第9話

必死だった。

ずっと好きだった。


意識して欲しくて、クラスメイトの冗談に乗っかった。

夫婦扱いされることが、密かな幸せだった。


悠生の恋愛事情について、何も知らないことに気づいた。悲しかった。


好きな人がいると知って、焦った。

絶望した。


好きな人を知りたかった。

でも知りたくなかった。

「凛だ」って言ってもらえるわけないのに、俺以外の名前は聞きたくなかった。


悠生の好きな人は可愛らしい人。

男の俺とは正反対だ。

泣きたいのをこらえて、会話を続けた。

悠生のことが好きだと言ってしまいたかった。


でも、もう相棒のふりして「お待たせ」って言えなくなるのが怖かった。

逃げ出すことしかできなかった。


悠生の隣は、必死に守ってきた俺の居場所だった。

誰にも奪われたくなかった。

誰かにとられるくらいなら、自分から手放そうと思った。


でも、無理だった。

悠生と一緒に文化祭を楽しむクラスメイトに嫉妬するくらい、俺の中は悠生でいっぱいだった。

階段で悠生が告白されているのを見て、すぐに逃げ出すくらい、余裕がなかった。


悠生が、「お前のこと好きだって言ったら迷惑だろ」って言った時、嬉しくて泣きそうになった。

「例えば」の文字を認識して、絶望した。

ただの例え話だとしても、確認せずにはいられなかった。




ほんの少しの期待は、現実になった。

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