさんとの別れを、自分と重ねたから……」
真彩、苦笑いする。
優衣「そっか……」
優衣(心の声)「結婚を約束した人との破局を思い出してたんだ……可哀想に……」
優衣、真彩の顔を見る。
優衣、それ以上、突っ込んで聞かない。
エスカレータを上がり、改札に行く迄の通路を歩く真彩と優衣。
優衣「でも、本当に気を付けて下さいよ! もう、人をああやって観察する癖、止めて下さいよ!」
真彩「えぇー? 心理学の勉強なのに? 人間ウォッチングは必要でしょ?」
優衣「また憑依でもしたら大変だから、ダメです!」
真彩「大丈夫だよ……」
と、小さな声でボソッと、優衣に反発するかの様な言葉を発した真彩。
すると、優衣、真彩の行く手を阻む様に真彩の目の前に立ち止まり、真彩の目を注視する。
優衣「大丈夫じゃないでしょ?!」
優衣、ちょっと怒った口調で真彩に言う。
真彩「?……」
真彩、驚いた顔で優衣を見る。
優衣、周りに人が居ないのを確認して、
優衣「手首の傷、見たら分かるでしょ?! 憑依されて自殺未遂、何回させられた?」
と、親が子どもを叱る様に言う優衣。
真彩、少しうつむきぎみになり、口を尖らせ、しょんぼりする。
真彩「……はーい。すいません……秘書様……」
優衣「分かれば宜しい!」
上から目線の優衣の言葉で、真彩、ちょっと拗ねた感じで、頬っぺたを膨らます。
すると、真彩の膨らんだ頬っぺたをつまみ、
優衣「ホントにもう! どんだけ心配させんの?!」
と、真彩の顔を見て怒る優衣。
真彩(心の声)「秘書様、こわーい……」
真彩「……すいません……」
と、真彩、神妙な顔で優衣に謝る。
優衣「ホントに気を付けて下さいよ!」
と言って、真彩の頭を優しくポンポンする優衣。
そして、また、歩き出す真彩と優衣。
真彩、優衣の顔を見て、
真彩「あぁ、さっきデジャヴ見た」
と、微笑んで言う。
優衣「えっ? 相当、脳が疲弊してますね?」
真彩「あぁ、脳疲労は自覚ありです。脳のシナプスが凄い勢いで情報伝達して、脳内で炎症起こしてるの分かるから……」
優衣「えぇー? 怖っ……」
真彩「秘書様のお蔭で、毎日、脳に情報詰め込み過ぎてキャパオーバーですから……」
と、冗談を言う真彩。
優衣「キャパオーバー? あぁ、じゃー自律神経やられない様に気を付けないとダメですね。下手したら鬱になっちゃうから……」
優衣、眉間に皺寄せ、何かを考えている。
真彩「……ふふっ、冗談です。大丈夫です」
優衣「いやー、大丈夫じゃないでしょ?!」
真彩「ちょっと言ってみたかっただけ。秘書さん、どんな顔するかな?……って思って……ふふっ……(笑)」
真彩、優衣を見てニッコリ笑う。
優衣「もうー、心配させないでね! ホントに……」
優衣、頬っぺたを膨らまして真彩を見る。
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