第2話

放課後の教室は雑踏と化す。



大きな声で喋りながら荷物をまとめる野球部員、これからどこへ遊びに行くか話すグループ、課題の確認をする優等生たち。


明日また会うにもかかわらず、今日の別れを今生の別れのように惜しむ女子たちを見送ると、2年A組は吹奏楽部に早変わりする。もう少ししたら夕焼けに染まるであろう教室は、ホルン奏者に明け渡さなければならない。



放課後の教室にひとり佇んで恋人を待つ。



そんなロマンは存在しない。

現実は漫画のようにはいかないのだ。

逢瀬を重ねるはずの空き教室は鍵のかかった倉庫だし、ともにお弁当を食べるはずの屋上は立ち入り禁止区域だ。


さっさと帰ろう。それが一番いい。



「お待たせ」



雑踏の中で聞こえた声に顔を上げると、目の前の教卓からずいっと顔を出す幼なじみの姿があった。つい、その姿をじっと見つめてしまう。愛しい恋人とは程遠い。



「なになに、また青春の妄想?相変わらずだねぇ」



こうして茶化されるのも、もう何年目だろうか。小学校で出会った幼なじみの凛は、いつの間にか相棒のような存在になっていた。



「お、佐伯じゃん、今日も旦那のお迎え?毎日お熱いねぇ」


「そうなの!ダーリンってばまたぼうっとしてて、支度遅いんだもん」



クラスメイトと幼なじみが交わす会話にも、もう慣れた。

僕らが夫婦扱いされるのはどう考えても凛のせいだ。冗談に冗談で返せるノリの良さがこいつの魅力なんだと思う。ここは他クラスだというのに顔が広い。


こんなに僕に懐いていなければ告白してくる奴もいるだろうに、こいつはどうも、恋愛というものに興味がないらしい。恋人がいるという話は聞いたことがないし、仮に恋人がいるとしたら、僕はとても恨まれているに違いない。クラスメイトが言ったように、凛は毎日僕を迎えに来ているのだから。

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