第7話
「告白されてたね。付き合うの?」
文化祭の興奮がようやく落ち着いてきた夜、スマートフォンがメッセージを受信する。凛からだ。
「断ったよ。僕、好きな人に一途だから。」
投げやりとも言える返信だった。
文化祭を恋人と過ごした凛への当てつけだ。
凛の隣に居る権利はもう僕には無いのだ。多少自棄になっても許されるだろう。
僕は確かに文化祭で告白された。何故それを凛が知っているのかはわからないが、聞いていた訳では無いのだろう。僕はすぐに断ったのだから。もう凛が知っているということは、明日には噂になっているだろうな。面倒だ。
「この前話した片想いの相手、まだ好きなの?」
なぜ凛はこうも僕の恋愛事情に踏み込んでくるのか。しつこくて、腹が立つ。
「そうだよ。ずっと変わらない」
変わらない。変えられない。他の誰かを好きになれたら楽なのに、それが出来ないのだ。
「羨ましいな、その人」
文化祭で恋人と連れ立ってはしゃいでいたお前が言うな。
すれ違いざま、目を逸らしたお前が。
付き合っているということは、あの人が凛の好きな人だということだろう。なにせ、少し前まで興味無いなんて言ってすべての告白を断っていたのだ。
クールで、スラッとしていて落ち着いた、凛の好きな人。
叶わないと思っていた恋が叶ったのだ。
羨ましがられることはあっても、人を羨むことはないはずだろう。
「それはどうだろうね。迷惑かも。」
「なんで、そんなのありえないよ」
好きな人と結ばれた凛にそう言われたことで、もうどうでもよくなってしまった。
全て打ち明けてしまおう。
これ以上凛に何か言われては、僕の心がもたない。どうせもう、凛は「お待たせ」と迎えにこないのだ。
僕のことなど忘れ、やっと結ばれた相手と甘い日々を過ごすのだから。
「例えば、僕が凛のこと好きだって言ったら迷惑だろ?そういう感じだよ。」
返信が途絶える。
凛はどう受け取っただろうか。ただの例え話だと思っただろうか。「例えば」と入力したのは、断言するのが怖い僕の弱さだ。こんなにも凛のことが好きなのに。
「そんな風に見てたんだ。ありえない。友達だと思ってたのに、気持ち悪い」
そんなメッセージが表示されるのを、今か今かと待つ。画面が切り替わり、僕のスマートフォンは凛からの着信を告げる。
「もしもし」
「もしもし、悠生?さっきの、どういうこと?」
心做しか、お互いに声が震えている。
きっと凛は混乱しているんだ。幼なじみとして過ごしてきた僕が、訳の分からない例え話をしてきたのだ。無理もない。
「悠生は、男の人が好きなの?それとも、」
凛の声が途絶える。
「たぶん、凛が思ってること、そのままだよ。」
流れる沈黙に涙が出そうだ。なにか、言わなければ。弁解しなければ、もう幼なじみにすら戻れない。いや、幼なじみの関係はもう終わっている。それならば……
「僕は男だけど、男の佐伯凛太郎が好きだよ。他の男に惚れたことがないからゲイなのかと聞かれるとよく分からない。ずっと凛だけが好きだったから。凛の隣にいられるだけでよかった。凛が『お待たせ』って迎えに来てくれることが、何より幸せだったよ。でも、これでおしまいだよね。今までありがとう。それじゃ」
どうせ終わるなら、全て言って終わりにしよう。僕の恋愛事情は、これで白紙だ。
僕は通話終了ボタンを押した。
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