第2話 とりあえず家に…(泣

「ちょっと待って! あなたのせいで私が帰れないでしょ! どうしてくれるのよ、責任とりなさいよね!」


出会いはこんな感じであった。


かくしてこの女性、そう、名前は結衣ゆいと名乗ったこの彼女は、今まさに俺の部屋のソファーでふんぞり返っている。ほとんど恐喝に近い。


 とりあえずこれでも、と差し出した桃の果汁が入った天然水が気に入ったのか、ごくごくと飲み干したのち、「もう一杯ちょうだい!」と催促される。


 結衣は天女だといった。いくらお前が人外美人でもそんなわけあるか、と全力で心の中で俺は突っ込んだ。が、口には出さない。いくら秘境の地で水浴びをしていた女がいたからって、おいそれと信じるわけにもいかない。ただ、まあそれにしては、あんな場所で軽装すぎる点は気になるが。



 それと結衣は何もしらなかった。蛇口の捻り方、テレビ、スマホ。断絶した世界からきたのか、演技なのか、わざとなのかはわからなかったが。水で濡れた襦袢では風邪をひくだろうとブカブカだったが俺のTシャツを貸してやり、ようやくそこで話は落ち着いた。


 「破れたところを直してもらうまでは、怖くて飛べないわ」


 そうしてやっと俺は、結衣がいっていたテンが”天界”ということに気が付いた。白い布は羽衣で、それで空を飛ぶのだという自称天女の主張だ。

 「なんとかしなさい、下界の下々の人間」と称していたのが少々気になるところだが、これも心の中で何様だお前、と突っ込んだ。

 

 「下界の下々の人間ではなく、山崎だ」


 無礼な女なので、俺もタメ口へと変える。とたんに眉をひそめられた。怒られるかと思ったが――

 

 「山崎、それで羽衣をどうやって直すの」

 「俺じゃ縫えないから、縫える専門店に持っていくつもりだ」

 

 ふん、と鼻をならし了承してくれた。今日は遅いし、明日の会社帰りにでもミシン屋に持ち込もう。修繕したら、この妙な女も出ていくだろう、と俺は当たり前だがソファーで、ふかふかの環境を整えた俺の最強のベッドで結衣は堂々と眠りについた。

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