第4話

とある昼休み。


いつものようにクラスメイトと弁当を食べていると、ある噂を耳にした。どうやら凛が告白されたらしい。相手は後輩で、僕たちの夫婦ごっこなんて知る由もない。



「奥さんとられちゃうよ、いいの?」



もしや、このクラスメイトは本気で僕と凛が恋愛関係、またはその手前の段階にあると思っているのだろうか。



「あいつが誰と付き合おうが僕には関係ないよ」



そう。関係ないのだ。



「えー、そうなの?悠生たちは本当に付き合ってる可能性あると思ってたんだけどなぁー」


「ありえないよ」



僕は笑う。何を言っているんだ。

僕らはただの幼なじみで、友人で、それ以上でもそれ以下でもない。あいつが離れようとしない限り、この関係が変わることはない。



「じゃあ悠生は今好きな人いないの?」


「うん、まぁ、いるけど」



僕が誰に片想いしていようと、興味を示すやつはいないだろう。上辺だけの恋愛談議なら、適当に肯定しておいた方が後々詮索されずに済む。僕に想い人がいることは事実なのだ。



その日の帰りも、「お待たせ」という声と共に幼なじみが現れる。浮いた噂というのはすぐに広まるもので、昼休みの会話は既に凛の知るところとなっていた。



「悠生好きな人いるって本当なの?」


「いるよ。まぁ、諦めてるけど」


「なんで?相手付き合ってる人いるの?それとも先生とか?あ、不倫はやめときなよ」


「違うよ。全部違う。お前こそ告白されたんだろ?付き合うのか?」



これ以上は、聞かないで欲しかった。叶わない恋の話なんて虚しいだけだ。



「付き合わないよ。興味無い。で、誰が好きなのかは教えてくれないの?」



どうやら僕は話を逸らすことに失敗したらしい。



「教えないよ」



僕の恋愛事情について、凛は何も知らない。知らないままでいいのだ。もし凛が知ってしまったら、今のままの関係ではいられないかもしれない。



「つまんないの。悠生の恋愛事情聞きたかったのに」


「残念ながら、叶わぬ片想いをしてる寂しい男ですよ。僕は」


「そっか、同じだね」



耳を疑った。詳しく聞こうとした瞬間、遮るように凛が言った。



「今日悠生の家寄っていい?」



それ以上は、何も聞けなかった。

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