第2話 前途多難

【ハーモニー社・本社】


大阪府高槻市に本社があるハーモニー社は、カフェ店を全国展開し、雑貨店も運営している。

本社建物は、八階建ての、しっかりした造りのビルだ。

朝、その建物に、続々と社員達が入って行く。


建物入口、エントランス前に、運転手付きの高級車が静かに到着する。


白い手袋をした運転手が直ぐに降りて来て、後部座席の左側に座っている真彩が降りれる様に、車のドアを開ける。


真彩、座ったまま目を瞑り、じっとしている。

そして、大きく深呼吸をした後、目を開け、車からゆっくり降りる。


真彩、運転手に、

真彩「有難うございました!」

と礼を言い、会釈する。


運転手「真彩様、頑張って下さいね!」


運転手は、握りこぶしを上げ、ガッツポーズして、真彩を励ます。


真彩「はい。頑張ります!」


真彩も握りこぶしでポーズし、運転手に微笑む。

そして、真彩、独り、エントランスに向かって歩き出す。


真彩(心の声)「あー、気が重っ……でも、頑張らねば……ファイト、真彩!」


真彩、途中で立ち止まり、建物を見上げる。

そして、目を瞑る。


真彩「一年間、宜しくお願いします」

合掌し、頭を下げる真彩。

そしてまた、大きく深呼吸する。


真彩、青いマスクを着け、ズボンスーツを着こなしている。

風を切って颯爽と歩く真彩。


しかし、内心はドキドキ、緊張している。

外見はキリッとし、キャリアウーマンという言葉が当てはまる真彩。


そして、ハーモニー社の建物に入って行く。


エントランスの自動ドアが開く。

真彩の秘書となる高橋優衣(28歳)が、真彩を出迎える。


シャキッとした優衣の立ち姿は、真彩の上手をいくキャリアウーマンそのもの。

見るからに、出来る女だと想像出来る。


優衣「おはようございます。社長!」


優衣、笑顔で真彩に頭を下げる。


真彩「おはようございます。宜しくお願いします」


真彩、緊張した面持ちで、優衣に深く頭を下げて挨拶する。


真彩が深く頭を下げたので、優衣、また真彩に深く頭を下げる。


真彩と優衣が受付近くに行くと、受付の女子社員二人が、新社長の真彩に頭を下げる。


真彩も微笑み、会釈する。


年齢を感じさせない風格が真彩にはある。

堂々として、外見は余裕がある様に見えている。



【営業部1課】


ハーモニー社・営業部1課では、社員達が、配られたばかりの社内時報を見ている。 


杉山剛史(28歳)、石川光(27歳)、秋元司(25歳)、前田徹人(24歳)、自分達のデスクで、社内時報の表紙に載っている、社長に就任した真彩の写真をじっと見ている。


杉山「新社長って、めちゃ若ない?」

大阪弁で、同じ課の同僚に言う杉山。


前田「あぁ、若いですね……ひょっとして俺と同じ位かも?」


光「(小声で)部長達が話してたんですけど、この人、超繊細で、精神的な障害持ってるみたいで心配だって言ってました」


杉山「えっ、そんな人間が赤字の会社立て直せる? つーかこんな小娘が何で社長や?」


前田「この会社、もうダメかも?……」

と、前田が呟く。


杉山「おいっ!」

冷めた目で前田を見る杉山。


杉山「思ってても、口に出したらアカンぞ!」


前田「冗談! 冗談ですよ!」

笑いながら否定する前田。


秋元「……あぁ……」

何か言いたげだが、何も言えず、困惑顔の秋元。

   


【大会議室】


ハーモニー社・本社の大会議室で、定例会が行われている。

十人の会社役員達が席に着いている。


会長である髙橋透(58歳)が緊張しながら、始めに挨拶をする。

   

透「えー、社長に就任して頂きました中村真彩さんです。これから改革を進めて頂き、会社を立て直して頂きます。どうか皆さん宜しくお願い致します」


約半数の役員達は、笑顔で、歓迎を兼ねた拍手をする。

しかし、後の役員達は渋い顔をしている。


真彩は、役員達をしっかり観察している。

そして真彩、役員達に社長就任の挨拶をする。  

  

真彩「中村真彩と申します。会社の早期黒字化の為に、粉骨砕身の覚悟を持って取り組みます。どうか若輩者にお力をお貸し下さい……」


その後、真彩が目指すべきビジョンや、目標を明らかにし、黒字化への計画を役員達に説明する。


話終わり、役員達に深く頭を下げる真彩。


渋い顔をしている役員達は、真彩の挨拶が終わると、眉間に皺を寄せている者や、頭を左右に振る者もいる。

真彩の社長就任に反対した者達だ。


真彩、冷たい空気、空間の中、その者達の顔色を伺う。


唯一、温かい空気を真彩に与えてくれる秘書の優衣が、真彩の横に座り、テキパキと紙媒体の資料を見せたり、タブレットPC画面を見せて説明し、真彩を全面的にサポートしている。


そして、年度始めの定例会が終わると、真彩、直ぐに席を立ち、渋い顔をしていた役員達の元に挨拶に行く。


真彩「柳田さん、宜しくお願いします」

と、真っ先に副社長の柳田亮平(58歳)の所に行き、頭を下げる真彩。


柳田は、真彩が目の前に現れると、

柳田「あぁ、宜しくお願いします」

と、普通に挨拶をする。

しかし、笑顔はない。


そして、あからさまに頭を左右させ、真彩の就任に反対していた、専務の生田圭吾(58歳)の所にも行き、

真彩「生田さん、宜しくお願いします」

と言って、頭を下げる真彩。 


生田「あぁ、宜しくお願いしますね」

と言うが、柳田と同じ様に、生田の顔にも笑顔はない。 


冷たい空気に真彩、緊張感が増す。

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