第7話 光明

「魔女は子供を殺して、バラバラに切り刻んでその肉を食べてるの……子供の肉は気の源になるらしいわ……男の子の肉じゃなきゃ駄目らしいの……それもできるだけ太って肉のついた男の子が……」


 僕はようやくすべてを理解した。不味いスープを無理やり食べさせるのもこのためだ。捕らえた獲物をまるまると太らせ、一番肉のついた獲物を食べる。この檻はそのための装置だったのだ。


「僕は今、何番の檻にいるんだ……」


 何回、檻を移動したのかはっきりとは覚えていない──。ただ、移動したのはすべて同じ方向だった。


「今、お兄ちゃんがいるのは……③の檻よ……そして……明日、検査があるわ……」


 僕は愕然とした。言葉がでない。だが考えるしかない。検査があるということは①か②の檻の、どちらかが殺されるということだ。するとそこに空きができるから自動的に一つ数の少ない檻へ移動となる。ということは④より指が細ければ③のまま、もしも太ければ②へ移動ということだ……。②の檻に入った時点で死へのリーチがかかる……。


「グレーテル、ぼ、僕は④の子供の指と比べてどうなんだ……」


 世話役をしているグレーテルなら④の太り具合も見ているはずだ。だが、グレーテルはうつむき、なかなか口を開こうとしない。


「正直、④の男の子の指の方が細いと思うわ……ここにいる子供たちは皆、私たちと


 同じように、口減らしで捨てられた子供たちばかりよ。元々、太っている子供なんかいないわ。皆、がりがりに痩せ細っていて……だからどうしても先に入れられてたくさん食べさせられている方が不利になる」


 ようやく口を開いた。その答えはあまりにも残酷だった。


「じゃあ……じゃあ……僕はこのまま殺されてしまうのか!」


 声を荒げた。死にたくない。死にたくない。こんなところで絶対に死にたくない──。


「お兄ちゃん、声をおさえて……気づかれてしまうわ……」


 グレーテルは泣きそうな顔で言った。


「グレーテル……たのむ、助けてくれよ……おまえ、僕の妹だろ……お兄ちゃんを見

殺しにする気か……お願いだから助けておくれ……」


 僕は妹に泣きすがるしかなかった。だがグレーテルは何も言わず去っていった。どこかで物音が聞こえたのだ。

 その後、グレーテルのいうとおり検査が行なわれた。結果、僕は②の檻に入れられた。④の子供よりも指が太かったのだ。絶望的な気分だった。移動する直前に絶叫が響き渡った。①か②の子供が連れ去られたのだ。


 もう後がない。


 次、比較相手の子供よりも指が太かったら、僕は生きたまま切り刻まれて殺され

るのだ。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。絶対に死にたくない──。


 グレーテルはもうあてにはならない。頼れるのは自分だけだ。考えて、考え抜いた。


 どうしたら助かるのかを──。


 そして僕は、悪魔に魂を売ることに決めた。


 最初から気づいていた。


 大男の、グレーテルを見る目が、あの変態野郎の父親と同じだということを──。

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